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『今にも削除したくなるような自分語りを:エピソード5 星とぼくらと』

 MacBookのトレードマークである林檎を、かじるようだった。
 2016年、前社で経営管理部の部長をやっていた竹谷は、ある打合せに参席していた。
「イラスト制作会社同士、変に敵対せず関係を深めていこうよ、竹谷くん」
 当時の代表がそう思い立ち、先輩かつ競合のイラスト制作会社へ打診し、実現した場だった。
 眼鏡の奥の瞳が、ぎらついている。熱された言葉を、止めどなく放ってくるひとがいた。
 もちろん、その話は面白く、刺激と学びになることばかりであったのだが、竹谷はとにかくMacBookのモニター背面にある林檎に気を取られていた。
 『大東京トイボックス』というマンガがある。ゲーム業界を舞台に、ゲームへの情熱を余すところなく注ぎこむゲームクリエイターたちを描いた最高傑作だ。
 その主人公の名は、天川太陽という。いつも赤色のジャージを身にまとい、不精ひげが絶えない。そして太陽という名に恥じぬほど、ゲームへ対する熱気を全方位に発している。竹谷のSNSの似顔絵アイコンは、光栄なことにその作者うめ先生に描いてもらったものだが、着る服を『大東京トイボックス』の天川太陽の赤いジャージか『スティーブス』のスティーブ・ジョブズの黒いタートルネックかを選択でき、竹谷は迷わず前者を選んだ。それくらい愛してやまないマンガである。
 その天川太陽が、MacBookの林檎を手に持ち、かじりつこうとしている。彼は、背面いっぱいに、黒のマジックで描かれていた。
「竹谷さん、なにかありますか?」
 打合わせの終盤、代表が訊いてきた。なぜか、チャンスだと思った。
「そこに描かれているのって、天川太陽ですよね」
 対面している男性に向け、竹谷は自然を装い質問する。イラストの事業や理念といった内容でなく、単純に『大東京トイボックス』の話を持ち出したことに、実のところ気後れしていた。
 そうです。
 そういった類の返答が来ると思っていた竹谷は、思わず線のような目を見開いた。
「魂は合ってる」
 腰を上げて高らかに言いながら、その男性は、手を差し出してくる。「魂は合ってる」という言葉は、天川太陽の名台詞中の名台詞である。勢いに気圧されつつも、竹谷は慌てて握手を返した。
 彼の手は、熱かった。
 株式会社サーチフィールド代表取締役社長、小林琢磨。
 サーチフィールド社は、大先輩のイラスト制作会社で、そのクオリティの高さは噂で聞き及んでいた。会社のウェブサイトを折々訪ね、メンバー紹介のページで小林さんの似顔絵を見ては、どんなひとなのだろうかと想像していた。そんな彼と一番に握手ができたのは、代表ではなく竹谷だった。それが、なんだか誇らしかった。
 有名な俳優や、憧れの野球選手と握手を交わせた、少年じみた喜びのようなもの。生まれてから今まで、竹谷はアイドルや音楽グループを含めてもだれかの熱心なファンになるということがなかったが、この日、小林さんのファンになった。
 天川太陽が描かれたMacBookを所持しているだけあって、まさに太陽のようなエネルギーに満ちたひと。
 星には、恒星、惑星、衛星とあるが、言わずもがな太陽は恒星であり、恒星は巨大な銀河を形成する。それは星でなく、人間でも同じことである。
 これは、連なる太陽のような星々と、竹谷との出会いの記録だ。
 そのきっかけは、必然かもしれないが、『大東京トイボックス』の天川太陽だった。

 ミリアッシュとして船出した、竹にもなりきれていない筍は、ある島に着く。内へ内へと歩んでいくと、まずその眼を捉えたのは、光熱溢れる林であった。

 竹谷はゲームが大好きである。もちろん、音楽も映画も、アニメもマンガも大好きである。どれが欠けても、生きられない。
