「緊急性のない救急搬送7,700円」このルールを全国に広めてはいけない理由
最近見たニュース、及びそのネットの反応で非常にがっかり・・・というか、呆れてしまったものがあります。
私は、この手のニュースが出るたびに、
「相変わらずルールの作り方が下手だな」
と思ってしまうのです。
それは、ルールを作る人が「ルールとは何なのか?」を理解していないために起きます。
ルールとは、単なる行動制限ではない
みなさんは車を運転するとき、交通ルールを守ると思います。
「道路交通法を破ると罰則があるからね。」
という理由を挙げるかもしれませんが、それは根本的な理由ではありません。その裏には「交通事故を起こしてはいけない」という倫理観があり、それに従っているはずだからです。
道路交通法にも、それは明記されています。
つまり、道路交通法は
「このような倫理観を身に付けてから、車を運転してください。」
というメッセージの役割もあるのです。
はじめに倫理観があり、その判断基準としてルールがある
私が取得した資格「プロジェクトマネージャ」は、PMBOK という知識体系を元にしています。
PMBOK は正確にいうと規則ではないのですが、対となる倫理規定が明確に定められています。
「プロジェクトマネージャに従事する人には、このような倫理観を持ってほしい」という思いが先にあり、その判断基準として知識体系がまとめられているというわけです。
つまり、よいルールとは以下の 2 つの要素を満たしているものです。
身に付けてほしい倫理観が明確になっている
ルールが倫理観の判断基準と合致している
救急車7,700円ルールの実態
先の記事には、以下のように書かれています。
疑問① そもそも悪質な利用者の抑止になるのか?
問題になっているのは、救急車をタクシー代わりにするなどの不適切利用です。つまり「他の救急患者の迷惑になる行為はしない」という倫理観を持ってほしいわけです。
しかし、茨城県の定めたルールだと
「7700円さえ払えば、今まで通りタクシー代わりとして呼べる」
となってしまっています。
つまり、悪質な利用者を抑止するルールになっていません。
これではダメです。
疑問② 判断基準として適切に機能するか?
次は、私の体験談になります。
数年前、実家で母が倒れたことがありました。すぐに意識は戻ったのですが、頭も打っていたので、私はすぐに救急車を呼びました。
検査の結果、倒れたのは貧血によるもので、打った頭にも異常はありませんでした。入院は不要で、その日のうちに帰宅となりました。
つまり、結果的に 緊急性はなかった ということになります。
さて、私は 7,700 円を払うべきなのでしょうか。
どのような判断になるか分かりませんが、そもそもおかしな話です。全く同じ行為をしたにもかかわらず、
「7,700 円請求されなかった人は善」
「7,700 円請求された人は悪」
となってしまうわけなので。
ルールは倫理観に影響を与える
多くの人は、普段から倫理観を明確に意識しているわけではありません。逆に、知らず知らずのうちにルールから倫理観に影響を受けてることがあります。
子供が、倫理観という概念を知らなくても「信号無視をする人は悪い人だ」と認識するのも、交通ルールに影響を受けているからです。
茨城県の定めた「緊急性のない救急搬送は 7,700 円」というルールは、人々の倫理観にどのような影響を与えるでしょうか。
可能性は 2 つです。
お金を払える人は、いつでも救急車を呼んでよい。払えない人はダメ。
病院から搬送代を請求されなかった人は善、請求された人は悪。
どちらにせよ、このような倫理観を誰も望んでいないということは確かだと思います。
ルールとは、適当に作ってよいものではないのです。
ルールは、ときとして「人々の倫理観に影響を与えるもの」という認識を持って、慎重に作らなければいけません。
(追記)
では、どのようなルールにすればよいのか?
案としては、以下の 2 つが考えられます。
不適切な救急車の呼び出しを迷惑防止条例などに組み込み、罰することができるようにする。
不適切な救急車の呼び出しを繰り返した人をブラックリスト化し、通報を断れるルールを作る。
「運用の手間がかかるじゃないか!」と思うかもしれませんが、最も効果的なのは、ルールを通じて人々の倫理観を醸成することなのです。