夜を編むお姫さま
甥っ子に送ったところ「ふーん」と言われて、悲しかったので供養アップします。
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昔々の、そのまた昔、夜は毛糸でできていました。
毛糸のすきまから光がさして、まぶしくてねむれません。
みんなが困っていると、お姫さまが、夜を編んでくれました。じゅうたんのように大きくなった夜のおかげで、やっと、ねむることができました。
夜は、星のカケラをちりばめた黒く美しい毛糸と、銀色にかがやく棒針で編みます。
編むと、お空が暗くなり、夜になりました。
できあがった夜は、どれも同じ長さで完ぺきです。夜は、お姫さまにしか編めませんでした。
夜の間じゅう、ずっと編んでいるお姫さまは、朝になると、ねむってしまいます。
「あぁ、お昼って、どんなだったかしら?」
聞かれた家来たちは、お姫さまがかわいそうになって、王さまに言いました。
「王さま、王さま。今日の夜は、お姫さまにお休みをあげてください。」
王さまは、うなずきました。
「そうじゃな。トージ姫は、ずっとみんなのために働いておった。たまには休まねばならんな。」
トージ姫は、お姫さまの名前です。
みんなが「そうですよ。」と言いました。
これを聞いたお姫さまは、大喜びです。
「まぁ、まぁ、明日はお昼が見れるのね!」
青いお空なんて、もうずっとずっと長いあいだ、見ていません。
その夜、お休みをもらったお姫さまはグッスリねむって、朝早くから起きていました。
「あら! お空って、こんなに青かったかしら?」
真っ青な空に、真っ白なな雲が、プカリプカリとうかんでいます。
緑色のはっぱはキラキラとかがやき、いいにおいがします。
夜は真っ暗でなにも見えない花壇も、今は色とりどりのきれいなお花でいっぱいでした。
「あぁ、やっぱりお昼はステキね!」
けれど、今晩からは、また夜を編まなくてはいけません。
お姫さまにゆるされたのは、今日だけでした。
「いいえ、平気よ。だって、みんながねむるためだもの。」
本当は、ちっとも平気ではありませんでした。
夜は暗くて怖くて、いつもビクビクしています。
でも、お姫さま以外だれも起きていません。
話し相手もおらず、ひとりぼっちで夜を編んでいます。
ご飯を食べるのもひとりです。――その、悲しいこと!
お昼とは、正反対です。
お昼は、明るいし暖かいし、ウキウキします。なにより、王さまとお妃さま、つまりお姫さまの父上と母上が起きているのです。
お姫さまの大きな目から、ホトホトとなみだがあふれました。
「だいじょうぶ?」
質問したのは、旅人です。
夜を編むお姫さまのウワサを聞いて、となりの国から会いに来たのでした。
お姫さまは、なにもかもスッカリ全部、話しました。
夜を編むのは、きらいじゃないこと。でも、ずっとひとりぼっちなこと。怖いこと。さみしいこと……。
旅人は、言いました。
「だいじょうぶだよ。これからは、ボクが半分編んであげるよ。」
聞いていたみんなが、「むりだ!」と言いました。
「夜は、お姫さまにしか編めないんだぞ!」
すると、旅人は言いました。
「そりゃあ、練習しなくちゃね。」
「えっ、練習?」
みんながおどろきました。
旅人は、悲しくなりました。
「あなたたちは、自分さえよければ、お姫さまが悲しくても、いいの?」
それを聞いて、みんな、やっと気づきました。自分たちがスヤスヤとねむっている間、お姫さまは、ずっとひとりぼっちでがんばっていたのです。
その日から、国じゅうで夜を編む練習がはじまりました。
みんな、長かったたり短かったり、夜の長さがバラバラです。
なかでも一番短いのは、旅人でした。
どんなにがんばっても、長く編めません。
みんなは、その短い夜を、旅人の名前である《ゲシ》とよびました。
いちばん長く編めるのは、もちろんお姫さまです。
いちばん長い夜は《トージ》とよぶことにしました。
お姫さまの名前ですね。
そうそう、お姫さまは、みんなのおかげで夜も楽しくなったそうですよ。
おしまい
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