 自分のことは、所謂「マンガ好き」と思っていた。毎日のように書店へ赴き、なにか面白そうなマンガはないかと、90キロの体躯で練り歩いていた時期もあった。だれかのマンガの知識の少なさに、両手をあげながら小馬鹿にした覚えもある。まったく仕様もないマンガハラスメントである。
 その自分が、いかに小さい存在であったか。
 株式会社ミリアッシュを設立した時、まず挨拶に行きたいひとがいた。
「漫画大好きっ子。ナンバーナインの小林です」
 執筆された記事等で、そう自らを紹介するひと。
 手を握り返してから、竹谷は小林さんを調べることが輪をかけて多くなった。彼は、色々な事業を展開されている起業家であり、同時に経営者だった。
 その事業のひとつに、マンガサロントリガーというものを見つける。マンガがたくさん置いてあるバーのようなところで、ノマドワーカーとして使用もできれば、イベントの開催もできるところだ。
 面白そうな場所だと思った。そして、行ってみたいと素直に感じた。小林さんの居る時に行ければ、なおのこと良い。
 そんなことを考えていた折、あるイベントが見つかる。
 第一回未来物語会議。『左ききのエレン』の作者であるかっぴー先生、『彼女のいる彼氏』を描かれている矢島光先生、そしてコピーライターの阿部広太郎先生の3人が、各々の作品についてトークする催しで、小林さんが司会を担当するものだった。日時は2017年2月11日。ミリアッシュの設立日から、わずか4日後だった。
 神か仏かマザーハーロットか、もしくは超越的な存在が、竹谷に与えた好機だと思った。すかさず、副社長杉山とともに竹谷は申し込む。
 イベント後の懇親会で、竹谷は早速小林さんへ近寄った。
「独立しました」
 なんとか、言葉を紡ぐ。急ぎパワーポイントでデザインした、いや、デザインとも呼べないような間に合わせの名刺を、そそくさと小林さんへ渡す。電話番号もなければ、ロゴもなく、紙質もペラペラの名刺だった。
「ミリアッシュ?」
 そんな言葉が一体全体この世にあったか、という感想を表現するような、それは見事な疑問符だった。小林さんを責めるつもりは一寸もない。名乗る自分も、ミリアッシュなどというものが実在しているのか、まだまだ半信半疑であった。
 小林さんは、朗らかに寿ぎの言葉をくれた。さらに、会社の経営について、情熱をもって色々な話をしてくれた。以前お会いした時よりも、近い距離感で、時間を過ごすことができた。
 しかし。
 竹谷には、ある不安がふよふよした腹の底にじっと居座っている感覚があった。
 きっと、小林さんに覚えられてはいない。
 今日は仲良く話せても、明日はまた見知らぬ他人となってしまう。悲しいが、確かな現実であった。竹谷には人目を引くような外見もなければ、話題の沸騰しそうな事業実績もない。そんな人間を覚えろと言い寄るほうが、荒唐無稽である。
 なんとかしなければ。冴えないながらも焦りだけは一人前な竹谷は、ひとつだけ解決策をひねり出す。
 とにかく、たくさん会うことだ。ああ、もはや解決策と呼ぶさえ恥ずかしい。
 幸いにも、マンガサロントリガーでは交流会や勉強会といったイベントが多く、訪ねられる機会は多かった。考えるより、足繁く。心に残るような印象の程度がないなら、頻度で格闘するしかないのだ。
「竹谷さんは、いつもいますね」
 まみえる小林さんは、いつも笑顔で、竹谷と談笑してくれた。その頃小林さんは、10年に渡って続けた株式会社サーチフィールドの代表取締役を退き、コミックエージェンシーを事業とする株式会社ナンバーナインに集中すると発表したさなかだった。10年続けた会社への思い入れは、竹谷にはまったく窺い知れない。自負も地位は当然として、それらをはるかに上回る愛情もあったはずだ。勇退の心に、竹谷は一層惹かれた。会社は異なり、登らんとする山は違えども、登ってやるという意志を同じくするひと。そんなひとと出会えた幸運を、ありがたいと思わずにはいられなかった。
