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『アンドリューNDR114』〜にんげんっていいなぁ(不完全さの魅力)~



00.はじめに


この作品ではAIのロボットであるアンドリューが自我に目覚め、人間と同じように生きることに対して真摯に向き合い、悩む姿を映しています

アンドリューが長生きしていく様子と共に、世界の文明が変わっていく様も見逃せません

建物、調度品、交通の進化やデザインも見どころ満載です

他から見た人間はどういったものなのか?

誰しも自分や他人、世界に嫌気がさしていることだろうと思います

戦争と虐殺、地震とケア、痛ましい事故、貧困と格差、外国人排斥とヘイトなど、世界は良くなっているどころか、不穏な空気がわたしの周りにも徐々に立ち込めてきています

なぜこうなってしまっているのか?

それは本作品の大企業ロボティクス社のように、従業員、お客さんを人として見ず、利益のみを追求して、コントロールすべき達成すべきモノとして見ているからでしょう

そうした達成主義は人を選別します

そして選ばれない人だけでなく、選ばれた感情を抑圧された素直な人もまた病んでいくのです

不安と恐怖が心を覆い、自分のことしか考えられなくなる、悲観的になる、保護的になるのです

みなさんは「バック・トゥー・ザ・フューチャー2」のさびれた未来をご覧になったでしょうか?

自己顕示欲の強い大富豪ビフはトランプ大統領がモデルだと言われています

金持ちは集団で町を作り、セキュリティを備えている

周りの町は貧困なスラムと化しています

そんな未来に段々と近づいていっていると感じるのは私だけでしょうか?

今、本来の健康的な人間性が消えかかっている時だと思うのです

noteの友人の記事で忘れられないものがあります

介護職はいつも人手不足だけれど、昨今、今までモノを扱ってきた人が転職して来ることが多くある。

だけれどもモノを扱う習慣が染みつき過ぎていて、全く介護には適していないといった趣旨でした

心を通わせる感覚がそもそも無いのです

そこでは ”作業” が黙々と行われているだけにすぎない

そのような人間性が痩せ細る世界に住み続けたいとあなたは思いますか?

子どもを住まわせたいと思いますか?

わたしは自分の身体は神からの借り物だと思っています

それはこの世界も同じだと思っています

次世代に『託す』ことができるものを『継承』していかなければなりません

そして何より私たちのために住みやすい世界を作り続けなければなりません

アスファルトと同様に、多くの人が世代に渡って住んでいけば、通りは痛むのです

本作品の登場人物であるポーシャの仕事のように良きものは『修繕』していかなけらばならないと思っています


~《誰かに伝えたい名セリフ》~


☆アンドリュー:「これは自分の銀行預金です。自由を買いたいのです。自由を下さい。ですが3原則を守り、今まで通りお仕えします。変わるのは立場だけです。”所有物” でなくなるのです」☆
0:54:00~0:58:00

~背景:アンドリューは世界の歴史から自由に憧れます。そして自分にもと切望します。自立するとはまず、自由を得ることです。自由とは誰にもコントロールされないというただ1つのことです。他の人との間に境界線を引くということは自立への第一歩だと思います~


~《あなたに観せたい美しいキャメラシーン》~


☆アンドリューとアマンダのピアノデュエットのシーンです。小さなアマンダの手と大きなたくましいアンドリューの手のみで二人の関係が分かります。アマンダの先行する旋律に後ろから温かな眼差しで付き添うようにアンドリューは優しく鍵盤を触ります。そしてアマンダの手が女性の手に変わっていきます。時の流れ、アンドリューの変わらぬ温かな奉仕が見事に表現されたシーンです。☆
0:34:30~0:36:35


~《主な登場人物》~


アンドリュー・・・
ロボティクス社のAIロボットNDR114型。初期から自我に芽生える


リチャード・・・
アンドリューが使用人として働く家族の父親。アンドリューに人間の生き方を教える


アマンダ(リトル・ミス)・・・
リチャードの次女。共感力の豊かな性格


グレース(ミス)・・・
リチャードの長女。意地悪な性格


レイチェル・・・
リチャードの妻


デニス・・・
ロボティクス社の重役


ロイド・・・
アマンダの長男


ガラテア・・・
女性のNDR114ロボット。ルパートの人格チップで陽気な性格を持つ


ルパート・・・
元ロボティクス社社員だった父親から研究を引き継ぎ、NDR114の発展開発をしている


ポーシャ(アマンダの孫)・・・
アマンダに瓜二つの顔を持つ



01.我が家にロボットが!


冒頭の場面。キャスト紹介のオープニングクレジットで、出演者の名前の文字が時計の長針のようにチクタクチクタクと動いています

音楽のリズム、ロボットの手の動き、コンベアの運転と停止、テロップのクレジットの表示が調和して、機械のピストンシリンダーやサーボモーターのテンポになっているのが軽快です

チカチカするセンサーライト、複雑な身体の内部はとても魅せられます

ロボットの目や腕の機械仕掛けの伸縮のリズムに乗せて、文字が大きくなったり小さくなったりしている、ユーモラスな始まりです

ツヤピカでなめらかな金属のボディと溶接する時の細かな光、精巧なロボットが量産されているシーンはコミカルで温かみが感じられます

機械の美しさを堪能して下さい!

