どうしたら小説が書けるようになるの?③ 「持ち込み原稿を取り扱わない」「文学賞で箔をつけなさい」
出版社に勤務し、雑誌で連載小説を担当していると、他の出版社の文芸部門の編集者と出会うことも多い。
そうした知人の編集者に「小説を書いたので、アドバイスをお願いできないでしょうか」と連絡した。その編集者が文芸編集部の編集長につないでくれたので、編集長からアドバイスを頂戴できた。
私が書いた原稿を送付していないので、作品についての評価はもらっていない。一般論での反応だったが、文芸誌編集長の意見はいまの出版界の現状を映し出していた。
「申し訳ないが、持ち込み原稿は断っています。現状では、何の冠もない新人のエンタメ作品を出すことは難しいですね。エンタメ系の文学賞に応募するのがいいのではないか。単行本のマーケットは大変で、出版不況と言われる原因にもなっており、特に文芸の出版は厳しい」というものだった。
小説家を目指す人々がまずアプローチするのは公募スタイルの文学賞。出版社各社が作家への登竜門となる文学賞を創設しており、1000を超える作品が応募してくる文学賞も多い。
1000分の1以下の確率で賞に選ばれて、篩に掛けられた作品を優先するのは当然のことだ。ただ、大賞受賞作と言っても、その小説が売れるかどうかは分からない。
文芸誌の編集業務がどのようなものか、改めて文芸編集者に取材してみた。
作家の卵や駆け出しの新人作家から「作品にアドバイスをほしい」と、依頼されることが多いという。小説の原稿を読むには3時間以上がかかる。さらに原稿をブラッシュアップするとなると、1日の仕事量を超えてしまう。
登場人物の簡単なリストや作品の流れに沿って、場面や事実関係を整理する時系列表を作成する編集者もいる。
作品の構成を別途、メモに書き出し、「作品がダレているところ、緊張感のない箇所はどこか」とか「人物描写に食い違いがないか」とか「この人物の、この言動は性格的におかしいのではないか」などの検証をしていく。
そうした作業をした上で、問題部分を指摘するレポートを作成し、自分の意見やアドバイスを作家に伝える。こうしたことで数日を要してしまう。通常の編集業務の他に、原稿チェックの作業をすることになるので、「アドバイスをほしい」という依頼は実に大変だと、編集者は本音を漏らす。
小説家への早道は公募型の文学賞の受賞
以前に比べて、小説が売れない時代になったので、編集者の心に余裕がなくなっている。書店の売り場に並ぶ本は力のある有名作家が中心で、新人作家は何か話題がないと、たとえ本棚に並んだとしても早晩、店頭から消えてしまう。
昨今、文芸の売上げ自体が急落している厳しい状況にある。一握りの「売れる作家」以外は惨憺たる状態。「食えない作家」が急増しているのが現実だと打ち明けられた。
「デビューするなら、ニュース性のある新人賞を取るとか、箔をつけてもらわないと、いかんともしがたい、というのが編集者の本音だ」といった声も聞いた。
持ち込み原稿を取り扱わない、実績のある作家との関係を強化する、新人発掘と言いながらリスクを取らない。こうした傾向は、どの出版社も同じだという。
小説を出版する最も早い道は、文学賞に応募すること。そして受賞すること。だが、多くの作家志望者がそう考え、もがいている。狭き門であることは間違いない。
文芸誌編集長のコメントに「そうだろうな」と理解できたが、文芸出版の厳しさは想像以上であった。まずは王道を歩もうと、文学賞への応募を決意した。
文芸誌、書籍部門を持つ出版社の多くが公募の文学賞、新人文学賞を創設している。主要なもので100以上がある。純文学、エンターテインメント、ミステリー、ホラー、歴史小説、ライトノベルなど、特定のジャンルを対象にした公募文学賞も多い。どの文学賞を選んで応募するかが、重要になってくる。その出版社の基準に合う作品、新人作家の発掘を行っているからだ。
出版社としては、有望な作家を発掘し、書き手と強い絆を築き、自社の作品群を充実させる狙いがある。どの文学賞も期待の新人、魅力的な作品を探すことが目的だが、受賞作が売れないと、文学賞自体が消滅することもある。
受賞作を発表する場は文芸誌であったり、単行本での出版であったりする。叢書(特定のテーマでまとめた本のシリーズ)に組み入れるケースや、映像化、映画化の可能性がある文学賞もある。
どの文学賞に応募するか、自分の書いた小説とどの賞がマッチするのか。応募時の吟味、選択を間違ってはいけない。(敬称略)