 少し時が経ち、2018年10月26日。会社を設立してから、1年半が経過していた。
 竹谷は、その日もマンガサロントリガーにいた。普段より、幾倍も心を張り詰めて。
 『マンガ新聞』というメディアがある。新しいマンガや、知る人ぞ知るマンガについて、熱量の入ったレビューが並ぶウェブ媒体である。レビュアーの方々は、色々な業界から集まった、マンガをこよなく愛する猛者たちである。そしてレビュアーたちは月に一度集まり、PVの多かった記事や最近の面白いマンガについて話に華を咲かす。
 小林さんからの招待で、竹谷はその定例会に呼ばれていた。
 知らないひとやいない堀江貴文氏や、『ドラゴン桜』や『宇宙兄弟』といった名作の編集を担当されていた佐渡島庸平氏が、その会合には出席している。小兎のような竹谷の緊張感を、ご想像いただけるだろうか。
 さらに、マンガサロントリガーでの定例会では、なんでもいいから一品持ち寄りというルールがあった。なんでもいい、と言われると、私服可の面接と同様に、妙に勘繰ってしまう。ゲーム『ファイナルファンタジーV』の武器チキンナイフが大好きなチキンの竹谷においてその勘繰りは最果ての地へ到達し、どうせ皆超絶にお洒落で高級なものを持参するに違いないと踏み、副社長杉山の奥方から雑誌『FRaU』を借りて読みこんだ。ファッション・カルチャー・ライフスタイルについて書かれた雑誌である。いなり寿司、豆大福、カヌレ。ここまで来ては、もはや選択を間違えるわけがない。カヌレってなんだろう。
 ゴゴゴゴゴ。
 重い扉が開いたり、古い機械が鈍く動いたりしているわけでもない。マンガ『ジョジョの奇妙な冒険』には、緊張感を演出するために「ゴ」や「ド」といった音が、原稿を縦横無尽に走り抜いている。ちなみに好きなスタンドはハイウェイ・スターだ。
 ただ、これは竹谷が緊張しているからではない。堀江貴文氏や佐渡島庸平氏と一緒に、卓に座している男性から発せられていた覇気である。
 ちなみにその男性は、九州発のレストランチェーン「長崎ちゃんぽんリンガーハット」の餃子を持参していた。
 竹谷は、自分の手を見やる。指からぶら下がったビニール袋には、府中の名物である餃子が入っていた。結局、等身大ありのまま、つまりレットイットゴー作戦を採用していた。高価で洒落っ気ある料理やスイーツの中、あえて餃子があるのも逆に悪くないだろう。そう狙ってのことだった。
 その末に、餃子が被った。なんてことだ。

 林の中を歩くと、筍は開けた場所に出る。そこには、天まで届くかと思わんばかりに大きな松が、どっしりと佇んでいた。

 実は、二度目だった。
 その半年ほど前、田町で開催された交流会で、竹谷は初めてその男性と名刺交換をした。
 株式会社サイバーコネクトツー代表取締役社長、松山洋。
 名前は知っていた。小林さんのSNS等で、顔も拝見していた。しかし、会う時が来るとは思ってもいなかった。
 テレビ番組『奇跡体験!アンビリバボー』で特集されるような、ゲーム業界の雄を前に、竹谷は縮みあがっていた。
「た、竹谷と申します。イラスト制作会社をしています」
「そうですか。よろしく」
 おそらく、時間にして一分にも満たなかったはずだ。名乗り、会社の説明を簡潔にする。それで、以上だった。
 松山さんはとても丁寧に、竹谷の話を聞いてくれた。ただ勝手に、竹谷が威圧感を覚えていただけである。
 名刺交換が終わると、竹谷には後悔しかなかった。きっと松山さんは、竹谷のことをもう覚えていないだろう。たくさんのひとが来ていた交流会である。印象が薄ければ当然に、記憶からも早々と消えてなくなる。ましてや松山さんは、竹谷とは比較しようもないほど、多くのひとに会い続けている。覚えてもらえるわけがない。繰り返すが、竹谷には秀麗な眉目も、特出したセンスや才能もない。熱意を訴えることも、できなかった。
