文明の利器
我が家の車には名前がついている。その名を、小志朗という。
その、小志朗とのカーライフなのだが、小志朗は燃費が良くてよく走り、実に快適である。
小志朗と家内と私で、区切りとして愛でようと約束していたことがある。
それは、走行距離がぞろ目になったらお祝いしようということだった、ハズなのである。
心の中の、リトルkojuroが、ボソリと、呟いた。
それがなかなか、上手くいかないんだよね。
だが。
夏に、絶好の機会を迎えたのである。あと少しで、55,555kmになるというタイミングを。
家内も、あと少しだと大喜びだった……ハズだった。
だが。
人間、忘れる生き物で。だからこそ、人間なのだろう。
すっかり忘れて、後で気づいてガックリ来て。だが、しばらくしたある時、ふと、家内がガソリンが足りないかも知れないと言いだしたので、大丈夫かどうかを確認した。
アプリを開くと、今の小志朗の基本情報は全てわかる。
この画面を見ている私を横目で見ていた家内が怒り出した。
「コジくん、いつでもどこでも、わかるんじゃん、小志朗のこと!」
「だったら、確認してよ!」
……。
なんのはなしですか。
昼間のそんなこんなを家内に語ろうとしてソファーをみると、家内が脚を指さして笑って言った。
コジくん、アプリという文明の利器を持っているんなら、常に意識しておいてよ。記念の瞬間は、一瞬なんだから。
おっしゃる通りです。
倍返しを、自ら申し出た。
マッサージをすると、家内は上機嫌である。
家内が上機嫌だと、我が家は、明るくて平和である。
だから。
これで、いいのだ。