2個
ザッと包装を開けるなり、1つ、転がり落ちた。スローモーションで、もう、拾い上げられない高さみ、まで落ちて、床に落ちる直前に、せめてもの抵抗で靴先を当てると、コロコロと側溝まで走り転がり落ちた。
チョコレートだ。
私はそもそも、甘いものが苦手だ。でも時々、チョコレートが欲しくなる。なんでも、ポリフェノールが入っていて健康にも良いらしい。
久しぶりに買ったのだ。何ヶ月ぶりだろう。電車に乗る前に、少し、疲れを癒やしたかっただけなのだ。
そのチョコレートは、スティック状の少し長いタイプで、包装を剥がすと先っぽが出て来る。それをむしゃむしゃと頬張り、更に包装を剥がし、根っこまで食べる。これが、なんともワイルドで好きだった。
ちょっと前までのCMだろうか。おなかが空いたら〇〇〜、という軽めの歌で宣伝していた。好きだったのに。いやいや、まだ好きなんだろうなぁ。私は。
今は、ショックで確かな判断が出来ないでいる。勿体ない。悔しい。落ちたチョコレートが可愛そうだ。申し訳ない。期間限定のカカオ230%を、わざわざ、買ったのに。なんてことだ!勢いよく開けすぎなんだ。乱暴だったんだ。
手にある包装をよくよく眺めてみると、端の方に小さく、
食べやすい2個入り
なんて書いてある。
それ、早く言ってよ……
手に固く握りしめた包装を慎重に慎重に開いて、もう落とさないようにと、残った虎の子の1個を、涙ながらに頬張った。