 そして、たくさん会って自然に覚えてもらおうにも、松山さんとの会い方など、竹谷には皆目わからなかった。
 そう思っていた中の、二度目のコンタクトであった。『マンガ新聞』の定例会に、松山さんがいたのだ。お酒をしこたま飲み、マンガへの情熱を存分に迸らせて。
「実は以前、ご挨拶させていただいたことが」
「ああ、そうだっけ」
 小林さんに紹介してもらい、竹谷は再度松山さんと言葉を交わせた。当然に、松山さんはなにも悪くない。半年前の一分弱を覚えているほうが、土台不可能な話である。
 マンガ新聞の定例会は、二次会がほぼ必ずある。稀代のサウナ好きである小林さんに誘われ、竹谷は初めて水風呂の快感に溺れた。水だけに。冷たさに、年甲斐のない悲鳴も出た。そして小林さんは松山さんと大の仲良しなので、松山さんもサウナに同道されている。
 鎧を脱ぐとは、しばし耳にする言葉だが、ことサウナにあたっては鎧どころか褌さえ脱ぎ捨て、裸体で対面する。そしてサウナと水風呂は、熱の急激な上下による苦楽のようなものである。インスタントラーメンのようではあるが、瞬間的に、苦楽を共にした仲になれるわけだ。なお、松山さんのサウナでの珍事は枚挙に暇がないが、サイバーコネクトツーの社員の皆様に叱られる未来が若干見えるため、ここでは割愛させていただく。いや、せっかくなのでひとつだけ書かせていただきたい。水風呂に入る際、その冷たさに耐えるため、松山さんはマンガ『からくりサーカス』の登場人物である加藤鳴海の技「硬気功」を再現する。気合とともに、両手の人差し指と中指を立て、正面にまっすぐ突き出すのだ。鉄の檻とかを曲げたりはできても、水風呂の冷気に効果があるとは、マンガでは描かれていない。それよりも、突き出した手の先に見知らぬひとがいると、どこはかとない気まずさの流れる妙技である。
「松山さん、硬気功、こっち向いてやってください」
 都度、竹谷がこう申しあげるまでが一連である。
 月一で開かれる『マンガ新聞』の定例会で、竹谷は小林さん、松山さんとご一緒させていただく機会が増えた。その分、竹谷は松山さんのことを知っていく。ちなみに、まだこの時期は「ミリアッシュの竹谷さん」と、松山さんからは呼ばれていた。
 知れば知るほど好きになる。松山さんは、そんなひとだ。
 常に戦線に立ち、業界を、ひいては社会全体のことを考え、アクションを起こしている。企業の代表としてビジネスを、つまり利益を出すことは当たり前に考えていても、面白さに対しての真摯さが尋常ではなく、異常の数倍である。ご自身の写真ひとつでさえ、エンターテインメント性の有無を考えている気さえする。小林さんと「琢磨、まっちゃん」と呼び合う関係になるのも、心から頷けた。ふたりとも、マンガ『太陽の戦士ポカポカ』なのだ。
 そして、竹谷は己の不明を恥じる。ゲームを愛している、などと嘯きながら、『.hack』や『NARUTO-ナルト- ナルティメットヒーロー』、『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル』といった名だたるゲームを作った会社の社長のことさえ、竹谷はなにひとつ知らなかったのだ。厚顔無恥、ここに極まる。
 もっと、松山さんと話したい。もくもくと、そんな欲が天然パーマの頭をもたげた。
 世界とは不思議なもので、思うことは、ふとした折に現実となることが多い。物事の良い面を見るひとには良いことが起こるし、悪い面を探してしまうひとが良いと言えない状況へ陥りがちなのも、同様の理由からであろう。松山さんと会う機会を探す竹谷は、それより前の自身と比較し、アンテナが切り替わっていた。「アウトレンジ・レクリエーション」という言葉を、SNSで見かけることが増えた。いや厳密には、会いたいと思っていたからこそ、その言葉を認識できる脳になっていたのだ。
