ゴム通し
ジャージパンツのゴムがユルユルになってしまい、全然腰に引っかからない。
締め紐で結んでいたが、強く引っ張りすぎて切れてしまい、おまけにスルリと抜けてしまった。
家内に修復を依頼したが、素気なく断られた。
「コジくん、そういうことはコジくんのミッションだよ」
心の中の、リトルkojuroが、ボソリと、呟いた。
さっちゃん(注1)は面倒くさがり屋なんだよなぁ……
私の目の前には、いつものマイクロテープが置かれている。
お疲れ様。コジくん。
今回のミッションは、ジャージのゴム通しだ。
分かっているとは思うが、途中で挫折したり、証拠隠滅を図るような、エージェントにあるまじき行為だけは、決してしないように。
例によって、君、もしくは君のメンバーが捕えられ、あるいは殺されても、当局は一切関知しないからそのつもりで。
プシュ〜ッ!
マイクロテープは煙と共に消えた。
ゴムを準備し。
それこそ、必須アイテムのゴム通しピンを持ち出す。
ちょちょいのちょいで終わると思っていたのである。
だが。
せっかく通し終わったのに、ピンから外した瞬間にゴムは無常にも縮んで穴の中に消える……。
そんなことを2度繰り返した。
家内が呆れたように呟いた。
「コジくん、不器用だねぇ」
なんのはなしですか。
去年のそんなこんなを家内に語ろうとしてソファーをみると、家内が脚を指さして笑って言った。
コジくん、もう、私がいなくても何でも出来るね。エージェントコジだもんね。
マッサージをすると、家内は上機嫌である。
家内が上機嫌だと、我が家は、明るくて平和である。
だから。
これで、いいのだ。
(注1)さっちゃんとは、家内のことである。我が家の実質の最高権力者なので、別名、女王陛下という呼び名もある。