この作品でどれだけ私たちをもてなしてくれるのかが、映画の冒頭シーンというのははっきりと分かるんです

本作の舞台背景は「あまり遠くない未来」と記されています

ロボティクス社より、ある一家宅に家庭用のロボットが大きな車に乗せられて配達されてきました

配達人A:「いい家だな」
配達人B:「そうだな」

ロボットが収納されている箱にはこう書かれています

”ロボティクス社 一生守り仕える”

配達トラックの音に気がづいた家主は、家族を呼び一家総出でロボットを迎え入れます

木がたくさん使われた温かな暖色がたくさんの内装です

全体的にセピア調の画面で撮られています

リチャード:
「みんな、下りておいで!」

「どうもご苦労さん、そっちへ運んでくれ」
「おいで、おいで!みんな驚くぞ!」

この父親役のサム・ニールはメーキャップアーティストの渡辺典子さんを妻にしているんですね。

あの『ジュラシック・パーク』の主人公の人です

柔らかくしなやかな演技、とても包容力を感じます

とってもいい父親を演じています

集まってきたのは姉妹二人と奥さんです

五歳くらいの末っ子アマンダ、10歳くらいの反抗期真っ盛りの長女グレース、ごついブレスレットをした妻レイチェル、夫リチャードの家族構成です

アマンダ:「何なの、これ?」
リチャード:「待て、じっと待つんだ」

配達人たちは頑丈な重厚な箱を開け、ロボットをお披露目します

箱の中から姿を見せたロボットは、がっちりした体格で、人間の顔に似た優しい表情をしていました

あまりに人間そっくりなので、末っ子のアマンダは驚きと興味津津なかわいい表情で、ロボットを覗き込みます

配達人B:「では ”DNR” を楽しんで!」

家主のリチャードはロボットのリモコンを手に取り、さっそく起動させました

ロボットの指がピクピクと動き出します

こんなところは人間が朝起きる時みたいに段々とお目覚めするのですね

アマンダは後ずさりして、後ろに立っていたリチャードに抱きしめられます

ロボットは目をパチパチさせて、箱から一歩出てきました

ロボットはゆっくりと言葉を発し、自己紹介します

きっちりとプログラムされているのですね

ロボット:
「ロボティクス社製家庭用ロボット DNR114 製造番号583625です」

ロボットから見た視界が画面に映し出されてます

Hello、world!

初めてプログラミング言語を学ぶ時に表示させる文字列です

まさに起動したという感じです

段々とくっきりキレイに解像度か増していくロボットの視野

リチャード一家が映し出され、何かの文字表記がたくさん並び始めました

どうやら人だと認識して情報を集めているようです

ロボット:「ハロー」
リチャード:「ハロー」

リチャードの言葉がロボットの聴力機能にぼんやりとこだまします

ロボット:「自分の家族ですか?」
リチャード:「まあ、そういうことだ」

このロボットの起動シーン。何かに似ていると感じませんか?

そうです。始めて赤ちゃんを迎え入れる時の、人生の最初の世界に登場する時みたいですね

生まれた時の記憶は私たちには無いけれども、こうして大人になっても疑似体験できることって、とても素晴らしいと思いませんか?