 「アウトレンジ・レクリエーション」は、サイバーコネクトツーの東京支社で月に一度開催されている交流会である。猫の手も借りたいほど多忙な松山さんがしっかりと臨席し、サイバーコネクトツーは福岡だけでなく東京にも拠点があるということを、積極的に外へ向け発信している。誰でも気軽に参加でき、なんと会社見学もさせてもらえる。
 松山さんのようなひとに、どうやって会えばいいのか。そんな竹谷の悩みは悩みではなく、ただ情報を入手できていないだけであった。月に一度、手続きひとつで会える場が用意されていたのだ。竹谷は再び自らの無知に赤面しながら、申し込みのボタンをクリックする。
 「アウトレンジ・レクリエーション」に集まったメンバーは、サイバーコネクトツーならびに松山さんのファンや、ゲーム業界の方そして漫画家さんと、さまざまな人たちだった。そういった方々が、松山さんと同じ時間を過ごしたくて集まる。改めて松山さんの力に竹谷は驚いた。もちろん、集まった方々もそれぞれコミュニティがあり、「アウトレンジ・レクリエーション」が契機となり、色々なイベントや遊びにお呼びいただく光栄に浴せた。
 その中のひとつに、来ていたひとだった。
「なんでやねん」
 小学生のころ、マンガ『ふしぎ遊戯』の翼宿から何度も聞いた言葉。新卒の時、上長から浴びに浴びた言葉。
 しかし、ネイティブな関西弁をここまでちゃんと、しかもたくさん聞くのは、人生で初めてかもしれなかった。

 太陽のように熱した霊木の松を仰ぎ見ると、上空には燦々とした月が浮かんでいた。

 2019年6月29日。誘われたボードゲーム会に竹谷は来ていた。ひとと話すのが得意でない竹谷は、正直なところボードゲームに苦手意識を持っていたのだが、せっかくお誘いいただいたこともあり、苦手意識を払拭しようと思っていた。
 場所は「アウトレンジ・レクリエーション」と同じく、サイバーコネクトツー東京支社。大井町にも通い慣れたもので、阪急百貨店の大井食品館へ行けば大抵のおいしいご飯やお菓子を揃えられることがわかった。駅近くにある「おふろの王様」は、色々な種類の温泉はもちろんサウナも完備され、帰り際に寄ると幸せな気分になれる。互いが好きな食べ物を買って持ちこむのが、サイバーコネクトツー東京支社にお邪魔する時の通例であった。あまり思い出せないが、この日は皆で食べるためのお菓子を少々と、小粋なお弁当を買っていった。もう餃子は持っていかない。
 メンバーは「アウトレンジ・レクリエーション」とは異なれど、ゲームやマンガといった、エンターテインメント業界の人たちがいたように覚えている。
 その中に、彼女はいた。
 株式会社バンダイナムコエンターテインメント、月田百合香。静かな夜の風景を連想させるような、雅な名前。そう思ったと同時に、あまりこういう場で記すのも気が引けるが、きれいな方というのが最初の印象だった。
 『マフィア・デ・クーバ』や『お邪魔者』といったボードゲームをするうちに、竹谷は思い知る。月田さんは、筆舌に尽くしがたいほど面白い。面白さは、ゲーム『ファイナルファンタジーVII』のレッドXIIIのように「興味深い」と言いたくなる、探究心をくすぐられるものと、デレシシシと破顔したくなるそれがあるが、月田さんの場合は後者である。ゲーム『ペルソナ5』で高巻杏の構えるサブマシンガンよろしく、高速発射される関西弁とともに、頭の回転の速さで場を賑やかにしてくれる。あけすけで明るく、照らされて初めて輝く月というよりは、自ら燃え盛る太陽のようなひとだ。集まったメンバーもほとんどが月田さんのパーソナリティを先刻ご承知だったようで、月田さんのボケとツッコミに皆笑いながら過ごしていた。
