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【小学生リメイク版】全力

※今回の記事は、8/22に投稿した「全力」のリメイク版です。note公式で募集のポプラ社「#こんな学校あったらいいな」用にリメイクしました。私の記事は、事実をただ書いており創作はひとつもありません。鶴木マキさんからのコメントがきっかけで、試しにやってみました。何の経験も知識も力量も構想も時間も無いkojuro初めての、ちょっとした創作。いつもより少し長いです。気の向いた方だけ、その貴重なお時間を頂戴できたらと思います。

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夏休み前のホームルーム。連絡事項が伝えられたあと、僕たちはクラス対抗全員リレーのことをみんなで話し合うことになった。

リレーは、男子も女子もクラス全員で走る。それが決まりだ。走る順番を決めなければならない。でも、僕たちのクラスは、その前にやらねばならないことがある。そんな予感がした。


みきおは、いいやつだ。僕にはそれ以外の言葉が見つからない。ずいぶん前の徒競走で、みきおのことを初めて知った。とにかく、走るのが遅いのだ。体も小さいのだが、それだけではない。運動することが、にぶくて、うまくできない。

でも、驚いたのは、みきおは絶対にあきらめないのだ。ただ一心に前を向いて走り続ける。手足をバタバタさせ、格好の良くないフォームで、でもへこたれず、なりふり構わず走りきる。大差をつけられながら、顔は、むしろ少し微笑んでいる。

そしてみきおの応援は、すごい。みんなのことを、誰も真似できないほどの大声を張り上げて応援する。

「大丈夫だ! まだいける! あきらめないでいこう!」

最初は、恥ずかしくないのかとか、思った。でも、それが、みきおなんだと、6年生で初めて同じクラスになって知った。


みきおはいつも笑っていて、人を励ましている。絵が上手で、その絵は息を飲むくらい美しくて、まるで神様の絵なのだ。みきおが怒ったりしたところを見た人は、絶対にいない。いつもみんなを包み込んで、みんなの心に火をつける。そういう存在だ。

今のクラスは、2つの意味で特別なクラスだ。ひとつは、みきおがいること。そしてもうひとつは、よくここまで集めたなと思うくらいに、運動が得意な仲間ばかりが集まっていた。だから、秋の最後の運動会は、僕たちのクラスはダントツで優勝してもおかしくなかった。


ホームルームで、ながた先生が切り出した。

「何のために走ろうか。全員で。」

先生は、いつも僕らに謎を差し出して、あとは自分たちで考えさせる。

「...........」

ここで意見を言う仲間は、誰もいなかった。

時が止まったような重い雰囲気の中で、のぼるが口を開いた。

「先生、俺たちは全員で走ります。そして、勝つ!」

ちょっと教室がざわついた。

勝つ。そういう言葉を、誰も期待していなかったからだ。

その時、あんちゃんが立ち上がった。

「いや。勝つんだよ。俺たちは。作戦を、実は、もう、考えているんだ。」

そして、のぼると、あんちゃんと、みなとと、つばめが、立ち上がりさっと教壇のところに集まった。

そのメンバーをとりまとめた、みなとによると、このクラスは足の速い仲間が集まっている。ひょっとしたら勝つ可能性があるというのだ。足の速い者が先に走り大差をつけてアンカーにバトンを託す。もちろん、アンカーは、みきおだ。

クラスのみんなは、みなとの説得力のある説明に感心し、誰も反対する者はいなかった。だが最後に気になるのは、やはり、みきお自身の気持ちだった。

クラス全員の目がみきおに向かう。みきおはいつになく顔を伏せていたが、顔を上に向けてゆっくりと立ち上がり、口を開いた。

「僕は、走りたいです。みんなと、勝ちたい。あきらめない......。」

「みんなは、一緒に走ってくれますか.....。」

少しの間、教室は静まりかえったが、僕がゆっくりと拍手をすると、みんなが少しずつ続いて大きくなり、立ち上がり、気がつくとみきおを囲んで、その拍手はしばらく鳴り止むことはなかった。


翌日から夏休みだったが、みんなで学校に集まり、作戦が着々と実行されていった。まずみんなの正確なタイムが計られ、それを少しでも縮めるようにとそれぞれに課題が与えられた。それを1人残らずが家に持ち帰り毎日まじめに取り組んでいった。もちろん、一番の問題はみきおだ。みきおの指導は、毎朝毎晩、のぼるとあんちゃんとみなととつばめが、つきっきりで行った。みきおは、なんと、夏休みの間に8秒近くもタイムを縮めたのだ。奇跡の女神が、僕たちに手招きしているようにさえ思えた。

夏休みが終わっても作戦は続き、9月に入ると運動会の練習が始まった。直前には、1日通しての予行演習に入る。だが、クラス対抗全員リレーのような演目は、形式的な始めと終わりの段取りの確認だけだった。僕たちの作戦は、ぶっつけ本番だった。


運動会当日の朝、教室で、全員で円陣を組んだ。中心には、あんちゃんが出た。あんちゃんは、みきおと幼稚園の頃からの親友だ。2人には特別な友情がある。みんなが肩を組み終わった時、あんちゃんが言った。

「みんな、本当に、ありがとう。」

「俺は、こう、思うんだ。」

そして一息、深呼吸をした。

「人はみんな、幸せになるために生まれてきた。今日、全員でそれを、証明しよう!!」

みんなが、声を合わせ拳を突き上げて叫んだ。

「おー!!」

みんなでハイタッチをし、拍手で円陣を解き、ゆっくりと教室を出た。


プログラムが進み、いよいよ最後のクラス対抗全員リレーだ。6年生全員がトラックの内側に整列して座っている。第一走者のみなとは、もうスタートラインの位置についている。

一瞬の静寂の後、

パン!!