映画のリアルの追求って本当にすごいです

私たちは生まれてきた時、たくさんの人達の笑顔や涙を貰って生まれてきました

皆さんもそんな温かな気持ちを体験することができるでしょう

リチャードのとっても優しい笑顔に、大切にしてくれる人からの安心感を覚えます

ロボットは生まれたての赤ちゃんのように、ぎこちなくゆっくりと箱から出て歩き始めます

巨体が機械音と共に動き出します

アマンダ:「怖いわ...」

自分より大きな体の鉄のかたまりが動く姿に、アマンダは身をすくめます

グレース:「怖いって? こんなのバカな機械よ」

少しひねくれた性格の長女グレースは、自分の不安や恐怖心を抑え込み、強気に出るタイプの性格のようです

リチャード:「さあ、それはどうかな?」

グレース:「ジェニーとケートの家にもあるけど、どれも同じよ」

アマンダ:「同じって、それはどういうこと?」

グレース:「同じ型のアンドロイドなのよ」

アマンダ:「”アンドリュー”って何?」

ロボット:「それは私の名前でしょうか?」

リチャード:「いいね、いい名だ。はじめまして、アンドリュー」

アンドリュー:
「ご主人様、ロボットの3原則を楽しくご紹介しましょうか?」


リチャード:「いいね」

アンドリュー:「効果の都合上、少しお下がり下さいませ」

するとどうでしょう、アンドリューの頭の上がパカッと開き、そこから大きなホログラムが飛び出して来ました

大きな効果音やパチンコ屋のような演奏曲とともに、アンドリューの説明が始まります

家族一同はそれにびっくりします

たぶん派手な自己紹介のおかげで、ロボットの三原則など家族には頭の中に残らなかったでしょう

作者はグレースの意地悪な言葉に、結果としてやり返したのですね



アンドリュー:
「第一の原則、ロボットは人間に危害を加えたり、危険な状況を傍観してはならない」

「第二の原則、ロボットは人間の命令に従う。第一の原則と相反する命令は例外とする」
「第一、第二の原則に準じつつ、ロボットは我が身を守ること」

説明が終わり、映写機能のホログラムが閉じられます


初対面のロボットがびっくり驚かすことをしたので、少しリチャードは怒り気味に言います

リチャード:「二度とやるなよ」
アンドリュー:「一度しかプログラムされてません」

この後も人が変わって何度も繰り返されるお笑いです

機械の人間らしくない行動に対してのツッコミに、機械的な真面目なボケをするという鉄板芸です

アンドリューは慈しみのまなざしで見つめ、まばたきもいいタイミングでするようにプログラミングされています

アンドリュー:
「人格を与えるかどうかもご主人が選択できます」

「 ”人格チップ” を入れて見ますか?」

リチャード:「今のままでいいよ...」

アンドリュー:「賢明なご判断です。サー」

このやり取りにもアンドリューの自虐的な面白さがありますね

リチャードは地下の作業場の部屋にアンドリューの自室を与えました

リチャード:「お前の部屋だ。何か必要なものがあるかね?」

アンドリュー:「電気のコンセントだけで結構です」

リチャード:「よし、ではおやすみ (good night) アンドリュー」

アンドリュー:「いい夜(good night) です」

リチャード:「 ’’グッドナイト” と言われたら、 ”グッドナイト” と言うんだ」

アンドリュー:「グッドナイト?」

リチャード:「そうだ」

アンドリュー:
「私が ”グッドナイト” と言ったら、あなたは ”そうだ” と言いました」

「 ”グッドナイト” には ”グッドナイト” では?」

リチャードは微笑みながら言います

リチャード:「グッドナイト」

アンドリュー:「グッドナイト、サー」

リチャード:「グッドナイト」

アンドリュー:「グッドナイト、サー」

リチャード:「一度でいいんだよ」

リチャードは優しく教えます

まるで父親と息子のような関係です

アンドリュー:「永遠に言い合うことになってしまいますよね」

リチャード:「その通りだよ」

アンドリュー:「わかりました」

リチャード:「よし!(グッド!)」

アンドリュー:「ナイト!」

リチャードはそれも同じ繰り返しだよと言った仕草を愛らしくしました

アンドリュー:「すみません」

アンドリューの真面目さとリチャードの優しさが分かるいいシーンですね

ここから、リチャードはアンドリューを教育する面白さを覚えていきます

リチャードは部屋の明かりを消すと、アンドリューは暗闇で静かに自らの充電を始めました

戦隊モノのヒーローのように透明な内部か青く光ってカッコいいです

人間が眠りにつくように、まぶたをゆっくりと閉じます


明くる日の朝、リチャードは出社し、子どもたちは学校に出かけます

妻のレイチェルはアンドリューと二人だけで家にいることに不安を感じます

レイチェル:
「1日中、後をつけ回されるなんて嫌だわ」

「電源を切ってもいい?」

リチャード:「仕事をさせればいいんだよ。いいね」

子どもたちとリチャードは一緒に車で出ていきました

レイチェル:「いい子でね!」
アンドリュー:「いい子でね!」

アンドリューもレイチェルに真似て言いました

それを聞いて、レイチェルは怪訝な表情をします

この言葉かけも面白いですね

母親の愛情を表す声掛けをロボットが真似て言ったので、ロボットの立場が曖昧になるわけです

レイチェルは母親として心を込めて、アンドリューは機械的な定型文として。


アンドリューは使用人用のロボットとして販売されていました

あくまでアンドリューは家族ではなく、使用人であり所有物なのです

アンドリューは自室の掃除に取り掛かります

不要なものを外に運び出します。たくさんのがらくたですが、木で出来たものがほとんどで、そんなところにも想い出やぬくもりを作品に与えています

よく人間に似せて作られたロボットで動きが何とも人間のような滑らかさなんですね

カクカクとした直線的な動きではありません

アンドリューは蜘蛛の巣の真ん中にいる蜘蛛を捕まえて、花壇の花の上に放しました

花びらの下に隠れていく蜘蛛を不思議そうに見つめています

アンドリューは整理した倉庫の部屋から壊れたレコード機を見つけます

アンドリューは何か興味がそそられたみたいです

アンドリューの画像には ”蓄音機、修理が必要” と文字が出てきます

どうやらアンドリューは他のロボットと同じではないらしいことが分かります

感情的な部分が存在するのです

ここに、この作品のテーマが現れているのが分かるでしょうか?

