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クラーナハ展@国立西洋美術館

先日のメッケネム展に引き続き、国立西洋美術館へ。天気もよかったし、まだまだ世界遺産ブームの流れが続いてるのか西洋美術館にあるまじき混雑でしたが、特別展のほうは中程度ぐらいの混み方で、のんびり3時間ほどかけて鑑賞。

私の好きな年代順展示ではなくてテーマ別展示で、同時代のみならずさまざまな関連作品が間に挟まってるので、少しごちゃごちゃしすぎかなー意欲は買うけど…という気もしたんだけど、全体としては面白かった。一通り見終わってから時系列整理するために頭に戻っちゃったけど…

クラーナハ父の1510年代の作品はわりと退屈で道徳的で、子供のための聖書の本の挿絵的なあたりさわりのない(お堅い)雰囲気があり、色気どころかデッサンも正直あまり上手くないんだけど、20年代あたりからめきめきとデッサン力があがってきた印象があった。え、別人…?と思うぐらい上手くなってる。

よく知られる30年代の作品になると、現代性すら感じさせるような構図の美しさや女性の視線の表現の色艶がどっと開花するので、ここも何があったのこの10年の間に…?って感じなんだけど、それがつまりヨーロッパ社会においてプロテスタントの思想が浸透していって、ある種の人間的な自由が推し進められていく時期の変化でもあるんだろうなぁ…と年表と照らしてみると思えてくる。

私が見たかったこのビーナスの立ち姿の絵は1532年の作品で、思ってたよりずっと小さな作品だったのだが、これは「お金持ちが私的に」愉しむために描かれたもの、とのことで、要するにエロ本代わりの絵ですよね。薄暗い寝室で見てもくっきりと女性のヌードのボディラインが浮かび上がるように、白い肌を強調し、S字の輪郭線をくっきりと浮かび上がらせるポーズにしたんだろうなぁ、とか思うと興味深い。

同時代のトレンドからするとクラーナハ父の好みのタイプは比較的スレンダーな女性だったみたい。筋肉フェチのデューラーの描くシックスパックの女神のヌード絵なんかと比べると、デザイン的、漫画的なのだが、色気という意味では5割増し。

画家本人は速描きで知られ、クラーナハ工房はビジネス的にも成功した工房だった。量産型なので、なんとなく芸術性ではデューラーに劣るイメージを持つ人も多いかもしれないけど、内面を掘り下げていくタイプの画家と、魅力的なフォルムや輪郭に囚われるタイプの画家の違いなんじゃないかなーとも思った。

昔の画家はコピーはダメなんて意識はないしクラーナハは工房で弟子も使って絵画を大量生産してたから、うまくいったモチーフやポーズはどんどん次の作品に生かされていく。結果として現代の我々から見ると、繰り返されるモチーフが暗号のようにも感じられて、ミステリアスな印象をもたらすこともある。

でも実際のところは画家に個性とか内面とかが要求されてない時代の絵画だ。そのあっけらかんとした空っぽさと、少しずつ新しい思想が推し進められていく時代に、ビジネスマンかつ職人として画家が表現の地平を広げていくポジティブな雰囲気がどの作品にも息づいてる感じがして、なんかいいなぁと思った。内面がなきゃ価値がないなんていうのは、あくまでつい最近生まれた感性に過ぎないのだ。

最初にごちゃごちゃしすぎと書いたけど、正義の女神を描いた一枚を、中国にある贋作生産の村の画家100人に模写させた現代アート作品の展示は面白かったです。

これだけの数の同じお手本を見て描いた模写が並んで1つとして同じものがなく、なんかもうオリジナルと全然関係ない何かになっちゃってるのもあるし、私たちが見ていると感じ、所有したいと欲望する「美」というものは、結局どこに存在するのだろう?なんてことを考えさせられる。

そもそものクラーナハの作品が「別に画家の内面とかどーでもいいんです」という作品であるがゆえに、その問いは増幅されて展覧会終盤の展開を揺り動かす。ここは素直に成功したキュレーションだなと思った。

グッズはなかなか充実していて、すごく使いやすい形のチケットホルダーとかあったんだけど、やっぱ開けると生首とか使うには微妙かな…ってことで絵葉書のみお買い上げ。ケース付きのミントキャンディーはかなり迷って買わなかったけど、食べたら楽園追放確実って感じのアダムとイブのケースがよかったです。

特別展のほうばっか見ちゃって、果たして世界遺産がらみの西洋美術館オリジナルグッズにセンスのいいものが増えたかどうか確認するのを忘れてしまった。この前来た時は世界遺産最中ぐらいしかなかったと思うのだが、西洋美術館の壁色ラスクとか、ナノブロック西洋美術館とかの新製品は開発されたのだろうか。

やればできそうな気がするんだけど西洋美術館の壁ラスク。ごまペースト入りチョコレートとかでコーティングして。

#アート #展覧会 #国立西洋美術館 #クラーナハ #美術 #2016

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