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ブラジル代表の本当の強さの秘密を、地球の裏側の河川敷で見てしまった。

にわか雨を含んだこげ茶色のグラウンドから湯気が立ちのぼる。
川と草木の青い匂いが混じり合う。
僕らが夏の始まりによく嗅いだ匂いだった。
僕は眠い目をこすりながら、ホームベースをセットする。
他のチームメイトもダラダラと準備をしていた。
三塁ベースをセットしてふと見上げると、
土手から河川敷に入る下り坂を軽自動車が行列していた。
対戦チームはすでに到着していたので首を傾げながら
その車列を眺めていた。
10数台の軽自動車が隣のサッカーグラウンドの駐車場に止まる。
グラウンドを見て何やら大騒ぎしている。
言葉は日本語ではなく、では何語かと問われたら、
よく分からなかった。
チームメイトのひとりが
「すげー!ブラジル人のサッカーが観れるじゃん」と言った。
そうだ、ここは人口の1割がブラジル人と言われる
群馬県大泉町のすぐ近くだった。
彼らは、準備運動もそこそこに試合を開始する。
思い思いのユニフォームを着ていたが、
ビブスでチーム分けしていた。
主審はまた別の色のビブスをつけている。
おそらく寄せ集めチームVS寄せ集めチームの練習試合
といったところだろう。

補欠でベンチに座って居る僕は、草野球はそっちのけで、
大泉町のセレソンの試合を眺めていた。
お腹の出ているおじさんたちは、
スプリントはせず、足下でパスを繋ぐ。
トラップとパス精度は目を見張るものがある。
試合は寄せ集めチームとは思えぬほど締まっていて、
チーム力も拮抗して見えた。
しかし、試合開始より10分ほどのところで、
ホイッスルが鳴り響く。
ビブスを着用したフォワードの選手が倒れていた。
口ぐちに何かを言いながら選手たちが集まって来る。
そのうち、ビブスチームのひとりが
ユニフォームチームのひとりを小突く。
それを合図に大乱闘が始まる。
しばらくすると「やってらんない」と言わんばかりに、
一人また一人とグラウンドを後にして、
車に乗り込み帰ってしまった。

……これは、壮大なコントだ。
オチもなく選手たちは舞台から降りて行く。
僕はクスリともせず口をあんぐりと開けたままでその光景を観ていた。
でも、この時僕は、ブラジル代表の本当の強さの秘密を
見てしまった。

地球の裏側の名もなき河川敷のグラウンドで
ブラジル人の名もなきおっさんたちが真剣に戦っている。
ブラジル・サッカー界で言えば末端の人達が草サッカーの
ワンプレイに命を懸けている。
そもそもの勝負への姿勢が違うのだ。
試合の勝敗はもちろん、マッチアップの勝敗にもこだわる。
この熱さは、そのままブラジル・サッカーのエールにもなれば
ブーイングにもなって行く。
ワンプレイに熱狂し、ワンプレイに非難を浴びせる。
そしてそのフィールドでプレイヤーは育まれ、選りすぐら
れセレソンとなって行くのだ。

勝てるわけがない。
気がつくと僕は呟いていた。


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