「古い壊れたレコード機」は未来のアンドリューの象徴のようでもあります

モノとしての役割を終えたレコード機

始まりと終わり。

役割とは何か。

そしてアンドリューの使命とは。

モノと人との違いは何なのか。

すべてのテーマが、この今から捨てられ廃棄されるレコード機に凝縮されています

そアンドリューは人間的な無意識がそうさせるように、そのレコード機を修理することを決めます

引き続き家族とアンドリューの慣れない関係を、ユーモアを織り交ぜたシーンとして出てきます


02.アンドリューとの暮らし


家族の食事中、執事のように部屋の隅に立って、家族の食事を見つめるアンドリューです

リチャード:「アンドリュー、いい味だよ」

アンドリュー:「どうも、ありがとうございます」

グレース:「まずいわ!(Suck!)」

グレースは「吸う、最悪だ」という意味の ”Suck” というスラングを使いました

グレース:「 "吸う”? 鶏肉が吸うのですか?」

スラングが分からないアンドリューをアマンダが可愛らしく笑います

レイチェル:「グレース、言葉に気をつけなさい。いいわね?」

グレースは反抗的な態度を示します

リチャードはアンドリューに下がっていいよと言います

リチャード:「もういいよ、アンドリュー」

アンドリュー:「 ”いい”? うれしいです」

リチャード:「キッチンだよ」

アンドリュー:「キッチンも ”いい” です」

アンドリューが返す言葉がすべて好意的なのがいいんですね

リチャード:「そうじゃない。キッチンへ下がるんだ」

アンドリューは隣のキッチンへ行き、立ったままじっとこちらを見つめ始めました

まるでVIPの護衛のように待機しています


アンドリューの視線を感じたレイチェルは、目を合わすとアンドリューは「ハロー」と答えます

言葉の意味から、家族だけにして欲しいというリチャードの気持ちを察することができないんですね

まだまだ家族の一員にはなれていない感が満載です

こうしたところがペーソスとしてちょっぴり切ない悲しさを感じるシーンです

珍しくグレースがアンドリューを自室に呼びます

レイチェルはついて行こうとしますが、リチャードは心配いらないと静止します

アンドリューに信頼と自由を示そうとするリチャードの親心が感じられます

ここで話をそれると、束縛することは信用してないと相手にメッセージを送っているようなものです

「過保護は不安の押し付け」は精神科医の水島広子先生の言葉です

親としてのリチャードの振る舞いは、親子関係に悩んでいる姿も含めて、とっても手本になりますので、注目していて欲しいです

アンドリュー:「お嬢様(ミス)、御用で?」

グレース:「窓を開けてくれる?」

アンドリュー:
「お役に立てれば幸いです」

「いい風が吹いています」

グレース:「飛んでみて」

アンドリューはその場でジャンプを繰り返します

グレース:「違うわよ! 窓から飛んで」

アンドリューは迷わず2階の窓から飛び降りました

アンドリューは重症の体で、リチャードに玄関を開けてもらいます

リチャード:「いったいどうしたんだ?」
アンドリュー:「家族のいさかいになるような情報は口に出さぬこと...」

アンドリューは人間のように意識を段々となくしていきました

リチャード:「アンドリュー!しっかりしろ!」



第三原則、ロボットは自分の身を守るという決まりがあるにも関わらず、アンドリューはグレースとの関係を築こうと、懸命に努力する姿を作者は見せるのですね

リチャードは子どもたちを呼び寄せました

並んで立たされたグレースとアマンダ、アンドリュー

三人の足だけキャメラは写します

アマンダはかわいいライオン柄のスリッパを履き、グレースは爪にエメラルドのネイルをし、アンドリューは傷だらけ泥だらけの足をしています

三人の様子が分かり、面白いアイデアです

姉弟喧嘩を叱られている子どもたち、可愛いです




リチャード:「アンドリューは道具の1つだ」
アンドリュー:「自分は道具では~あ・り・ま・せ・ん」

アンドリューは音声の機能をどこか傷つけたのか、うまくしゃべれません

リチャード:
「道具は大切にせねばならない。これからは人間のように扱うように」

「決して壊そうとしてはいけない」

アマンダ:「壊す?」

リチャード:「姉さんは彼を殺そうとしたんだ」

アマンダ:「お姉ちゃんが?」

リチャードと他の家族はどうやら考え方が違うようですね

リチャード以外はあくまでもアンドリューはモノという考えで、今のところアンドリューに愛着は抱いていません

リチャードの「人間のように」という言葉に少し反応をして、感慨深げなアンドリューです

ある日、一家とアンドリューは浜辺で余暇を楽しんでいます

次はアンドリューとアマンダとのふれあいのシーンです

アンドリュー:
「グレース、あなたをお守りせよと命令されてます。そっちは危険です、戻って!」

遠くの磯で遊ぶグレースに呼びかけました

グレースにとっては道具に注意されたと思い、いい気持ちではない表情を見せています

アマンダは砂浜で家から持ってきたクリスタルの人形や馬で何かごっこ遊びをしていました

砂でお城をつくって中世風の遊びをしているのでしょうか

アマンダ:「
『今夜はいい天気だ』

『”そうも思うわ』
『ホントいいお天気』”

「わたし、この馬が一番のお気に入りなのよ」

アマンダは自慢気にアンドリューにクリスタルの馬を披露します

アンドリュー:「キレイですね」
アマンダ:「あなたに持たせてあげるわ」

アマンダはアンドリューの差し出された手のひらにクリスタルを乗せますが、乗せ方が悪かったのか、アンドリューがタイミングよく掴まなかったからか、岩の上に落として粉々になってしまいます

