《新世界通信》8「おわら風の盆2022に行った」 ロード・トゥ・八尾
今年のおわら風の盆は、会場に辿り着くまでが大変だった。
3年ぶりに開催される「風の盆」は、伝統継承が目的の「小さなおわら」を宣言していた。
コロナ前は、たった3日間のお祭りに、山あいの狭い町に、全国から25万人もの観光客が集まり、普段は1時間1本、それも二両編成くらいのJR高山本線に、このおわら特別ダイヤということで、富山―越中八尾間のノンストップ快速列車が十数本走る。バスもピストン輸送し、タクシーも大忙しだ。
おわら期間中は、会場となる旧町エリアはマイカー進入禁止だけども、ありがたいことに八尾町で周辺にマイカー駐車場を用意してくれていて、そこに駐車して、駐車料を払うとシャトルバスで町の中心部まで運んでくれる。これで老齢の母も行けたし、深夜に交通手段の心配をしなくて済む。便利だった。
しかし、今年はコロナ感染防止のため、「小さなおわら」で観光客を制限し、マイカー駐車場を設けない方針。公共交通機関(だけ)で来てください。さて、マイカー族の私は、どうやって会場まで行く? 事前に作戦を考えた。
まず車で、JR高山本線の速星駅へ。
速星駅はわが家から一番近い駅だから。富山まで行くと遠すぎるんです。それに富山駅周辺の駐車場は有料だし。速星駅周辺の役場の駐車場は、パーク・アンド・ライド駐車場、つまり、高山本線利用者には無料の提供してくれているので、ちょうどよかった。
運転中も、そして駐車場から速星駅までも、けっこう大きな雨が降り続いている。雨天時は、おわらの町流しは中止。町流しをライブ配信するために行くのに、中止は困る。踊りの時間までに雨はあがるか。
速星駅は小さな駅だった。とは言え駅員がいる。無人駅でないだけマシか。待合室には小さな液晶テレビがNHK教育を流している。次の電車まで、あと40分ある。特急電車はこの駅には止まらないから、1時間に1本ペースの普通の高山本線のダイヤなのだ。サックを長椅子に置いた中年女性が腰かけていた。おそらく八尾へ、おわらを観に行くのだろう。
発車時刻が近づいて駅舎に人が増えてきた。初老の男性二人組。私服の中学生男子三人は、傘のほか何も持っていなくて楽そうだ。二十歳前後の若いカップルが入ってくる。女性の方は、白いフリルのチューブトップで、お腹が見えている。
改札をくぐってホームに出た。線路をのぞくと小雨に濡れた。
到着した電車の席が埋まっていたので、吊り革を握る。目の前で、初老の男と大学生っぽい二人が喋っていたが、男の方は初めて富山に来た旅行者で、大学生は地元に住んでいて、初見のようだった。というか、旅行者の方が初めて来た興奮を一方的に喋っているように見えた。
二駅走って越中八尾駅。電車で来るのは初めてだ。ホームに降りると、山が近い。上の空で、黒雲が渦巻いている。たくさんの駅員が待ち構えていて、臨時の改札から外に出された。駅前のロータリーに案内所の看板を出したテントが立っている。
駅から降りた乗客たちは、傘を差して、どんどん歩いていく。私も覚悟を決めた。
(続く)