（第14回）昭和19年10月25日

一方、囮の役目を負った小沢機動部隊はこのとき、どうしていたのでしょうか。もちろん「敵に発見されるために」頻繁に電波を発しながらハルゼー機動部隊を探して南下していましたが、ハルゼーの機動部隊は先述の通り栗田艦隊に襲いかかっていました。

しかし遂に、ハルゼーは小沢機動部隊の存在を感知します。栗田艦隊に空母部隊が付随していない事を怪しんでいたハルゼーは、北方に日本の機動部隊発見の報を聞くや、こちらが本隊と判断、大損害を被った栗田艦隊が反転した事もあって、10月24日夜、ハルゼーは全戦力を小沢機動部隊へ指向することを決めました。

しかし先に書いたとおり、小沢艦隊は空母4隻を要しているものの艦載機は寄せ集めの108機という囮部隊でしたので、ハルゼーは日本の作戦にかかったといえます。また、あれほど栗田艦隊に損害を与えたのですから、反転したということは当然撤退したものと判断して、次は小沢艦隊を叩くという、自然な判断だったのかもしれません。
しかし、もとより生還を考えていない栗田艦隊（他の部隊もそうですが）は一旦退避しただけであり、24日夜、再度レイテへ向けて舳先を向けたのでした。

しかし栗田艦隊はシブヤン海における激戦の影響で、予定していた時刻にレイテ湾へ殴り込む事は難しくなっていました。

＜25日の西村艦隊、志摩艦隊＞

翌25日未明、栗田艦隊と合同を予定し戦闘航海を続けてきた西村艦隊は、栗田艦隊の遅れを知りますが、指揮官の西村中将は部隊単独でレイテ湾に突入するという悲壮な決心をします。そして待ち構えた戦艦6隻、重巡洋艦4隻、軽巡洋艦4隻、駆逐艦26隻、魚雷艇39隻という圧倒的な敵艦艇のレーダー射撃を雨と浴び、駆逐艦の時雨一隻を除いて全滅しました。
西村中将の座乗した旗艦「山城」の発した最後の命令は以下のようなものでした。

「ワレ魚雷攻撃ヲ受ク、各艦ハワレヲ顧ミズ前進シ、敵ヲ攻撃スベシ」

戦艦山城は沈没のその瞬間まで、主砲を打ち続けたという事が米国側の記録に残っています。

そして西村艦隊がまさに全滅しようとしたその場面に、志摩艦隊が合流します。志摩艦隊は軽巡洋艦「阿武隈」を失いながらも、レイテ湾の敵へ暗夜の雷撃を行い退避に成功したものの、敵に損害を与える事は出来ませんでした。

＜25日の小沢艦隊＞

その頃、ハルゼー機動部隊は一斉に小沢艦隊へ艦載機を向けていました。早暁、敵機が出現したことを確認した小沢艦隊司令部では、万歳が起こったそうです。それが作戦とはいえ、自分達は空からの猛攻を受けて、今これから死ぬわけです。それでも、栗田艦隊が俺たちの仇を討ってくれる。作戦は成功だ。そういう気持ちからの万歳だったのでしょう。

そして、エンガノ岬沖にて、ハルゼー機動部隊と小沢機動部隊の激戦が起こります。
この時、日本側の数少ない艦載機に乗って甲板を飛び立った搭乗員は、今で言う高校生くらいの年齢の方も多く、訓練不足で空母から発艦は出来ても、着艦の技術を持たなかったため、発艦後は空母に戻るのではなく近隣の航空基地に着陸せよという指示がでていました。それほどに、この頃の日本は消耗していたのです。このエンガノ岬沖の戦いを描いた「連合艦隊」という1982年頃の映画がありますので、ぜひご覧ください。確か中井貴一さんのデビュー作です。

小沢艦隊は少ない艦載機を発艦させたあと、高射砲、機銃を雨霰と撃ちました。しかしほとんど航空戦力を持ちませんから、全ての空母4隻を沈められ、壊滅的な打撃を受けながらも、多くの命と引き換えに囮としての役割を果たしました。

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これは正規空母、瑞鶴の沈没直前、飛行甲板上で軍艦旗に敬礼する乗組員の方々の姿です。これをみて何も感じない人はいないでしょう。

＜25日の敵、ハルゼー機動部隊＞

ハルゼーが得意になって小沢艦隊を攻撃していた頃、ハワイの太平洋艦隊長官ニミッツ大将は、撤退したはずの栗田艦隊がレイテへ急行していることを感知し、囮作戦の術中に嵌まったことを知ります。主力のハルゼー部隊は、全力を挙げて囮の小沢部隊を攻撃中ですから、ミニッツ大将は皮肉をこめて「第34任務部隊（ハルゼー部隊のこと）はどこか。全世界は知らんと欲す」と、平文で発信し、受信したハルゼー大将は、帽子を床に叩きつけて激怒したそうです。

＜25日の栗田艦隊＞

そして栗田艦隊は、ハルゼーが小沢艦隊に釣り上げられて北方へ向かっている間に、サマール沖まで進出し、レイテまであと少しの所まで迫っていましたが、囮作戦の状況はまだ把握できていませんでした。

しかし栗田艦隊がレイテ湾に殺到するのは時間の問題でした。

そして、運命の25日未明、水平線上に栗田艦隊が見たのは敵艦隊のマストだったのです…。