アマンダ:
「ああ...一番好きだったのに...」

「もう買えないものなのよ」

アンドリュー:「修理しましょう」

アマンダ:「無理よ!」

グレース:「ドジな奴!」

アマンダ:「大嫌い!向こうへ行って!」

グレース:「元通りにできる?」

アマンダ:「無理よ、粉々になっているんだから...」

グレース:「あきらめるのよ」



残念そうにその場から去るアンドリューは流木を目にします

そして、そのあとアンドリューは自室にこもり、夜な夜な木工細工を自発的に学び始めます

壊れた馬の姿を録画していたアンドリューは見事に木の馬を作り、アマンダにプレゼントしました

アマンダは台所でグラスを洗っているというストーリーのつなぎ方がうまいですね

アマンダ:「アンドリュー!」

アンドリュー:「何でしょう?」

アマンダ:「このプレゼント、最高!」

アンドリュー:「お役に立てれば幸いです」

アマンダ:「一緒に私の部屋に来てくれる?」

アンドリュー:「まさか、窓の所ではないですよね?」

アマンダ:「違うわ」

アマンダは笑って答えました


アマンダはアンドリューを自室に招きます

アマンダ:「そこにかけて」

アマンダは茶色いぬいぐるみを手に取りました

アマンダ:「名前は ”ワンちゃん” よ。あなたにあげるわ」

アンドリュー:「ワンちゃん?」

アマンダ:「”ワンワン” と鳴くからよ」

アンドリューは耳を傾けますが、アマンダは言います

アマンダ:「もっとワンちゃんに慣れたらよ」

アンドリュー:「ありがとうございます」

アマンダ:「いいのよ」

人が心を通わせるには誰かの命令では駄目なのですね

その人との大事なエピソードが大切なのだと分かります

木馬とぬいぐるみの交換は、心と心の交換です

大切なものを失ったアマンダの痛みを感じる心を自分にも持つこと、

どんなものをプレゼントしたら、相手は喜んでくれるかという想像力が必要なのですね



03.自我の芽生え


朝食の時、リチャードはアンドリューの作った木馬を感心して見ています

アンドリューは素敵なパンケーキを二人の姉妹に給仕します

アンドリュー:「はい、リトル・ミス。はい、ミス」
 
リチャード:「本当にお前がこれを作ったのか?」


アンドリュー:「そうです」

リチャード:「ロボットは嘘をつかないはずだ」

アンドリュー:
「それは間違いです。命令された時、あるいはご主人に危害が及ぶ時は嘘を・・・」


リチャード:「アンドリュー、そんなことを聞いているんではないよ」

アンドリュー:「はい、”自分” がそれを作りました」

リチャード:「デザインもお前が考えたのか?」

アンドリュー:「はい」

レイチェル:「どうせコピーでしょ?」

アンドリュー:「コピー?」

レイチェル:
「ロボットには創造するチカラはないはずよ」

「本を見たか、コンピューターの情報から真似たのではないの?」

アンドリュー:
「材料の木をじっと見ていると、リトル・ミスが喜ばれるような動物の形が見えてくるのです」

段々と少しアンドリューは他のロボットとは違いを見せはじめるのですね

僕は人間になぞらえてこう考えます

愛情深く育てらてた子どもは自由と自分を見つめる健康的なチカラを得られます

社会でいう文化が花開き、リラックスした咎められない心持ちはよき創造力を生むのだと。

そう考えたらとても心が温まります

夜中に地下からオペラの曲がリチャードの寝室まで聴こえてきました

リチャードが様子を見に行くと、うっとりとした表情でアンドリューが聴いているのを見ました

リチャードはアンドリューを連れて、ロボティクス社に確かめに行きます

円柱のガラス張りの会社。ですが中が見えない巨大なビルが立ち並びます

ロボティクス社では作り手側のモノとしての扱いが徹頭徹尾なされていることが分かります

社員はリチャードに握手しますが、アンドリューの手は握りませんでした

ロボティクス社員:「ご連絡どうも、デニス・マンスキーです」

リチャード:「リチャード・マーティンです」

ロボティクス社員:
「お前は ” NDR114” だな」

「今日はどういう要件で? 性能に何か不具合がありましたか?」

デニスはアンドリューの頭を突然、軽く叩きます

アンドリューは驚いた反応を見せます



リチャード:
「アンドリューには興味深い性格があるんです...。創造力とか好奇心とか友情とか」

「こんなことは全く予期してなかったことだ」

ロボティクス社員:「アンドリュー?」

アンドリュー:「はい。デニスさん」

ロボティクス社員:「社交性もあるようですね」

リチャードはアンドリューの木工作品を数点見せました

リチャード:
「アンドリューの手作りです。独創的な芸術作品だ」

「しかも彼は『作ることが楽しい』と言った」

ロボティクス社員:「楽しい?」

アンドリュー:「マズい言葉でしたか?」

リチャード:
「いいんだよ。ロボットが何かを楽しむなんてことがありえるのか?」

「御社のロボットは皆、そういう感情を持っているので?」

ロボティクス社員:
「...配線の接触不良でしょう」

「料金の返金をお望みですか? それとも商品交換をしますか?」

リチャード:「そうじゃない。あなたがどう思われるかを伺いたい」

ロボティクス社員:
「欠陥商品ですよ。返金も商品交換も望まないとすれば、私たちはあなたに幾ら払えというのですか?」


リチャード:「どういうことかな?」

ロボティクス社員:
「外部に漏れると同機種を回収せねばなりません。購入している家庭でパニックが起れば、私のクビが飛びます」


アンドリュー:「それでは私の ”クビ” と交換を!」

自分を守るデニスを嘲るようなアンドリューの意図しない返しが小気味いいです

今はシリアスな話をしているので、リチャードもデニスもアンドリューの言葉には耳を貸しません

そんな面白いところをさらっと流す二人もまた可笑しいですね

リチャード:「もし彼を修理に出したら分解するのでしょう?」

ロボティクス社員:
「慎重に神経配線をたどって不良箇所を突き止め、陽電子(ポジトロン)でできている頭脳を交換して、新品同様に戻った状態でお返しします」


リチャード:
「神経配線はもろいはずです。修理の過程でダメージを受ける可能性がありますか?」


ロボティクス社員:「それは十分に気をつけます」

リチャード:「手違いがあった場合は交換するのだろうね?」

ロボティクス社員:「もちろんです」

リチャード:「彼のようなロボットが他にいるので?」

ロボティクス社員:
「人間のようにあなたはロボットを ”彼” などとお呼びになる...」

「人間の形をしているので、機械的な故障を性格的特質だと思い違いされているようです」
「これは単なる家電製品で、人間ではないのです」

リチャードはアンドリューの人間的な感情の原因が分からず、家族の威厳を傷つけられたため、そのままアンドリューと共に立ち去りました

ロボティクス社員:
「待って下さい!検査させて下さい。ご示談の額をご相談しましょう」


リチャード:
「いいか!人格を持つものに値段はない。彼は私のロボットだ」

「彼に手を出すことを禁じる」

ロボティクス社員:
「分かりました。待ちましょう。どうせ修理に持ち込むに決まってる」

リチャードのアンドリューに対しての家族の情愛が感じられる場面でした

しかし同時に『私のロボット』だと言うリチャードにも、アンドリューに対して所有物だという考えがあることが分かります

