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人間がAIにハッキングされる時代の処方箋

世界で1200万部を超えるベストセラー『サピエンス全史』で広大な「人類」というテーマを扱った著者がAI時代を踏まえて「これからの数十年について絞って書くよ」「絶対批判されると思うけど、それでも書くよ」と前置きして発表したのが本書で、素晴らしい本なのになんと現在半額なので、あらためて紹介させてください。(笑

次の本が出るそうで、予習的に?現在半額セール中なのでしょうかねー。


この本のご利益

  • 一般の人でもAIが何か実感できるように説明

  • 文明、政治宗教が現在、実はどうなっているのかざっくり解説

  • 各国の移民問題の現実を解説

  • 現代の真実の怪しさ(フェイクニュースやメディアの問題)

  • 教育の課題

  • 自由主義の限界

  • 実際どうすれば?

などについて歴史的に俯瞰しつつバイオやAIも織り交ぜて「超現実思考」でぶった切っています。「もやー」とした認識を「ピシ!」っとさせてくれる本です。特に政府や軍隊など大きな所ほど実はAI時代の変化が確実なようです。
それと、最近日本でも大きな問題となりつつある移民についても移民で崩壊の危機にあるEUを例にだしながら問題の整理の整理を提案していて、この話題でモヤモヤのある方にも超おすすめな本です。

AIに飲み込まれる私達

私達人間の社会での労働は物理的な「作業」と思考による」抽象的な「知的労働」がありますが、物理作業は19世紀から始まる機械化、さらに20世紀のロボットに夜大量生産にかなりが置き換えられ、残った部分(たとえば車の運転など)もAIに置き換えられつつあります。 そして以前はまだ先、と思われていた知的労働も生成AIを始めとすると機械学習型のAIに置き換えられる日が目前となってきました。

この本では(ちょっとくどいくらいですが)実例をあげ、ここ最近のAIがどのくらい進歩して人間の立ち位置がどんな事になっているのかわかりやすく解説していて、要約すると

  • 人間の知的活動は機械学習的な反復と反応

  • なのでAIでかなり模倣できてしまう

  • 人間は個で活動するが、AIは複数で活動

  • AIは自動でアップデートし続ける

特に3番目が重要で、例えば「自動運転」と聞くと人間の感覚では「ある車がカメラなどで感知しながら自動走行」を思い浮かべますが、実際には無数にある車が通信し合いながら強調して(1つの生物のように)動作します。

図にすると

人間の思考↓

実際の動作↓

という感じでまるで違います。この「個人」でしかない人間の特性が医療や法律、様々な専門性の「限界」になっているのをAIが突破するのが目前となっているわけです。

たとえると、ある知見からの医師の気づきが全世界のサイバー医師に翌日には伝わっているとか、年間を通じて集計された知見から薬の組み合わせの副作用が特定される、というようなことが「個人」を出られない人間とは異次元のスピードで進歩します。 本書でも、極稀にいるスーパー医師には敵わないかもしれないが、全体でそれをはるかに凌駕する、と解説しています。

AIを直感的に理解しづらい・勘違いして評価してしまうのは、この「個」と「集団ネットワーク」の違いが、ほとんどの人にとって直感的に理解しがたい、というのはかなりありそうです。

知的サービス分野では、これまでの機械による自動生産による進歩とは「異次元」の創造性・生産性が期待されるため現在のAIブームとなっているわけですが、この力の源泉は人間の知識を(無許可で)集積・学習した結果なので「人間がハッキングされた結果」といえます。しかも大規模に。 そして、これにより多くの人が職を失うより高レベルの「はなから必要とされない」「無視される」存在になると本書は予想しています。

