フルスペック
私は、夏でも上着を着る。最近はテレワークが多くなったこともあり、ビジネスカジュアルとかで、スーツというよりも、ジャケットを着ることが多くなり、ノーネクタイとなってきたが、去年まではスーツの上下にネクタイ姿だった。
よく、暑くないかと聞かれることがある。確かに、暑いときには、暑い。しかし、もともと、暑さにはある程度強く、寒さには強くない体質なのかも知れない。そしてそれは、夏生まれというのが、ひょっとしたら関係しているのかも知れない。
今朝も、電車に乗っていて、非常に寒い思いをしている。駅に着くまでは歩いて汗をかき、ホームではその暑さが続いていて、時には汗を拭うのだが、一度乗車してしまえば冷房が効いている。弱冷車に乗れないことも、まま、ある。弱冷車に乗っていてでさえ、暫くすると、寒くなってくる。
そういうときに、上着は、便利である。着ているだけで、寒さをしのげる。もともと暑さには強い方だし、とてつもなく暑くなれば、その時は潔く上着を脱げば良い。
上着を脱ぐときに注意をしなければならないのは、ポケットに入れているものを落とさないようにすることだ。どうしても転がり落ちて、気が付かず、どこかに忘れてきたりすることになったりする。私は、ポケットに、いろいろなものを入れている。まるで、ドラえもんのポケットだ。
私は、だいたいの持ち物に、ストラップをつけている。そしてそのストラップの先にはクリップをつけていて、ポケットの端に噛ませてある。多少のことがあっても、ここまでしていると、モノが知らないうちに落ちてしまっていて紛失するというリスクを軽減することができる。
上着をいつも、着ていると、ポケットには色々なモノが入っていて、それを、こうやって守っているのだ。
今日も、
上着を着ていて、暑くないの?
と、聞かれる。
そのたびに、少しだけ答えに窮するのであるが、
私は、
ちょっと寒がりなんですよ。
と、答えている。
汗をかくと、体温を奪われていく。汗かきだけに、一度落ち着いてから先、冷房環境下でさらに体温を剥奪されていくのには少し恐怖感すら覚えることがある。
今日も、会議室で、
寒くないですか?
という会話がなされている。そして同時に、
ちょうど良い温度に、ならないものなのかな。
というため息も聞こえてくる。
でも、よく考えると、体感温度というのは、人によって違うのだ。車両に今乗った人は、まだまだ暑いし、既に数分間座っている人はもう落ち着いている。そして、数駅前に既に乗っていた人は、寒いかも知れない。そういう車両を、乗ってきた人が涼しいと感じるほどに、強く冷やしている。そういうことなのだ。
考え方は、人それぞれだが、上着を持っていれば、自らの調整をきかせることができる。
そういうわけで、上着を着ている。秋口になってきて、上着を着る人もチラホラ出て来ている。10月に入ると、一気に増えるのだろう。
去年の夏までは、営業という職種であることもあり、ネクタイを締めていた。真夏に、スーツ上下に、ネクタイをしている。街中で、そんなビジネスマンに巡り会うことは、希有だった。完全に、私は、浮いていた。
私の上司は、経営会議でも本部長に何度も問われたことがあるとこぼしていた。
あいつには、なんだかポリシーがあるんですよ。
そう応えながら、
お前のポリシーを、いつか本気で教えて欲しいよ。
と、いつも苦笑いをしていた。
その上司がつけた、私のあだ名は、
フルスペック
だった。