この先、こうした感情がアンドリューとリチャードの軋轢を生むこととなります

こうしたところもどこか人間の反抗期みたいなものだと感じさせるんですね

本作はロボットが自我に目覚めるという、一見恐ろしさを見せておいて、それは人間と同じ成長の必要な過程なんだよと言っているようです

ロボティクス社の穏やかな庭園を歩く二人。周りにはアンドリューと同じ姿のロボットが歩いています

京都の「哲学の道」のような穏やかで深く思索にいざなう魅力あるロケーションです

リチャード:
「私は心に決めたよ」

「お前は仕事を減らすんだ。子どもの世話や家事にかける時間を減らせ」

アンドリュー:「自分は子どもが好きです。特にリトル・ミスを」

リチャード:「それも矛盾の一つだ。そこを改めるんだ」

一台のロボットとすれ違い『ロボティクス社にようこそ!』と挨拶しました

リチャード:
「新しい日課だ。毎日何時間か作品を作るんだ」

「あまり芸術的だと、人間の誇りが傷つくから控えめに」
「私の商売に倣って、時計づくりはどうだろう?」

アンドリュー:「さあ、経験がありませんが」

リチャード:
「きっとできるよ」

「夜は毎晩、私と勉強の時間を持とう」

アンドリュー:「何の勉強をするので?」

リチャード:
「お前にプログラムされてないことを私が教えることにしよう」

「アンドリュー、お前はユニークなロボットだ」

その瞬間汎用のNDR型が通ります

こういった合いの手のような親切なシーンが多いです

アンドリュー:「ユニーク?」

リチャード:「お前の能力を最大限に育ててやりたい」

アンドリュー:「どんな能力があるのでしょう?」

リチャード:
「それは分からん。人間は時と共に成長する。だがロボットに ”時” はない。時は無限に続く」


アンドリュー:「無限?」

このリチャードの言葉は後々、アンドリューの心に残ります

その ”無限の命” に悩むことになります

アンドリューとアマンダは浜辺でたくさんの流木を集めます

この情景がとて美しいんですね

画面全体が流木色に染められているんです

つまりセピア色です、ずっと記憶に残るであろう想い出のアルバムのようです

この作品のテーマの一つである、”時”

それは人間とロボットを分け隔てる確固たるものです

打ち寄せては還す波は「いつまでも動きのあるもの」と感じさせ、永遠の繰り返しを表します

流木は「流されるもの」で我々、人そのものです

そして人は生命を終え、作品として新たに蘇り生き続ける流木作品は時を超越したアンドリュー自身のようでもあります

アンドリューとアマンダとのエピソードには浜辺のシーンが多くあります

二人の想い出として、大切な場所です



アマンダ:「この木はどう?」
アンドリュー:「使えそうです」

ジャズ・ヴォーカルを聴きながら木工作業をするアンドリューとアマンダ。こうした時間の育みにより、次第にアマンダはアンドリューに恋心を寄せるようになるのですね

リチャードとの語らいの時間です


まずは恋愛についてです

リチャード:
「そして9ヶ月すると赤ん坊が生まれる。それがセックスというものだ」


アンドリュー:「人間は本当にそんなことをするのですか?」

リチャード:「そうだよ」

アンドリュー:「人間は結婚すると、その行為が義務になるわけですね?」

リチャード:「 ”義務” という言い方はちょっと違うな」

アンドリュー:「...良かった」

アンドリューは何を安心したのでしょう。気になりますね

リチャード:「それが子どもをつくる一番よい自然な方法なんだよ」

アンドリュー:
「サー、目的を達する精子は数百万のうち1つなのですか?」


リチャード:「その通りだ」

アンドリュー:「他の精子はどうなるのですか?」

リチャード:「残りは...死ぬ」

アンドリュー:「死ぬ? かわいそうに」

リチャード:「そうだな。だがとてもイイものだ」

アンドリュー:「双方に?」

リチャード:「理想的にはね。だからしばしば行うんだ」

アンドリュー:「何度くらい?」

リチャード:「何度でも、できる限りだよ。特に新婚の頃はね」

リチャードは照れながら言いました

アンドリュー:「サー、ハッキリ言ってもいいですか?」

リチャード:「もちろんだよ」

アンドリュー:
「セックスというものは、あまり美的な行為ではないのでは?」


リチャード:「確かにそう言えるね」

アンドリューは残りの数百万の役目を終えずに終わる精子を思い遣ります

アンドリュー:「死ぬのか...」

アンドリューはリチャードとレイチェルが庭園で楽しく語らいながら、キスしている場面を思い浮かべ、考え深けな表情をするシーンが挟まれます


次にユーモアについてです

アンドリュー:「ユーモアですか?」

リチャード:「冗談を言い、相手を笑わすんだ」

アンドリュー:「笑うことに快感があるのですか?」

リチャード:「そうだよ」

アンドリュー:「自分に冗談を1つ教えて下さい」

リチャード:
「いいよ。ええと...」

「酔っぱらい二人が酒場へ行った(Two drunks walked into a bar.)」

アンドリュー:
「酒場から ”出て来る” のではないのですか?」

「酒場で酒を飲み、酔っ払うのでしょう?」

実は “bar” が ”酒場” と ”棒” という2つの意味が掛けられています

酔っ払いが酔った勢いで棒にぶつかったという意味と酒場へ入っていったという意味の2つがあるのですね

リチャード:
「もう少し、簡単な例を教えるよ」

「トントン(knock,knock)!」

アンドリュー:「トントン(knock,knock)?」

リチャード:「ドアをノックしている音だ」

アンドリュー:「ドアを開けるのですか?」

リチャード:「いやいや、こう言うんだ『誰だね(Who's there)?』と」

アンドリュー:「『誰だね?と』」

リチャード:「違うんだ。”誰だね?”と尋ねてみて」

アンドリュー:「その人を存じません」

リチャード:「...」

  1. Knock、 knock. トントン
    Who's there? (相手の名前を尋ねる)

  2. ○○ (名前を答える)

  3. ○○ who? (重ねて姓を尋ねる)

  4. ○○●● (名前にかけた駄洒落を答える)



例:

Knock,knock. トントン
Who's there” 誰?
Lettuce. レタスだ
Lettuce who? どちらのレタスさん?
Lettuce(Let us) in. It's cold out there. 家に入れてくれよ。寒いよ。

※LettuceとLet usが掛けられています

リチャード:
「もう少し簡単な例を出そう...」

「なぜニワトリは道路の横断をするのか?」

アンドリュー:
「敵に追われているから」

「道路の反対側に異性のメンドリがいるから」
「あるいは鳥の移住のシーズンだから」
「車に気をつけないと」

リチャード:「答えは ”向こう側に行きたかったから” だよ」

アンドリュー:
「向こう側に行きたかった?」

「...何が可笑しいんですか?」


「どうして、ニワトリは道を横切ったの?」(Why did the chicken cross the road?)は、有名ななぞなぞ(リドル・ジョーク)の一つです。
その答えは「反対側に行きたかったから(To get to the other side)」。

