愛と金
ベッドしかない部屋でタイマーが響く。
「じゃあ一緒にお風呂行こうか」
好きでもない女を抱いて精神をすり減らす毎日。
財布が分厚くなるにつれて、心が瘦せていく実感があった。
『私のこと好き?』
「大好きだよ」
最初は出てこなかった言葉も今となっては小学生の時に覚えた九九の答えのようにスラスラ言えるようになった。
高校生の頃とか大学生の頃って女の子と手を繋ぐだけで胸がいっぱいになったのにな。
「好き」とか恥ずかしくて言えなくて、言おうとしても噛んでしまうくらいうまく言えなかったのに。
人って変わるんだな。
何を言えばいいのか、どうすれば悦ぶのか
なんとなく分かってしまうようになった。
「駅まで送るよ。忘れ物だけ気を付けてね。」
「それと、大好きだよ。また会ってね?」
いらないこと考えてたら言い忘れるところだった。
生きていくのにお金がいる。
好きなことをするのにもお金がいる。
好きな子と一緒にいるのにもお金がいる。
予約が入って無かったのに、
”今すぐに”と連絡がきた。すぐ近くだった。
こうやってさっきまで「大好きだよ」とか言ってたくせに、
別の好きでもない女とキスをして、抱いて、
恋愛ごっこみたいな掛け合いして、
『ねえ、本番しようよ』
友達と飲んでて、話していると自分は同じ世界の人間じゃないみたいで不安になる。
まともじゃないんだと思ってしまう。
『私のこと好きじゃないの!?』
もうしばらく女性特有の甘い香水の匂いが鼻に残ってる。
消えない。頭が痛い。
Twitterの通知、店から届くメールが怖い。
『嘘つき!さっきほかの女と寝てたでしょ!?』
もう好きな子に好きって言えないのかな。
好きって言って伝わるかな。
好きって言っていいのかな。
こんな体で会いに行って、
こんな口で好きって言って、
こんな手で触れていいのかな。
『愛してたのに!ゴミクズが!死ね!』
今日は120分なのに、
タイマーが鳴らないなぁ