「社長になるイメージはなかったし、なりたいとも思っていないし」-「感性」の哲学、前澤友作を中心に 1/3

「社長になるイメージはなかったし、なりたいとも思っていないし」

前澤友作は、日本の衣料品通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイの創業者であり、日本を代表する実業家の一人だ。彼の経営哲学の中核にあるのは、「自分」を大切にすることだった。自分の個性や直感を信じ、それに従って行動することが、ビジネスにおいても人生においても何より重要だと説いてきた。

前澤の「感性」の哲学は、彼の音楽への情熱から始まった。高校卒業後、前澤はインディーズバンドで活動を始める。ライブ会場での物販が、彼の起業のきっかけとなった。自分が趣味で集めていた輸入レコードやCDを販売し、好きな音楽を他の人にも聞いてもらいたいという想いから始めたのだ。この経験が、後の彼の事業観に大きな影響を与えることになる。

前澤は輸入レコード販売を事業として本格的に始め、音楽への情熱を追求する中で、それを仕事にすることの喜びと可能性を発見した。しかし、バンドがメジャーデビューした後、音楽活動は彼にとってクリエイティブなものではなくなっていった。曲作り、アルバム制作、ツアー、グッズ販売の繰り返し。やるべきことが決められ、それをこなすだけの日々。前澤は、自分がサラリーマンのようなミュージシャンになりかけていることに気づき、立ち止まった。果たして、この活動を続けていて自分は本当に楽しいのだろうか?と自問したのだ。

「常に人生の選択は、それが楽しいかどうか。」

前澤は、自分たちより活躍しているバンドがたくさんいることを認めつつも、自分たちが本当に活躍できるステージは他にあると直感した。そこで導き出したのが、「ビジネスは趣味の延長線上にあるべきだ」という考えだった。

2000年、前澤はZOZOTOWNの前身となるアパレル商材のEC事業EPROZE(イープローズ)の運営を開始する。自分が着たい服を売りたいという想いを事業に昇華させ、自らの情熱を原動力に事業を成長させていった。この決断は、前澤の「感性」の哲学を如実に表している。

「人生は一度きり。楽しくやったほうがいいでしょう?それが出来ていない最大の原因は本人が「楽しもう」としていないからですよ。」

前澤はあくまで自分を中心に置き、それが楽しいかどうかを考える。楽しむためにはどうしたらいいのか。その答えを事業の中に見出していったのだ。

「短期的な利益を得たいなら、競争を煽るほうが簡単です。でも、それでは会社の雰囲気が殺伐としてくるのが目に見えています。僕はそんな会社をつくりたくて創業したわけではありません」

ZOZOの人事制度は、前澤の思想を色濃く反映している。競争を煽らず、社員が楽しく働ける環境づくりを重視している。

「マネジメント層には常々、部下を幸せにすることをお願いしています。部下が楽しそうに働いているか、働いていないかでマネジメント能力を見ています。

「"仕事を楽しもう"、"カッコいい人になろう"という言葉は、競争を煽るより、よほどスタッフの心に響くし、会社にもいい影響をもたらします。社員が自分の働き方を考える引き金になるからです。」

「社員の皆には"楽しくやりなよ"と常日頃から言っています。時計を気にしながら仕事に取り組むのではなく、時間を忘れるほど楽しみながら知恵を絞る方が良いものができる。」

一般的に、競争を煽らないということは、頑張りが給料に直接反映されにくいことを意味する。それでも、ZOZOにはそこで働きたいという人材が集まる。その理由を、前澤はこう語る。

「人を集める秘訣は、自分たちがどれだけワクワクしながらサイトをつくれるかじゃないでしょうか」

「ビジネスモデル自体はインターネットで洋服を売る"通信販売"で目新しいものではありません。他社との違いは、そこにかける情熱です」

前澤の哲学では、楽しもうとする気持ちが利益につながり、人を集める原動力になる。マネジメント層は部下が楽しそうに働けるように心がけ、社員は楽しみながら知恵を絞る。そうした中で、いつの間にか売上が立ち、上場を果たすに至った。ZOZOの成功は、まさにこの「感性」の哲学の実践の結果なのだ。

「気付いたら売上が立ってて上場していた。楽しいことを追い続けた結果、利益がついてきて。稼ごうと思ったことは1回もない」

前澤の「感性の哲学」は、「楽しいかどうか」と「いい人かどうか」の2つの要素から成る。

まず「楽しいかどうか」だ。前澤は「楽しいと思えることを追求することが、何より大切」と説く。自分が心から楽しいと感じられることに打ち込むことで、イノベーションが生まれると考えたのだ。「自分が本当にワクワクすることを追求しよう。そこにビジネスチャンスは潜んでいる」と語っている。

次に「いい人かどうか」の重要性を説いた。前澤は「いい人でいること、誠実でいることが肝心」と強調する。ビジネスにおいても人間関係においても、誠実さを貫くことが、信頼を生み出し、長期的な成功につながると考えたのだ。

前澤友作の「感性」の哲学は、自分の感性を信じ、楽しさと誠実さを追求することの重要性を説いている。この哲学は、音楽への情熱から起業家としての活動、そしてZOZOTOWNの設立と経営に至るまで、一貫して表れている。効率と成果を追い求める現代社会において、「感性」の大切さを再認識することは、とても意義深いことだ。前澤友作の哲学は、私たち一人一人が自分の感性を大切にし、楽しさと誠実さを追求する生き方の重要性を教えてくれる。自分らしく、感性を信じて生きること。それこそが、前澤友作の思想だ。


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