ウエスト・サイド・ストーリ ー 混ざり合うことのない青と赤の物語
舞台ミュージカルの金字塔と言われる『ウェストサイド物語』。このミュージカルを1961年に映画化した『ウエスト・サイド物語』をリメイクしたのが、スティーブン・スピルバーグ監督の『ウエスト・サイド・ストーリー』だ。日本語にすると微妙に綴りが違うのだが、WSSで話が通じるようなので以降はWSSと記載する。
わたしにとってWSSは、家族そろって正月の地上波放送を観る恒例の行事であった。母がジョージ・チャキリスを見るたび「セックスアピールがあるわ」とはばかりなく言うので、少々赤面していた思い出も甦る。
WSSの見所の
★音楽
★ダンス
★登場人物
★監督の女優リタ・モレノへのオマージュ
などについて書いてみたい。
《STORY》 夢や成功を求め、多くの移民たちが暮らすニューヨークのウエスト・サイド。 だが、貧困や差別に不満を募らせた若者たちは同胞の仲間と結束し、各チームの対立は激化していった。 ある日、プエルトリコ系移民で構成された“シャークス”のリーダーを兄に持つマリアは、対立するヨーロッパ系移民“ジェッツ”の元リーダーのトニーと出会い、一瞬で惹かれあう。この禁断の愛が、多くの人々の運命を変えていくことも知らずに…。
(ウエスト・サイド・ストーリー公式サイトより)
🎶時代を経てもすたれない胸踊る音楽🎶
WSSといえば、音楽。レナード・バーンスタインの織り成す胸踊るような音楽はいつの時代でも聞き応えがあり、ストーリーよりも先に心が鷲掴みにされる。バーンスタインは希代の天才作曲家だということの気づきは大きい。ちなみに作詞はスティーブン・ソンドハイム。最近亡くなったソンドハイムはミュージカル「イントゥ・ザ・ウッズ」等で作曲家として著名だが、彼の若き日にWWSの作詞をしたことを最近知った。
今回のWSSのトニーを演じるアンセル・エルゴート、マリア演じるレイチェル・ゼグラーは踊りながら歌っている。このような当たり前なことを書く理由は、1961年に公開されたWSSでの二人の歌声は吹き替えであったからだ。この歌声と演技の同時進行の撮影は映画『レ・ミゼラブル』から確立されたことも興味深い。WSSのもとが舞台ミュージカルなので、出演者が揃って歌うというのは60年前は至極難しかったのだろうと思いを馳せる。
💃ダンスイズビューティフル💃
WSSには多くのダンスナンバーがあり、なかでもトニーとマリアが出会うダンスパーティーのシーンは圧巻。ヨーロッパ系移民で構成された“ジェッツ”の男女は青を、プエルトリコ系移民“シャークス”の男女は赤を基調とした服を着て踊る。それぞれの服は、それぞれの肌の色を際立たせて目に鮮やか。まるで人間の身体を廻る「動脈」と「静脈」のように生命を宿しているようだ。しかしこのダンスシーンでもそれぞれの移民が交わることがなく、「青」と「赤」は拮抗してしまう。1961のWSSはトニーとマリアのみにフォーカスを当ててダンスシーンをぼやかしていたので、今回のWSSは二人の絶望的な運命の出会いを色濃く演出している。
⛪「ロミオとジュリエット」の先にあるもの
トニー演じるアンセル・エルゴートは、ヨーロッパ系移民の象徴のように青を身にまとっている。そしてどことなくぼんやりとして品の良さも伺える。マリア演じるレイチェル・ゼグラーは、プエルトリコ系移民の象徴のように服のどこかに赤をつけている。こころなしか『ロミオとジュリエット』でジュリエットを演じた、オリヴィア・ハッセーを彷彿させる。愛する二人を演じる主演であるが、今回のWSSで注目したのは、シャーク団長ベルナルドの恋人アニータ演じるアリアナ・デボーズ。そのソウフルな歌声を聴くだけでも本作を観に行く価値はあると思う。悲劇的な物語なだけに彼女の「アメリカ」を聴くと、現代のアメリカに行ってみたいと思う。そして血気盛んだった若さや情熱を再び自分にも見いだしたい。「死」よりも「生」にこだわりたくなるのは、今回のWSSの主眼だといえる。
🕊️somewhereはいつも希望に溢れていて🕊️
1961のWSSでアニータを演じていたリタ・モレノが今回のWSSではトニーの職場であるドラッグストアの女性店主バレンティーナを演じている。御年90歳の彼女が歌う「somewhere」が耳に深く残る。トニーに愛よりも生きることが大切だと説くバレンティーナは、かつて愛に生きて悲しんだ経験を持つアニータだった。愛に向けての情熱や若さは素晴らしいとWSS全編を見て感じるが、人種差別や性差別そして銃社会にデリケートであるべき今でこそ、生きることの尊さが浮き彫りになる。ラストシーンでトニーは死んでしまうが、マリアは生き続けるために歩き始める。そしてマリアの後ろをバレンティーナも歩き始める。銃を捨て去りながら。
今回のWSSのエンドロールは、立ち退き間近なウェスト・サイドに光が射す明るい未来があるような仕掛けがある。きっとスピルバーグ監督が目指す国としての在り方がはためいているのだ。
#写真はウエストサイドストーリー公式サイトからお借りしてます
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