車は人間が「凶器」にする

感じの違いといえば、交通事故死は現代の戦争やテロの犠牲者より遥かに多い、という不都合な現実についても触れています。そして交通事故死のほとんどが人間の過失(よそ見、スマホながら運転、居眠り、飲酒など)で事故と言うにはあまりにも過失(ある意味故意)が大きい重大な問題なのに放置、という現実が横たわっている一方で、多くの消費者は車の選択について合理的な判断ができないとも。
大騒ぎして報道する戦争やテロよりも遥かに凶悪なものを「よし」としている現実があるのに、自動運転は恐れたりと、人間の思考や感覚は「かなり…?」なのです。

似たものとして日本人のバイク嫌い、があります。日本で数十年バイクを乗っていると、それなりに差別やレッテル貼りに出会いましたが実社会で排気ガスや交通事故死を引き起こしているのは殆どが車です。特に死亡事故では圧倒的に車が原因です。 しかし常に、何故か常にバイクは悪者でした。これは同じ先進国でもスペインなど生活の足として根付いている場所ではかなり違いましたし、高額な保険の関係で実質的に富裕層しかバイク乗らないアメリカでは一種の「エリート」な雰囲気すらあります。 日本の差別は統計の数値では説明できない「印象」ですのでおそらくモータリゼーションの発展の過程で「乗り換えてもらいたい」車業界の諸々の印象操作もあったのではないかと考えています。 しかし、いずれにしても殆どの人間はシンプルな事実も正しく認識することは出来ず、物事の評価について非論理的な反応となってしまいす。

ベトナムでは台風などで強風だと車がバイクに寄り添い、風から守って通行を助けたりします。
日本では乗っている事自体を咎められたり、邪魔だと罵声を浴びられることも。

人間のトホホな反応について、この本では「我々の脳はサバンナで生活していた頃とあまり変わらないため、現在の状況に適応出来きない」と断じています。

わたしはAIが救世主になるのはまさにこの部分で、人間と『感覚の違いから』軋轢が出るのも同じくここではないかと思っています。この本ではその現象について、運転中に子供が2人歩いているときに自分が犠牲になっても避けると答える人が大多数だが、その様にプログラムされたAI車を買う、と答える人は少数派だ、と皮肉っています。AIとの軋轢はすでに起きている未来です。 21世紀になり良い服を着てスマホを操り合理的なように見えても、実態は相変わらず棒を持ってサバンナを歩き回る非論理的で傲慢な猿なのでしょう。

移民の話

日本でも大きな問題になりつつある移民について、本書は賛成反対、どちらにもよらずに中立でいくつかの視点で移民問題を解説しています。移民についてどう思いますか?と言われて答えるのは非常に難しい問題ですが、その考えの軸をわかりやすく提示しているのは見事です。具体的には

  • 移民受け入れは義務か?

  • 受け入れられたら文化的に同化する義務がある?

  • 同化したら正規の国民にする義務があるか?

  • 上記の移民、受入国、双方が義務を果たしているかの判定は可能か?

という議論を提示、さらに人種差別と文化差別にふれ「ちょうどよい落とし所は今のところ無い」「仮にEU5億人が方針を決めたら受け入れも、逆に追い出すことも容易だが方針が決まらない」と現実を述べています。
また1万人に1人にも満たない一握りの狂人であるテロリストを基準に考えるのは不幸しかない、と感情論には釘を差しています。

正直な所、日本人でこれらを理解して議論できる人はどのくらい居るのだろうか?と思ってしまいました。一定のマナーを守り複数の条件を頭に並べて議論が普通にできるの割合が一定の割合にならないと、そもそも会話が成立せずに暴力になるのでは、とこれまでの日本人としての経験から考えさせられました。移民を受け入れるには、その前にまず教育や文化を自分たちで見直す必要があるように思いますが、日本は(来るのがわかっていた未来に対して)何もしてこなかったので時間切れになっているのが現実かもしれません。


以前は政治宗教が助けてくれそうだったのに

じゃあどうすればいいんだ? 解決法を提示しないのなら役に立たないだろ!っと短気を起こす層も一定数(というか大多数)いると思いますが、この本では幻想ではなく現実を提示しています。(ちなみに、筆者はそんあ反応を心配しつつも「そういう層はこの本を読まないだろう」と達観している感じがあります)

