ジャンバー
長女はなぜか、義父のことを「おじちゃんプー」と言った。「おじいちゃん」でいいものを、どうして「おじちゃんプー」なのかは、いまだに謎である。
だが、それが定着し。私たちも義父のことを「チャンプー」と言い、それがいつしか義父の正式なあだ名になった。
チャンプーが亡くなってから既に6年が経とうとしている。その亡くなる直前に、私は、冬、コートを着ずに家内の田舎に帰り、寒かろうということでジャンバーを借りた。
そしてそれを、そのまんま家まで持ち帰り、通勤に使っていた。長い間。
チャンプーは、私よりも背が低くて。ジャンバーは、寸足らずだった。だが、真冬でも十分に暖かく。同僚たちには笑われたが、私は、気にせずに着ていた。
だが、そもそもが借り物で。長い間チャンプーが着ていたものだから、古くはなり、また、使い込むことにより、余計にヘタってきた。
この冬、とうとう年末の仕事納めで、このジャンバーにサヨウナラをすることになった。中身のダウンが、開いた縫い目から、かなり出てくるようになってしまったのである。
心の中の、リトルkojuroが、ボソリと、呟いた。
十分に、着たよ。もう、これ以上酷使しない方がいいだろう。
義父の形見だと思って、着ていた。寒い冬を一緒に過ごした。ちょっと寸足らずだったが。着ていると、心が温まった。
義父には、他に、ネクタイをたくさんもらっている。これは形見なのだ。昭和の叩き上げ世代の義父だったが、尊敬していた。
少しは寂しくはなるが、まだ、ネクタイがある。私が務めている限り、スーツにネクタイのスタイルは、変えないつもりでいる。
まだ。
今宵の六日月に、そっと、チャンプーのことを、祈った。
そんなこんなを語らおうとしてソファーを振り向くと、家内が足を指さして笑って言った。
新しいコート買ったんだから、定年退職なんて考えちゃ甘いから。何年でも死ぬまで働こうね。
……。
ミッション発動だ。
マッサージをすると、家内は上機嫌になる。
家内が上機嫌だと、我が家は平和である。
だから。
これで、いいのだ。
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