プライド
我が社では、長年勤め上げた人には、漏れなく「慰労金」なる、特別な手当の退職金が出ていた。それも少なくない額である。
退職金制度もいろいろな変遷があり、今や全額確定拠出年金ということで、自らの手で運用していきなさいという時代になった。
これをDCと言い、かねてからの会社が運用してくれる制度をBCという。
私の生年月日の1カ月前くらいの人から、このDCが全額になったのである。
今の時代。これまでそうだったという常識は通じない。会社は如何にしてコストを減らすかを血眼になって考えている。まさに人件費は、わが社にとってはコスト以外の何ものでもないのである。
それで。
実は、密かな不安はあったのだが、ちょうど私の退職月から、この慰労金がゼロになった。突然。なんのアナウンスも無く。
心の中の、リトルkojuroが、ボソリと、呟いた。
イヤーな予感はしていたのよね。
私のような貧乏人には、全く無視できない、ほんとうに大きな額である。
さすがにショックは隠せない。
私は、以前。勤続20年の慰労金の申請を一桁間違い、9万円損をした経験がある。
そして、今回の慰労金。
この大きな金額、一桁間違えたのは痛恨のミスである。
この、慰労金カットの事実を聞いた家内は、最初こそ慰めてくれたが、私が、過去のこの9万円も含めていつか取り返すと言い放ったのがいけなかった。
「プライドにかけて、取り戻す!」
そう叫ぶと、家内は高笑いで応えた。
「9万円は、ケアレスミス。今回のは、運が悪かったのよ。あなたのプライド?そんなちっぽけなもの、ダレも当てにしてないから。会社イヤイヤ病とかバカなこと言ってないで、真面目に地道に小銭を稼ぎなさい!」
な、なんのはなしですか。
散々叱られた悪ガキがシュンとなってそソファーをみると、家内が脚を指さして冷ややかに笑って言った。
コジくん、何をさしおいても、お役目!
……。
マッサージをすると、家内は上機嫌である。
家内が上機嫌だと、我が家は、明るくて平和である。
だから。
これで、いいのだ。