アンチユーモアの一種であり、ジョーク特有の不可思議な設定により、聞き手は奥の深いトンチの利いたオチを期待するが、実際には単純な事実が述べられるだけです。
このジョークは、一般によく知られた典型的なものであり、過去何度も繰り返され、変化してきました。 

ウィキペディア(Wikipedia)


アンドリューにジョークが通用しないと理解するリチャードの数秒の真顔がとても怖くて面白いです。

テラスでリチャード一家が朝食をしているところです

アンドリューはリチャードに鍛えてもらったユーモアを披露します

アンドリュー:「サー、今はいかがでしょうか?」

レイチェル:「いかがって何のこと?」

アンドリュー:「昨夜...」

リチャード:「ごほん!(咳払い)説明はいいからやってみろ」

アンドリュー:
「分かりました」


「人食いザメがコメディアンを食って一言。”『この味、”可笑しい” ぞ』」

「目の見えない人はスカイダイビングが嫌い。盲導犬が怯えるから」

「トロい男がハイウェイをドライブ、『交通違反の奴ばかりだ!皆、逆方向だ』」

「鳴き声がせず虫は臭い=鳥のオナラ」

「汚物処理場の隣に快楽の殿堂があるのは? 答えは人間のカラダです」

「乳房の検査を受けた女性が一言、『注(チュー)射よりそこをチューチューしてよ。ナムナムナムナムナム ♫』」

みんな、クスクス笑い出しました

しかもアンドリューはマシンガンのようなテンポで、そして機械的な真顔でジョークを話すのですね

言葉だけでなくそういった所も可笑しさを上手く引き出しました

アンドリュー:「成功ですね!」

リチャードは涙をこらえながら言いました

リチャード:
「その通りだが、ジョークの内容が問題だ。それと状況とタイミング」

アンドリュー:「10時15分です」

意図しない天然なアンドリューの受け答えに一同はまた大笑いです

アンドリューは身障者や下品な題材にどんどんハマって行き、深みにハマっていくところが面白いですね

ロボットの真顔でジョークを話すのも、落差があって笑えます


次のシーンはアマンダが成長する時の流れの名シーンだと思います

アマンダが幼児の小さな手でピアノを弾いています

キャメラには手、指、鍵盤のみ写しています

本当にこの作品ではクローズアップの使い方が上手いんですね

アンドリューがやってきて、アマンダはいっしょに弾こうと誘います

アマンダは旋律をアンドリューに手本を見せ、アンドリューは1つ上の音階でそれを上手に真似るんですね

ロボットの機械的な動きではなく、アマンダの自尊心を大事に思い遣り、良き生徒となって教えを享受しています

アマンダとアンドリューはデュエットでテンポよく連弾をし始めます

美しい旋律が部屋中に響きわたります

それがやがて時の流れに変化します

人の声帯の変化のように、段々と低音が増え、和音も加わり、鍵盤を叩く音は力強くなり、複雑な旋律が形成されて行きます

アマンダの小さな指、手、腕、体、顔、髪が変化していき、アマンダはしなやかな立派な女性の肢体となって成長を遂げます

アマンダはアンドリューや素晴らしい家族に囲まれて、カラダも心も立派に育ったことがこのシーンを見るだけで分かります

まさに ”映像言語” です

映画でしか表現できない、無類のものです

ここで見逃せないのが、アンドリューは時の変化にも自身はそのままという、哀しみという感情もブレンドされているところです

アマンダ:「楽しかったわ、アンドリュー」
アンドリュー:「自分もです。リトル・ミス」

そう言ってアマンダはアンドリューのほっぺたにキスをして立ち去りました

アンドリューは一呼吸置くと、明るく軽やかなテンポの早い曲をピアノで弾くのでした

キスされた歓喜の表現ですね



04.家族の成長と自立


アマンダは大人の女性になり、グレースは ”少し” ワイルドに...

リチャード夫妻も髪が灰色になって、老いたことが分かります。アンドリュー以外は。

家中、アンドリューが制作した置き時計で満杯です

16時ちょうどに一斉に鐘が鳴り出します

皆、慌てて耳を塞ぎます



レイチェル:「時計ばかりで耳がヘンになるわ!」

リチャード:
「これでも友達にたくさんバラまいたんだがね」

「いっそのこと、売り出そうか?」

アマンダ:「売るの?」

リチャード:「いい考えだろ?」

アマンダ:「儲けはどうなるの?」

リチャード:「うちの収入にしよう」

アマンダ:
「作ったのはアンドリューよ。儲けはアンドリューに渡すべきよ」


レイチェル:
「彼はロボットよ。ロボットがお金を何に使えるの?ロボットがショッピング?海外旅行?高級レストランで食事?」

「あなたたち、頭がヘンよ」

人というのはそれぞれで、モノや動植物に感情移入する人もいれば、いない人もいます

文豪ヘミングウェイは狩猟や闘牛を好み、作品にもよく出てきますが、友人にかわいそうだと思わないのかと尋ねられた時、『生まれて一度も愛着を持ったことなどない』と言い切ったそうです

