【取材記事】美しさと正しさでメイクマネー 経済成長とソーシャルインパクトを両立する健やかなM&Aマーケットを創出
【お話を伺った方】
■クリエイターのライフキャリアを支える「ソーシャルM&A」
mySDG編集部:当初COO(最高執行責任者)の代行会社として2018年に株式会社drapologyを創業したのち、2022年にソーシャルM&A「GOZEN」の事業を始めたのはなぜでしょうか?
布田さん:これまでソーシャルビジネスの経営に携わる中で、社会に対して良いことしたいという想いで始めた事業が、経営的に厳しい状況に陥るケースを数多く見てきたことが理由です。起業する以前は、展示会の企画運営会社に勤めていたのですが、当時ソーシャルデザインという考え方に出会ったことで、会社員として働くかたわら、「INHEELS(インヒールズ)」というエシカルファッションのブランドでプロボノを始め、その3年後にはCOOとして経営に深く関わるようになります。
「INHEELS」は環境負荷の低い素材を使ったり、フェアトレードの工場と契約したり、エシカルかつクールでスタイリッシュなスタイルを発信する、これまでにないユニークなブランドでした。しかし経営的にはハードな面もあり、かつ女性ファウンダーのライフスタイルが大きく変化したことで、2019年にブランドは幕を下ろします。これまでコミットしてきた分、クローズしてしまうのは非常に残念でした。
一方で、社会的に正しいことをしているのに、うまく立ち回ることができずクローズしてしまうブランドがあることを知り、それらを回収できる手段があるといいなと思ったことが、「GOZEN」着想の原点です。
mySDG編集部:M&Aという形態につながったのにはどんな背景があったのでしょうか?
布田さん:「INHEELS」の女性ファウンダーの方は、その後パートナーと共にアーティストレジデンスの事業を立ち上げます。しかし金融機関から融資を受け、物件を借りることは容易ではなく、当初は苦労されていました。その姿を見て、これまで経営してきたソーシャルビジネスがM&Aできれば、たとえそれが何億円という規模ではなく数百万の単位であってもその売却益で次のチャレンジがよりしやすくなると思ったんです。つまりクリエイターのライフキャリアを資するためにも、ソーシャルビジネスやスモールビジネスに特化したM&Aの事業があってもいいと思ったのが始まりです。
その後、実業家兼ファッションデザイナーのハヤカワ五味さんが創業したランジェリーブランド「feast(フィースト)」の事業を引き継ぎ、「GOZEN」の第1号案件として事業売却に成功したことから、本格的にソーシャルM&Aの事業に軸足を置くことになります。
■M&Aの意味を変えていく。「経済」より「カルチャー」なM&A
mySDG編集部:「GOZEN」が提供するソーシャルM&Aのサービスについて教えてください。
布田さん:創業者の美意識や社会課題解決への熱意から生まれたソーシャルビジネス・スモールビジネスを対象にM&Aをサポートし、さらに売却益の一部をミッションが近しい非営利団体に寄付をする「1ディール、1ドネーション」を行なっています。1号案件では、シングルマザーのセルフケアをサポートする非営利団体に、2号案件ではフードロス削減に取り組む立命館大学の学生団体に寄付しました。
mySDG編集部:「GOZEN」の特徴や強みはどういった点にあるのでしょうか?