かわいたピストルの音が鳴り響いた。

絶好のスタートダッシュ。走り出すと同時にトップに躍り出た。グングン後ろの走者を引き離していく。

「よし!! 行けるぞ!!」

大声を最初に出して応援し出したのは、みきおだ。みんなの大声がそれに続きさらに大きくなる。

第2走者、第3走者、僕も含めて、全員が最高の走りを見せていく。半分くらい走り切ったところで2位のクラスを、もうトラック半分ほど引き離していた。

ところが、後半に入ると、差が広がらなくなってくる。他のクラスも、足の速い生徒になってきているのだ。だが、みきおの前の3人、のぼる、あんちゃんと、女子のつばめは、市でも表彰されるくらいの俊足だ。この切り札でさらに引き離し、圧倒的な差をつけたまま、みきおにバトンを渡す。これが、僕たちの作戦なんだ。

のぼるも、あんちゃんも、つばめも、期待通りの俊足で最後にいっそう引き離し、もう2位のクラスにトラック4分の3以上の差がついている。


みきおは、ひとり、バトンゾーンに立っていた。さっきまでは、大声をあげて、クラスのみんなを応援していた。白いタスキをかけ、胸に手を当て、少しうつむいている。まわりのアンカーたちに比べてあまりにも小さい。だが、その姿に、僕たちはいっそう奮い立った。

ちょうどそこへ、圧倒的な差をつけたまま、全速力のつばめが、バトンゾーンに飛び込んできた。そしてバトンを渡しながら、ありったけの声を出して叫んだ。

「全力で、走れ!! みきお!!!」

その声は、校庭の隅で遊んでいた小さな子供たちが一斉に振り返るくらいに響き渡った。そしてそれが、クラス全員を立ち上がらせた。


みきおが、走り出した。いつものように格好なんて良くない。手足をバタつかせて、少しでも早く前に出ようともがき、腕を激しく前後に振り、なりふり構わずに走っている。でも、僕たちには分かった。みきおがどんなに練習してきたか。本気だったか。みきおの走りは、夏休み前とは比べ物にならないくらい、僕たちには、美しかった。

クラスの全員が、こぶしを振り上げ、両手を口に当てて、飛び跳ね、乗り出し、男子も女子も、みんながみんな、ありったけの声を張り上げて応援している。

「あきらめるな!! がんばれ!!! 全力で、走れ!!!」

すると、教員席にいるはずの、ながた先生が見えた。ながた先生は、最終コーナーの前の、空っぽの6年生の観客席の前に出てきて、まるで野球の走塁コーチのように、グルグル手を回している。

「走れ!! がんばれ!!! あきらめるな!!! つらぬけ!!!! 走りぬけろ!!!!」


でも、差は、みるみる縮まっていった。4コーナーの手前では、もう、2位から5位までの集団が、みきおを飲み込もうとしていた。

僕たちには、いけるかどうかなんて、わからなかった。というよりも、勝ち負けなんて、もう、どうでも良かった。みきおが、クラス全員の繋いだバトンを持ってゴールを駆け抜けようとしている。ただ、それだけだった。

「あと少し! あと、少しだ!」

「いけ! いけ!! いけー!!!」



ゴール直前、5mのところで、みきおは、とうとう、2位から5位の集団に、抜き去られた。

勝負は、ついた。最下位だ。


みきおがゴールラインを越えた瞬間、僕たちクラス全員が走り出していた。そして、みんなでみきおに抱きついた。

涙が止まらなかった。泣くのは格好が悪いと教えられたことがある。だから人前で泣いたことなんて無かった。でも、もう、止まらなかった。

あんちゃんも、つばめも、みなとも、のぼるも、みんな、気がついたらみきおを中心に抱き合いながら、ただただ、泣いて、泣いて、泣いていた。

まわりの観客も泣いていた。先生たちも泣いていた。いつもクールな、ながた先生も一緒に泣いていた。



スピーカーから、声が聞こえてきた。

「ただいまから閉会式を行います。生徒のみなさんは、閉会式の位置に、すみやかに整列してください。」

心なしか、その声も、ちょっと湿った声だった。

僕たちのクラスは、みきおを中心に抱き合いながら、そのかたまりを少しずつ少しずつほどきながら、ゆっくり、ゆっくりと、列の中へと溶け込んでいった。

僕たちの幸せを、秋の真っ赤な夕日が照らしてくれていた。








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