ペット
愛すべき甥の話も、今宵で4夜目。最終夜である。
甥は優秀な男で。超一流企業に勤めていて高給取りである。幼い頃から博学で落語をも心から嗜む感性がある。父との仲は少しギクシャクしていて奔放、独自路線だが、愛すべき家族同様のハリネズミの為には、緻密な作戦を練りながら追い詰められたらなり振り構わず無理をも押して身体を張り庇う。
今の若者で、ここまで熱い人物がいるだろうか?
恐らく探せばいるのだろう。だが、私のほんの近くにいるというところに感慨深さを感じる。
甥は、飲みに行くと言いつつ、ひとしきり喋りつまみ食いをしつつ食卓にいた。
何度も書くが、この時のメインテーマは、義母の悩み事を家族全員で聞くことだったが、すっかり主役が交代して甥の独壇場になってしまっている。
義弟は、またさらに甥を叱り始めた。
「おばあちゃんの仏壇に動物を置くのは違うんとちゃうか?」
甥は、義弟が本気で怒っていることを感じ、ばつが悪そうにボソリと謝った。
すると義妹も甥の背中をバシンと叩く。
「やめてよ!食事の場所やで!」
甥は、放屁したようだ。何度となく。
徐に甥は、口を開いた。ちょっと前の昔話をし始めた。ニコニコしながら。
すると、義母がたしなめる。
「もう、あの子のことは喋りなさんな!」
どうやら昔の彼女の思い出話をしていたらしい。
義妹が言った。
「あんた、もう間に合わへんのちゃう?飲み会、待ち合わせ?早よ、行きなさい!」
甥は、ニヤニヤしつつ腰を上げ、ようやく出て行った。
だが。ほんの数分で、なぜか戻ってきた。忘れ物だという。
また、食卓に顔を出す。満面の笑みで抱いていたペットは、まるまるとしたネコだった。
「コジさん、僕の愛猫ですわ」
私にわざわざ会わせてくれたらしい。甥の家族を。
義弟がボソリと言う。
「愚息と愚ネコですわ……」
このネコ。名前をきちんと教えて貰ったのだが。不覚にも忘れてしまった。タイミングがおかしすぎて。
義弟の悩みも聞く。だが、そんな中でも息子のことを尊重している。そして愛していることが伝わってくる。
一方、甥の悩みや将来の夢についても聞く。甥は、父を尊敬していると言うのだ。その目に、嘘偽りは無い。
心の中の、リトルkojuroが、ボソリと、呟いた。
それがどうして二人、相容れないかなぁ?
なんのはなしですか。
そんなこんなを家内に語ろうとしてソファーをみると、家内が脚を指さして笑って言った。
コジくん、他人事は良いからさぁ。今日はね、腰ね。腰マッサー(注1)頼むわ。
マッサージをすると、家内は上機嫌である。
家内が上機嫌だと、我が家は、明るくて平和である。
だから。
これで、いいのだ。
(注1)マッサーとは、マッサージのことである。家内のさっちゃんがそうやって、略して言うのである。さっちゃんへのマッサーは私の最重要の日課である。
(注2)さっちゃんとは、家内のことである。我が家の実質の最高権力者なので、別名、女王陛下という呼び名もある。