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【メンバーシップ限定記事(一部無料)】 ACT - Journey11 ACTの臨床応用例⑵

※本記事は医学的根拠のある論文などから引用をしつつも医師による専門記事ではない為、あくまで個人的見解も含む点をご留意ください。

はじめに

 これまでのJourneyでは、ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)の理論的基盤やコアプロセスを丹念に紐解き、それらがどのように心理的柔軟性を高めるかについて考察してきました。機能的コンテクスト主義や関係フレーム理論(RFT)を軸とした理論的背景から、アクセプタンス(受容)、認知的脱フュージョン、自己の文脈化、現在志向の意識(マインドフルネス)、価値の明確化とコミットメントまでのプロセスを通じ、ACTが多面的な人間理解と行動支援モデルであることを明らかにしてきました。

特に重要なのは、ACTが単なる症状軽減を超えて、人生全体の質的向上を目指すアプローチであるという点です。この特徴は、前回のJourneyで検討したうつ病、不安障害、PTSDなどの精神障害への応用において明確に示されました。ACTは症状の完全な除去や制御を目標とせず、むしろ症状を抱えながらも価値のある人生を築くための方法論を提供します。このアプローチは、特に慢性的な健康問題に対して大きな意味を持ちます。

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現代社会における慢性的健康問題は、その影響が急速に拡大しています。世界保健機関(WHO)の報告によれば、慢性疼痛は成人人口の15-40%が経験する一般的な問題となっており、その経済的影響は膨大な規模に達しています。物質使用障害も同様に深刻な問題であり、世界で約2億7000万人が影響を受けているとされます。さらに、糖尿病や心疾患などの慢性疾患は、全死亡原因の60%以上を占め、医療費の大半を占めるまでになっています。

これらの問題に共通するのは、完全な「治癒」や「解決」が難しく、長期的な管理や対処が必要となる点です。慢性疼痛や慢性疾患を抱える人々は、身体的な苦痛や制限が日常生活の質を蝕み、行動範囲や人間関係、自己評価に長期的な影響を及ぼします。物質使用障害は、物質への依存や乱用が生活機能を著しく低下させ、健康や社会的関係を侵食し、時に命に関わる深刻な問題となります。

従来の治療的アプローチは、主に症状の完全な除去や制御を目指し、問題行動の抑制や制限に焦点を当ててきました。短期的な症状改善を重視し、医学的モデルに基づく介入を中心としてきたのです。しかし、この方法では慢性的な健康問題に十分に対応できないことが明らかになってきています。

これに対してACTは、症状や衝動を必ずしも「消す」ことを目標としない革新的なアプローチを提供します。代わりに、内的経験との新しい関係性を構築し、価値に基づく行動選択を重視します。長期的な生活の質の向上を目指すこのアプローチは、特に慢性的な健康問題に対して効果的である可能性が示唆されています。なぜなら、これらの問題の多くは、完全な解決や制御が困難であり、むしろ「共存」しながら生活の質を維持・向上させる必要があるからです。

慢性疼痛へのACTの応用

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