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「ミッキーマウスの憂鬱」 松岡圭祐
母の手を握りながら入場ゲートを潜ると、そこにはお祭りのような喧騒が広がっていた。目の前にあるそこはぼくが毎日暮らしている町とは全然違くて、まるで起きているのに夢を見ているみたいな景色だった。
最初はどこに行こうか、と話し合う両親の先に、二匹の動物が見えた。
あれは、ねずみだ。目立った大きな耳から、そう思った。でも、ねずみなのに立っている。ねずみなのに手袋を嵌めているし、ねずみなのにリボンをつ
「さよならクリームソーダ」 額賀澪
それは、よくある恋愛小説のなれの果てだった。主人公の男が恋に落ちる。魅力的で少しミステリアスな、何やら秘密を抱えた美しい女の子と。主人公は彼女の隣にいることに安らぎを覚え、彼の世界は徐々に彼女を中心に動き始める。
ところがそんな二人は、彼等の力ではどうにもできない悲劇によって引き裂かれる。主人公は一人、世界に取り残される。彼女のいない世界を彼は生きていく。彼女の笑顔と言葉を抱えて、生きていく。
「スロウハイツの神様」 辻村深月
僕は、読み終わった作品から次の作品を読み始めるまでの一連の過程を「引っ越し」と呼んでいる。全く異なる世界間の移動にいつも脳が悲鳴を抑えきれない、が新たな出会いによる高揚感には勝てるはずもなくワクワクしたヤドカリのように次々と住処を渡り歩く。
本作「スロウハイツの神様」では、その名の通り「スロウハイツ」というアパートが主な舞台となる。覗き見…なんていうと気味が悪いけれど、まるで架空の一室に部屋を