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林光《流れ》(1973)まわりみち解説(4)作品概要

明日6月17日、駒場キャンパスで開催されるコンサートで演奏される林光《流れ》(1973)。今回は、ようやく作品の中身に触れます。当日プログラムに書いた内容に、少しだけ体裁の変更を加えただけですが……。

作品概要

林光(1931-2012)
《流れ:簡易楽器をともなった 声と動きのための ある架空の儀式。3人の女性の演者による。》(1973)

 《流れ》は、オペラシアターこんにゃく座との協働によって日本語オペラに新たな方向性を見出したことで知られる林光の作品である。林は武満徹、一柳慧らと同世代であり親交も深かったが、作風の面では前衛の旗手であった彼らとは一線を画した。

 本作は図形楽譜が使用されており、形式面では前衛音楽の潮流を受け継ぐ異色作だが、日本語の発話への強い関心や農民歌や宮沢賢治からの取材といった点で「林光らしさ」が充分に発揮されてもいる。また本作は、「ミュージック・シアター」や「シアター・ピース」と呼ばれる1960年以降に流行したジャンルに属する。日本においては柴田南雄によるシアター・ピース作品がよく知られるが、彼の最初のシアター・ピース《追分節考》が《流れ》と同年の作品であることは注目に値する。

 本作の副題には「三人の女性の演者による」とあるが、1973年の初演時は一人の女性歌手により、1976年の再演では3人の女性と1人の男性によって演奏された。今回は1974年に出版された楽譜に基づいて演奏するが、1973年と1976年の公演に際しての林自身の手稿譜を参照している。

《流れ》の「流れ」

 ここからは楽曲の説明を付け加えておきたい。《流れ》は六つの部分からなっている。

 Ⅰは演者がばらばらに歌をうたう。歌詞は万葉集巻十三3299番(異伝歌)による。

 Ⅱは星の和名の読み上げと楽器。楽器が奏する音は図形楽譜上に星のように散りばめられている。

 Ⅲはそれぞれが各地の鳥追い歌をうたう。それに加えて楽器。

 Ⅳはふたりが農民歌のようなものを歌いながら楽譜に描かれた代掻図のとおりにすり足で歩き、もうひとりは代掻き口伝を朗誦する。

 Ⅴは楽譜上に書かれた言葉を唱えながら舞台上をかけめぐり、振る楽器を鳴らす。

 Ⅵは楽器の演奏とともに、ひとりはⅠの歌をうたい、ひとりは万葉集の口語訳を語る。最後に『銀河鉄道の夜』の一節を朗読する。

次回以降は、作品の中身をくわしく探っていきます。おそらく、まずはこの作品の演奏史を見ていくことになるでしょう。

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