太古から人間の世界は凄惨で野蛮だったのが宗教や共産主義、民主主義、市場経済の神の手、と希望が移り変わり、現在は選択肢そのものがどんどん減り残ったモノも欠点はあるけど他にないから仕方なく、になってきています。
現代で共産主義が答えだと信じる人は(当の共産主義国の中でさえ)ほぼいませんが、100年前は正解かも?という人がたくさんいたのですし、その前はキリスト教原理主義だったり、力の論理であったり、様々なトレンドが消えてなくなりました。そして、もはや助けてくれる新たな候補はいません。またトランプ現象や「壁」のように「(復古的な)救世主かと期待ひたら違ってた」という現象にも触れていて、これも興味深いです。割愛しますが宗教も同じようなことになっていて、当てに出来ません。またテクノロジーが原因で政治宗教に関係なく、温暖化のような深刻な世界問題が台頭していますが世界中の宗教はこれにあまり関心がなく、民主主義もこの問題に立ち向かえていないようです。

この、「色々あったけど、結局こうだよね」という、現代人が当然持つべき「共通認識」をわかりやすくまとめているのがこの本の大きな価値の1つと思います。 思うにSNSなどの不毛な論争は殆どの場合、圧倒的な無知や不勉強とそこからくる「無知ゆえの傲慢さ」が主因でしょう。こらは世の中の変化に比べて進歩のないTVなどのメディアの質の悪さと教育のアップデートの不全が半世紀前とは明らかに違う「話が合わない」環境をサポートしているとも言えます。

話を戻すと、多くの種族、部族が「まあなんとかなるさ」で絶滅したり征服されたりした結果、言語や文明が収斂し消え去っています。例えば言語だと数百年前は辺境の1言語に過ぎなかった英語は全世界で15億人、地球の共通語と呼べるくらいまでになる一方で多くの言語が地球から消えていますし方言などを入れたら膨大な数の言語と文化が消滅しています。

日本人の人口も半減するサイクルに入っていますから他人事ではないわけですが、日本だけでなく世界中全ての地域で似たようなことが起きている、他のことでも世界がどんどん変わり、少し前まであったものが消滅してさえしているのだ、というのを気付かせてくれました。

そうはいっても、どうすれば?

「(歴史や社会を彩る諸々の)大掛かりな物語は、私達が生み出した虚構あるとはいえ、絶望する理由はない。現実は依然としてそこにある。 … 人類が直面している大きな疑問は「人生の意味はなにか」ではなく「どうやって苦しみから逃れるか?」

っと最後の方では具体的な話になってきますが、これって仏教っぽい…。(ちなみに著者はユダヤ人です)

本書では1つの提案として瞑想について触れています。 社会の大きな話・物語ではなく個人の内面、あり方がキーになるということでしょう。
面白いのは脳スキャナーなど科学的なアプローチでは未だによく分からず、当面は脳の研究ではなく、心の研究範囲としているところです。(ちなみにイスラエルはこの分野では日本を追い抜いて世界的にトップレベルになり日本の強力な商売敵になっています。)

瞑想が魔法の解決策になるとは断じて思っていない、としながらも研究?の中で、「実勢的で仰天した」と書いていてかなり掘ったようです。考えさせることを目指しているだろう本書の中で、私の中に「処方箋だな」と残ったのは

  • 多くの心配事、激動の時代。心を制御するのは不可能に近い

  • 不安や恐怖の反対にある、生きることは呼吸に集中するのと似てる(瞑想)

  • 瞑想をして解決になるわけではないが、複数のアプローチが必要

  • 瞑想は現実逃避ではなく、現実と接触するため

ということで、著者が伝えたいのはAIに飲み込まれる前夜だけど「現実を直視しつつ、恐れることなく、眼の前のことに集中せよ」なのかな、と感じました。これを考えさせるために、人類史からAIまでを解説して見せたのだとしたら、脱帽としか言いようがありません。



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