 月田さんは、インドアやアウトドアといった垣根を吹き飛ばし、面白そうなことや楽しそうなことへ貪欲なひとだ。まるでエンターテインメントが受肉したような存在である彼女は、マンガ『HUNTER×HUNTER』のネフェルピトーの「円」のように、面白さに対するアンテナをピンと張り巡らせ、いつも皆が喜びそうな企みを続けに続ける。そういう月田さんだからこそ、太陽のような引力でたくさんのひとを惹きつけるのだろう。ゲーム『DARK SOULS』でいう、太陽の戦士ソラールがここにはいた。太陽万歳である。
 ありがたいことに、ポツポツと、月田さんから遊びに誘われることが増えていった。ボードゲームやデジタルゲーム、リアル脱出ゲーム、そしてマーダーミステリー。そういったエンターテインメントの溢れるところには当然、エンターテインメントのアスラであるサイバーコネクトツー松山さんも臨んでいることが多かった。
「竹谷さん、最近いつも松山さんと遊んでいますね」
 お会いするひとから、このようなお褒めの言葉をいただくことが多くなった。それだけ、松山さんと一緒にいること自体がすごいという証左である。すべて本当にありがたいご縁であると、うるさいかもしれないが、何度でも言いたい。
「いつもまっちゃんとばかり遊んで、俺とは全然遊んでくれない」
 ナンバーナイン小林さんからは、こう冗談を言われる始末だ。ちなみに、ナンバーナイン社とミリアッシュは、会ったらラーメンを食べなければならない、という覚書を締結している。契約書の草案を弊社の顧問弁護士に確認してもらったのだが、今まで相談した中でもっとも多いレベルに赤ペンの入った覚書が返ってきた。ラーメンを食べよう、という真面目に遊んだ契約書に、遺憾なく全実力を投入してくれた弁護士には、ここで改めて御礼を申しあげたい。さらに言うなら、最近竹谷は減量中であるため、小林さんにお会いしてもラーメンが食べられないのが心苦しい限りだ。無事に痩せきった暁には、ラーメンマンになるほどたらふくラーメンを食し、見事リバウンドを成し遂げる所存だ。
 これを書いている時点では、毎週のように月田さんや松山さんとご一緒する予定が入っている。このような事態、昨年の竹谷には予想だにできていなかったことだ。もはやしつこいくらいだが、誘ってくれる月田さんにも、都度SNSに「ミリアッシュ竹谷」と投稿してくれる松山さんにも、その松山さんに覚えてもらう契機を作ってくれた小林さんにも、感謝以外を想う余地がない。
 小林さんから松山さん、松山さんから月田さんへと、出会いの輪はカチリとはまり、繋がっていった。太陽は、別の太陽と親しい。日々急速に流れる時間とともに変動していく関係の中、繋がりが別の繋がりを連綿と生んでいき、竹谷の人生を豊かにしてくれている。報恩したいと思うことばかりが増えてきた。いただいた恩を返しきれない。そう思いながら毎日を生きることは、それ自体が贅沢なことだと、改めて思う次第である。
 竹谷の出会った、花札のような名前のひとたちは、すべて太陽のごとく大きな星々だった。感化されて、飲み会や遊びの企画を少し始めた竹谷にも、いくらか太陽の血が混ざり、アニメ『天体戦士サンレッド』の楽曲『溝ノ口太陽族』のようになってきているのかもしれない。それは竹谷の中では強い変化であり、そして無変化の寂しさと比較し、往々にして変化は良い兆候である。
 きっと、前社に残ったままの竹谷では、こんな僥倖に預かることはできなかっただろう。独立不羈になると決め、会社をせっせと作り、心身ともに鍛え磨いて生きようと思ったからこそ、巡り会えたひとたちだと信じている。
 そしてひととの出会いこそ、自分だけでは起こり得ない変化をもたらしてくれるものである。ゆえに今築きつつある関係を一層大切にしていこうと、竹谷は一再でなく、口の酸っぱくなるほど自身に言い聞かせている。

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