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HUNDRED

随分と昔の話である。平成の初め頃。兄の家に、産まれたばかりの長男を連れて遊びに行ったのである。

あの頃は、24時間戦えますかなどという言葉もあったくらい、働きづめの時代だった。

とにかく時間が無くて。掃除も洗濯も、家事全般はすべて家内にやってもらっていた。なにひとつ、自分で自分のことをしない、そんなダメサラリーマンだった。

兄もご多分に漏れず。時間が無くて。当時は独り身だったこともあり、土日も出社したりして仕事をしていた。

兄も、とにかく時間が無くて。母が関西から何ヶ月かに一度やってきては、掃除や洗濯を一通りして帰るようなこともやっていたようだ。

兄の家は板橋にあり。私は千葉に住んでいて。車で兄の家にやってきたのは良いけれど、駐車場を見つけるのに時間がかかり、短時間の路駐をしておいて、幼い長男を、ポンと兄の家に置いてすぐに駐車場を見つけに出た。

数分後、首尾良くそう離れていないところの駐車場に駐車して、家内とともに兄の家に着くと、長男が号泣していて。兄がオロオロとしながらなだめすかしていた。

兄にとっては長男は血の繋がった甥で。可愛がってはくれていたが、長男からすると、独身男の狭っ苦しい、ろくに整理整頓していないような部屋に置いて行かれたと思ったのであろう。

私も、あまりの整理されていない状況にちょっと気圧けおされつつ、少し半御飯を食べる場所を整えるためにちゃちゃっと片付けたのである。

押し入れを開けて、驚いた。

大量のパンツが雪崩なだれ落ちてきたのである。


いったん泣き止んでいた長男がまた、号泣し始めた。そして、なかなか泣き止まなかった。


心の中の、リトルkojuroが、ボソリと、つぶやいた。

幼子には、酷な景色だったのだろうなぁ。


兄は、洗濯が出来なくて。新たなパンツをコンビニで買っているうちに、パンツが増え。母がそれを洗濯してという具合に大量のパンツをローテーションするようになり、そんなことになったそうである。

兄はその後結婚して。娘がふたりいる。男の子はいないので、今でも長男のことを可愛がってくれている。就職の時には保証人にもなってくれたりして。長男も兄のことを慕っている。


だが、長男に当時のことを聞くと、記憶は朧気おぼろげなのだが、押し入れからパンツが100枚雪崩れ落ちてきたことは鮮明に覚えていて。


パンツ100枚伯父おじと、兄のことを時々呼んだりしている。



そんなこんなを語らおうとしてソファーを振り向くと、家内が足を指さして笑って言った。


お兄さんは、でも、本質はきれい好きだからね。コジくんみたいに、何日も同じパンツを履けないのよ。


……。


夜ごとのミッション発動だ。


マッサージをすると、家内は上機嫌になる。

家内が上機嫌だと、我が家は平和である。





だから。





これで、いいのだ。

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