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コインランドリー
我が家の目先に、そのコインランドリーは、ある。昨年の初秋に開店した。
次女が運動部に所属していることもあり、洗濯ものを大量に洗うことも多く、コインランドリーが近くに出来ないかと密かに心待ちにしていた。
ある日新聞の折り込み広告で家内が飛びつき、一度行ってみようということになった。実際に行くまでも無いが、本当に、近い。目と鼻の先なのである。
店内に入ってみて色々調べてみると、布団や枕も洗える。一気に大量に洗える。靴は専用洗濯機があり、どれもこれも満足だった。
早速会員になりプリペイドカードを作り、お金をチャージした。
あれ?
家内が不審な声をあげた。
広告についていたクーポンが読めないのよ。
おお。出たぞ、クーポン。
で、いくらなの?
200円。
今から使おうとしている金額総額からすると、ちっぽけな金額だ。だが、一度乗りかかった船。それと、新装開店とほぼ同時期に来ていて、それは他の顧客も困るだろうということで、調査できるところまで調査することにした。
まずは、券売機に書いてあるコールセンターにかける。その指示の通りやってみるが、なかなか埒が開かない。そのうちコールセンター総括拠点までたどり着いた。新たな担当責任者と何度となくいろんなトライアルをやってみるが、どうもこうもうまくいかないのだ。そして、ちょっと調べとみるので時間をくださいということで、こちらの電話番号を伝えて折り返しを待つことになった。
ほどなく電話がかかってきた。今度は男性だ。そして、申し訳ありません。システムエラーなのでどうすることも出来ず、クーポンは使えませんと言うのである。
私は、だとしたら仕方が無いですねと、横でちょっとふてくされ加減の家内に目配せしながら、その電話の主と暫く会話をしていた。すると電話の主は、オーナー兼エンジニアだという。このシステム自体をプログラムしたとのこと。そして今、店の監視カメラからこちらを見つつ電話していると言う。
私は、監視カメラに手を振りながら、大変ですねぇとか、実はコインランドリーが近くに出来るのを心待ちにしていたので潰れないようにと願っているのだとか言いながら会話をしていると、色々なことを教えてくれた。
最近のコインランドリー経営事情とか、効率的な洗濯乾燥の仕方とか。ほどほど話をしたので、私は、勉強になりましたと言って電話を切ろうとした。すると、
ちょっと待ってください。
今から使おうとしているのは、7番と8番で間違いないですか?
はい。そうです。
では、こちらからリモートで稼動させるので、今回のお代は頂かないことにします。
なんと、色々な情報をもらった上で、クーポンの代わりに洗濯代を払わなくて良いと。その上、今日使えなかったクーポンは、明日には使えるようにシステムを書き換えて対応するというのだ。
電話を切り、家内の目を見る。大体のいきさつはもう、漏れ聞こえていたようだ。
オッケーっ!!!
このオッケーは、よくやったという私への労いの言葉だと心の中で解読した。家内はそう言いながらすぐさま洗濯にとりかかる。そして、クーポンを大切にすることで得することもあるのだと長々と語った。
そのコインランドリーは、今でもちゃんと営業している。私は通りがかるたびに中をのぞき込み、稼働のチェックをしている。まだまだ、続けてくれそうだ。
そのたび、あの日のやりとりのことを思い出す。