布田さん:まず、「GOZEN」のように小規模なディールを扱う企業はほぼないというのが一点。そして僕らはM&Aがもつ意味を変えていくような取り組みをしています。つまりこれまでのM&Aのイメージとは異なる新しい価値を生み出したいと考えています。たとえば、通常のM&A仲介サービスが売り手に訴求するものが「お金」であれば、「GOZEN」が訴求するのは「ライフスタイル」。M&Aが象徴する「経済」のイメージとは異なり、「GOZEN」が体現するのは「カルチャー」です。さらに多くのM&A仲介サービスがリスティング広告やDMを活用した狩猟型の活動を行うのに対し、僕たちはより感覚的な人とのつながりから生まれるコミュニティを重視した農耕型のスタイルをとっています。
mySDG編集部:「お金」や「利益」といった事業そのものの経済価値を増大させるだけでなく、ソーシャルインパクトをもたらすクリエイターたちのライフキャリアを支援するという意味においても、「GOZEN」は利他的なM&Aというイメージです。
布田さん:確かに双方が1円でも得をすることを重視するマッチングというよりも、ソーシャルインパクトがより広がっていくようなアレンジをして、そこにちゃんと経済活動がついていくようなM&Aを成立させるという点では、利他的なM&Aなのかもしれません。
いわゆるソーシャルグッドな事業を行う方々の中には、自身が納得のいくことを小さくやっていくというスタイルの方もいて、それはそれでポジティブなことだと僕は思っています。ただ自分の好きなことやこだわりを優先することは、ある意味では利己的なのかもしれません。一方で目の前の社会課題を解決するために、やりたいこととのバランスをうまく取りながらも、より大きな資本の中に入り、その企業のアセットを使いながら流通量を拡大していくというのは、すごく現実的で素晴らしい選択だと僕は思っていて。なので、「GOZEN」が行なっているのは、ソーシャルインパクトと経済成長の両立をサポートするような利他的なM&Aと言えるのかもしれません。
■「GOZEN」が掲げるポリシー “美しさと正しさでメイクマネー”
mySDG編集部:「GOZEN」の事業を通して、社会に対してどういったメッセージを伝えたいとお考えですか?
布田さん:アイデンティティは多様でいい、ということですね。たとえば、「社会貢献」と「お金を儲けること」は相反するものだと思われがちですが、僕は混在しているのが正しいと思っています。「GOZEN」が掲げるポリシー「美しさと正しさでメイクマネー」があらわすように、人の中には相反する欲望があるものだし、人それぞれ求めるものは多様であっていいですよね。「社会に良いことをしているから儲からなくて当たり前、儲けてはいけない」ではなくて、その両方を求めてもいいんだと。
mySDG編集部:確かに私たちのどこかで「好き・やりがい」と「安定・高収入」は真逆の位置にあるものと捉える傾向があります。両方を実現する人がそもそも少ないというのもありますが。
布田さん:そうですよね。あとは、ひと昔前だとソーシャルビジネスしかり、好きを仕事にして生きていく選択をすると、やり続けなくちゃいけないというプレッシャーがどこかにありました。社会課題を解決できていないのに、やめられないと。でも人はライフステージが変われば、求めるものも変わってきますよね。たとえば結婚して家族が増えれば、これまでのように事業に時間に費やせなくなったりお金が必要になったり。であれば、これまで育ててきた事業を一度譲って、売却益を今必要なことに使うという選択もできるわけです。つまり、一度決めたらずっと同じことをやり続けなきゃいけないわけでもない。
もちろん自分が起こした事業を一生やり抜いていくクリエイターもたくさんいますが、一方でこれまで取り組んできた事業を一度売却してまた別のプロジェクトを始めたり、少し休んで次に大きな挑戦をしたり。そういったことができるプラットフォームを提供したいというのが「GOZEN」の存在理由でもあります。
■「ソーシャルM&A」でクリエイターの選択肢を増やしたい
mySDG編集部:もっと柔軟であっていいということですよね。信念をもって社会課題に取り組むなら、最後までやり抜くべき、かくあるべきと、自分で自分を縛ってしまうのではなく。
布田さん:そうですね。クリエイターがある種、軽やかに生きられるというか、アイデンティティをそのときどきで心地いい形に変えていくことができたら、すごくいいんだろなと思います。そのために彼らに出口を示していくことが僕らの役割でもあります。
mySDG編集部:今後はどのような展開をお考えですか?
布田さん:「GOZEN」を立ち上げて1年、今はとにかく事業者側も買い手側も豊かになれるM&Aを一件でも多く作り出すことですね。この先ソーシャルM&Aを社会に浸透させることで、クリエイターや起業家にとってソーシャルM&Aの選択がふつうにできる世界を作れたらいいなと。別の面白い事業をやりたいから今の事業は売ろうと思うんだ……みたいなことが気軽に話せる世界ですね。
それに、事業の出口を知ってもらうことで、クリエイター自身も、もっと自由で豊かなライフキャリアを描けるはずなので。起業にハードルを感じる人にとっても、「ある程度の年商までもっていければ、GOZENがなんとかしてくれる」という気持ちで起業に踏み切れるかもしれない。クリエイターや起業家たちに、ある種の心理的安全性を確保できる社会を僕たちで作れたらいいなと思っています。
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