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読書記録 | 「独立記念日」原田マハ
今の環境に不満や疑問があったりなんとなく寂しさを感じている女性が読んだら少し前向きになれるんじゃないかな。もちろん男性も。私も例に漏れず、その一人です。
なにか物事に行き詰まったとき、なんでか気分が上がらないとき、とにかくわくわくしたいとき、私は本屋に行くのが好きだ。棚に整然と並べられている本のタイトルが、そのときの私に必要なものを教えてくれると、私は思っている。
休職して数日経った頃、本屋へ出かけた。今の私はなにを必要としているんだろう。どんなことにときめくんだろう。あまり深く考えずに、ぼーっと、文庫のエリアを眺める。
「独立記念日」「原田マハ」「明日を信じて、少しだけ前へ。」
タイトル、著者、帯の文言を見てビビっときた。きっとこの本は今の私が活路を見出すきっかけをくれるはず。
原田マハさんの著書は読んだことがなかった。美術作品を題材にしたものが多いというイメージだけ持っていた。大学時代の友人のうち数人が彼女の著書を好きだった。だからきっと私も好きだという確信があった。
本の内容・あらすじ
夢に破れ、時に恋や仕事に悩み揺れる……。様々な境遇に身をおいた女性たちの逡巡、苦悩、決断を切り口鮮やかに描いた連作短篇集。
24篇からなるオムニバス形式の作品集。1篇ずつをライトに楽しめるから、私は小説でも映画でもこの形式が結構好きだ。
それぞれの物語ごとに、異なる女性主人公の視点で語られていく。ひとつの物語に端役として出てきた人物が、次の作品の主人公だったりする。
読了して感じたこと
なにか決断するときの背中を押してくれる本でもあり、自分のこれまで生きてきた時間・その中での経験と重なることで、ネガティブな思い出や心の奥にモヤモヤと引っかかっている気持ちを昇華してくれる本でもあった。
「楽しみじゃない? 一から始められるなんて。すごいじゃない? 誰にも頼らないなんて」
巻末に収録されている瀧井朝世さんの解説でもこの台詞が取り上げられていたけど、まさに独立しようとしている私たちの背中をそっと押してくれる、心強い言葉だなと深く印象に残った。
思い返してみれば私はとにかく甘ったれな人生を送ってきたなと感じる。都内のそこそこ裕福な家庭に生まれて、親は私に厳しくしつつも最終的には私のやりたいことやわがままをいつも許してくれて、結婚して親元を離れた今もなお近くに住んでいるからなにか困ったことがあればすぐに助けてくれる。(結婚して早く実家から出たかったものの、そういうメリットはものすごく大きいと踏んで実家の近くに居を構えた打算的な私・・。そこも含めて本当に甘ったれだよと思う。)
上記は、「空っぽの時間」で突然失業してしまった男性に対して主人公の女性が放った言葉。私はこれまでそんな逆境も苦労も経験したことがない。本当に恵まれているんだろう。
だから、私は一度くらい、今持っているものを取っ払って苦労して這い上がるみたいな経験をしてもいいのでは?なんて思ったりした。
ネガティブな思い出や心の奥にモヤモヤと引っかかっている気持ちを昇華してくれたのは「雪の気配」という1篇。母親との関係に苦悩し、母の元から遠くへ遠くへ離れようと必死にもがいて独立する女性の話。
私も、母親のことが好きじゃなかった。彼女は熱中しているような趣味も仕事も持っていない。だから子供が生まれたことで彼女の世界は子育てがすべてになったのだと思う。母の理想の娘像を何度押し付けられてきたことか。ずっと、窮屈だった。だから早く実家を出たかった。
でも、いざ親元から離れて一人の女として生きている中で気づくことがある。母の弱さや不器用さ、そして愛情に。独立の仕方はこの物語の主人公と私とで全く違う方法だったけど、母親との関係について前向きに考えさせてくれる1篇だと私は感じた。
母と娘の関係って、多分、多くの女性にとって複雑なものだよね。きっと。
本作にはあたたかくて愛に溢れた登場人物がたくさんいた。そういう人が紡ぐ物語は優しい。読了後になんとなくあたたかくて前向きな気持ちになれる、とても好きな1作品でした。