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奇々怪界 井上洋介展@ちひろ美術館

先週末は、お友達と上井草の岩崎ちひろ美術館に行ってました。今年が開館40周年ということで、記念企画展のひとつとして、(今年3月にも大回顧展を見てきたばかりなのですが)井上洋介の作品展を開催中です。

ちひろ美術館は久しぶりでしたが、雨ということもあって子供づれのお客さんも多く適度に賑わっておりました。3月の回顧展は、タブローのみこれでもか!!と並べた展示だったのですが、今回は「くまのこウーフ」に代表される絵本の原画や若き日のナンセンス・マンガなども幅広く展示したバランスのいい展示です。

さすがはちひろ美術館、絵本作品の実物もちゃんと置いておいてくれてるので、本も読みながらゆったり鑑賞。くまのこウーフの吊りズボンは、文章を読みながら最初は裸のくまのこで描いてたら、途中で「…をポケットに入れて」という文が出てきたので、あわてて追加したものなんだとか。その時「吊りズボンがいいな」と思ったので今のあのスタイルになったんだそうです。

服装とかデザインなんかは事前に作家さんや編集さんと相談するものだろうと思ってたので、驚き。あと、晩年の作品のラフを通しての編集者さんとのやり取りとかも展示してあって、どんな風に絵本ができていくのか、興味深かったかなー。

若い頃のナンセンス絵本でとても素敵だったのは、後書きにちいさな子どもに向けた画家の真摯なメッセージが書かれてたことです。ちいさな読者に初めて出会う「ナンセンス芸術」を楽しんで欲しい、というアーティストの真剣な思いがビンビン伝わってきました。

近頃、あざといポエムで本を読みなれていない大人をお手軽に泣かせて通販サイトで一位をとるとか、イベントやって集客するとかの金儲けにばかり気がいってるような、自称絵本作家や、お笑いタレントの絵本プロデューサーがネットでしばしば物議を醸してますが、井上洋介が若い頃の絵本業界って、子どもを「一流の読者・一流の鑑賞者に育てる」ということに対して、今よりはるかに野心的な本づくりをやってたんだなーって思います。

絵本というのは考えてみたら、まだ美術館に行くには幼い子どもたちが一番最初に触れるアートなんですよね。そういう最初のアート体験に、新進画家を起用してアバンギャルドなナンセンス絵本作っちゃうとか、この時代の絵本出版社ってなかなか攻めてたんだなぁー。いま見ると羨ましいです。

そして、そういう時代の絵本を読んで育ててもらった自分の世代はラッキーだったんだな、と思う。大人になって、現代アートをすんなり楽しめるのって、もしかすると子ども時代のこういう絵本体験のお陰かも知れません。

春の回顧展のあとに作ったらしい出来立てほやほやの画集は13000円とちょっとお高かったので、こんな本をショップで買ってきました。

井上洋介図鑑

この図鑑本は、奥付から見ておそらく井上洋介が亡くなった年の個展にあわせて制作されたもので、結果的に最初期から最晩年までの画業を網羅した本になっています。印刷もこのお値段にしてはいいし、どんな作品があるのかざっと知りたい入門者から、出版情報とかのデータをおさえておきたいファンまで満足できる一冊じゃないかと思う。

巻末のインタビューも、とても読みがいがあります。井上さんの裸婦像をひと目見た馬場あき子さん(歌人)が「ああ、飢えがテーマね」と言って、それを聞いて『そう言えば俺、腹減ったことばかり思ってるから飢えをずっと描いてるのかもしれない』と思う話とか。

絵で表現する人が言葉で表現する人に自分の絵を言語化してもらって、初めて自分の作品を別の味で味わう感動っていうのもあるんだなーって思って面白かった。

70年代ぐらいの、ジャンルを超えた若いアーティスト同士のコラボレーションの記録も面白いです。今でも名の知れてるアーティストがだいたい友だちみたいなこの感じって、1980年代から90年代の初頭ぐらいまでなんじゃないかしら。その後は画壇も文壇も派閥的なものや運動的なものが細分化していって、社会現象化するまで行ってない気がする。音楽はよく知らないけど、演劇も似た感じがします。人口が少なかったからなのかなぁ。

こんな感じで、井上洋介の画業を通して時代の雰囲気も味わえるので、春の個展とはまた違う楽しみのある展示です。タブローでは私のお気に入りのこちらの作品も展示されてて嬉しかったー。

(※写真は撮影自由だった春の展示のものです。ちひろ美術館は撮影禁止のはず。)

このほか、岩崎ちひろの作品もあるので、たっぷり半日楽しめます。企画展の最後の部屋に置かれたメッセージノートに描かれた来館者のメッセージもいいし、カフェも素敵なのでついつい長居しちゃうんですよねー。いい美術館です。今回の企画展は、11月の5日までやってるので、ご興味のある方は是非。

#美術 #アート #井上洋介 #岩崎ちひろ #ちひろ美術館 #コンテンツ会議 #201710

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