「FACTFULLNESS」- ファクトベースで世界を見る
ハンス・ロスリング(1948 - 2017)はスウェーデン出身の医師、公衆衛生学者で、各国での疾患調査やWHO,ユニセフなど援助機関のアドバイザーなど幅広い分野で活躍された方です。
そして彼の経歴として世界中で最もよく知られているものが、彼自身が創設者である「ギャップマインダー財団」としての活動です。
この投稿では、彼とその家族が生涯に渡って積み重ねてきた研究の集大成ともいえる名著「FACTFULLNESS」について扱います。
1.本を読んだきっかけ - なんでみんな読むのか
時は、投稿者がまだ社会人になって間もない頃に遡ります。
通勤中の電車で同期がやたら分厚いA5サイズの本を読んでいました。聞くと「FACTFULLNESS」という本だそう。
ふーんと思ったそれとほぼ同じ頃、久しぶりに実家に帰ると弟が似たようなカバーの本を読んでいました。もしやと思って聞いてみると、やはり「FACTFULLNESS」。
「分厚いね!」
兄あるまじき感想を吐き捨てた私は、結局このタイミングでは手に取らず、気づけば数年が経っていました。
~~数年後~~
先日、書店に見覚えのある本が平積みされていました。出版以降、勤続年数はほぼ私と同じはずにも関わらず、未だ平積みとして色褪せない「FACTFULLNESS」。
数年前の各方面からの熱弁を思い出しつつ、見て見ぬ振りをした私は近くの別の本を手に取りました。
その「絶対によむべきビジネス本○○選…」みたいなタイトルの本を開いてパラパラめくっていると、またもや「FACTFULLNESS」。
数年にわたるセールス活動に屈した私は、ついにその分厚いビジネス本を手に取ることを決意したのでした…
2.本当に信頼できる統計データとは
"賢い人ほどとらわれる10の思い込みから解放されれば、癒され、世界を正しく見るスキルが身につく。"
と謳うこの本では、その10の思い込みを各章に分け、「統計データ」と「著者の実体験」を元に解説しています。
結論、読むべき。大して読んだ本の数も多くないので恐縮ですが、ここまでの量と質を備えた本は過去読んだことがありませんでした。寧ろこれがA5サイズ400ページに収まっているのが凄い。原著者と翻訳者、編集者の皆様の計り知れない苦労の賜物と感じました。
※ちなみに以下のnoteで、「FACTFULLNESS」の編集者の中川ヒロミさんの苦労が読めます。分厚い本を食わず嫌いしている私のような方は必見です。反省できます。
これから読む方むけにもれなくセールスしておくと、この本は専門的な言葉や複雑な計算は一切ありません。GDPと平均の計算方法さえ知っていれば誰でも読める、いかにして全ての人に伝えるかという点への作者の強い拘りと苦労の跡が見て取れます。ただただ感服です。
各章とても印象的でしたが、特に10章「焦り本能」で語られたモザンピークでの話、道路封鎖の判断がもたらした思わぬ不運については、非常に大きなインパクトがありました。このお話については、日本語版翻訳者の上杉周作さんもコメントされています。
前置きが長くなりましたが、この本を通して感じたことは
最新の正しい統計データを入手することが、いかに難しいか
ということです。第4章の中で扱われる"信頼できるテロの情報を求めて"の項に記載されたウィキペディアを扱うリスクや、脚注に書かれた"World Development Indicator"に関する記述が象徴的です。
統計データの価値については、「FACTFULLNESS」を読めば明らかです。しかしこの本を読むということは、あくまで世界の解釈に際してスタートラインに立ったに過ぎません。これを踏まえて我々は、出版以降も日々アップデートされる情報のうち正しいデータを入手し、それをフラットに判断し続ける必要があると考えます。
経済協力開発機構や国際エネルギー機関が扱う統計資料にはまだ有料のデータが多いとのことですが、これらを始めとする様々なデータソースから、誰もが正しい情報を簡単に入手できるようになれば良いなと感じました。
3.統計データまとめ
さて、真面目さを欠片も見せずに、文章量とサイズでしか読む本を決めない愚かな投稿者のわたしが、読了後急に真面目な話をはじめたので気が触れたとお思いの皆様かと存じます。
最後に、「FACTFULLNESS」に記載された各種統計データを公開しているサイトと、日本政府管轄で比較的信頼性の高い統計データを、そのURLと共に紹介して本投稿を終えようと思います。
<① Gapminder>
冒頭にご紹介した、ハンス・ロスリングさん創立の非営利団体が公開する統計データです。所得と寿命を軸として、経年変化と共に各国の分布を確認できる「World Health Chart」や、世界各国のペットやトイレなどの写真を家庭の所得ごとに並び替えた「Dollar Street」などがあります。
図:World Health Chart(https://www.gapminder.org/fw/world-health-chart/)
<② e-Stat>
各府省が公表する日本の統計データを1つにまとめた、政府統計ポータルサイト。全国の人口増減をはじめとした国内データが閲覧できます。政府管理のデータであるため信頼性は高い。データ形式は殆どExcel。
<③ 経済産業省 経済解析室>
経済産業省管理の各種統計データとその解説を扱うサイト。スライドやグラフでの紹介が多い一方、データ種類としては少ない印象。②と比べて比較的誰でも読みやすい印象。
末尾になりましたが「おわりに」の項を読んで、原著者のハンス・ロスリングさんが癌のため亡くなる直前まで、ご家族と執筆作業に取り組まれていた事を知りました。また彼のお別れの会で歌われた、フランク・シナトラの「マイ・ウェイ」に関するパートを読んだときは、目頭がカーっと熱くなりました。
本投稿はただの読書感想文に過ぎませんが、読んでいただいた皆さんが「FACTFULLNESS」を手に取るきっかけの、ほんの一部にでもなれれば幸いです。
それでは、最後までご覧いただきありがとうございました。