アマンダ:「誰だって仕事の報酬はきちんともらうべきよ」

リチャード:
「いいかい、私だってアンドリューのことを思ってる。だが所詮、彼は機械なんだよ」

「機械に愛情を抱くのは間違いだ」

部屋の奥でアンドリューはその会話を聞いていて、残念そうな表情をしています

リチャードはアンドリューを連れて、友人の弁護士のもとを訪れます

リチャード:「いいオフィスだね、ここは何階?」

弁護士:「37階だ」

リチャード:「アンドリュー、見てごらん。いい景色が見えるよ」

アンドリュー:「遠慮します...」

アンドリューはグレースの二階部屋から落ちた昔を思い出し、片目をパチパチさせました

リチャード:「外界を見てみない?」
アンドリュー:「ノー」

今回の相談は、アンドリューの時計の売上を口座に預金するために、アンドリューの口座を開くための話し合いでした

弁護士:「ロボットが口座を持つ?」

リチャード:「違法だろうか?」

弁護士:
「さあ...前例のないことだ。違法ではないだろうが...」

「なぜ銀行口座が必要なんだ?ロボットが金を何に使う?」

アンドリュー自身がユーモアを交えて説明をし始めました

アンドリュー:
「サーに負担をかけず、自分のことは自分でやりくりしようと。”男は立つ” です」

卑猥なジョークです

リチャード:「 ”自立” だよ」
アンドリュー:「 ”立つ” はマズいですか?」

アマンダもまたグレースに続いて家を出る年頃になっていました

アンドリューが作品の制作をしているとアマンダがやってきました

卓上のこで木を切断中にアンドリューはアマンダに気をとられ、親指が真っ二つに切れてしまいます



アマンダ:「ごめんなさい...」
アンドリュー:「大丈夫、修理できます」

アマンダはアンドリューに相談にやってきました

アマンダ:「友人のフランクを知ってる?」

アンドリュー:
「リトル・ミスが前に『かっこいいお尻』と言っていました」


アマンダ:「昨夜、プロポーズされたの」

アンドリュー:「それはいいことではないのですか?」

アマンダ:「まだ受けていないのよ」

アンドリュー:「何か迷いがあるのですか?」

アマンダ:
「いいえ、フランクは素敵な人よ。ハンサムで信頼できて彼となら家庭を持ち、子どもを欲しいと思えるわ」


アンドリュー:「ではなぜ、迷っているのですか?」

アマンダ:
「別の友だちがいて、とても大切な友だちよ。とても心が優しくて面白い人。彼と比べると、フランクがかすむの」


アンドリュー:
「複雑な事態のようですね。でもその答えは眼の前にあります」

「その友だちと結婚をしたらいいのです」

アマンダは笑います

アマンダ:
「それは無理なのよ。だって...彼と結婚するなんて、それは...不可能なことなのよ」


アンドリュー:「なぜ?」

アマンダ:「なぜって彼は...その人は永遠に...」

アンドリュー:「なんです?」

アマンダ:
「...いいの。あなたは心配しないでね」

「でも、ありがとう...」

アンドリュー:「お役に立てれば幸いです」

アマンダは部屋を出ていこうとしますが、その時アンドリューは声をかけます

アマンダはアンドリューの言葉を待っていたかのように、少し涙を浮かべて振り向きました

アンドリュー:
「リトル・ミス!」

「フランクへの返事はどうするので?」

アマンダは少し間を置き、言います

アマンダ:「プロポーズを受けるわ」

アマンダがアンドリューへの想いを想い出としてこの瞬間、心の引き出しに締まったように思えました

アンドリュー:「本当に? それが人間か...」

アンドリューのこの言葉は奥が深いですね

アマンダの想いを察せずに出た言葉として取ると、淋しい気がします

一番の望みを諦めて、他を優先する人間の非論理的な行動やその複雑さに対して、敬意を示しているように思えますね

リチャードとアンドリューは指の修理のために、ロボティクス社を訪れます

そして修理と同時に、顔の表情をもっと豊かに出すような装置をつけて欲しいと依頼しました

厳かな教会でアマンダの結婚式が執り行われます

新郎新婦は神父の前で永遠の愛を誓いました

参列者たちが外へ歩いていくカップルを見守ります

列の最後尾には、タキシードを着たアンドリューがいました

リチャードとお揃いのピンクに花の刺繍を入れた縁起の良いベストを着て、すべての人間の一番うしろに立っています

そこは人間と対等ではない場所ですが、誰よりも長くアマンダを見送ることのできる場所でした

彼は幼少の頃からずっとアマンダを見守ってきたのでした

アンドリューは改良された優しい表情で、アマンダの門出を祝います


愛娘を手放したリチャードは華やかな飾りをつけられた庭園のテーブルで独り、腰をかけて物思いにふけっていました

屋敷のイルミネーションが庭の池に逆さ富士のように移ります

まぼろしのような家族の時間を、移ろいでいく想い出としてゆらゆらと映し出しています

まるでリチャードの哀しみと慈しみが溶け込んでいるようにたゆたっています

華やかで幸せの時だったリチャード一家

今リチャードは娘との別離という悲哀の時です

そこにアンドリューがリチャードに近づき寄り添います

アンドリュー:「お疲れですか? 素晴らしい夜でした」

リチャード:「タキシード姿、とてもカッコいいよ」

アンドリュー:
「恐縮です。仕立職人が苦労しました」

「これからも服を着ていいですか?」

リチャード:「マジかい?」

少しリチャードはほろ酔い気分です

アンドリュー:「いつもマジです」

リチャード:
「構わないが、毎日えんび服の正装というのはマズいと思うよ」


アンドリュー:「マズい?それは残念です」

リチャード:「そこに掛けろ」

アンドリュー:「失礼します」

リチャード:「いい結婚式だったよ」

アンドリュー:
「本当に。あんなにダンスがお上手だったとは知らなかったです」


リチャード:「お世辞はよせ」

アンドリュー:「いいえ、本当です」

リチャード:「式を録画したかい?」

アンドリュー:「すべて、メモリーバンクにあります」

リチャード:「一緒に見よう」

アンドリューは静かな水面に父と娘が踊っているシーンを映し出しました

これまでの家族の時がまぼろしだっかかのような幻想的な映像です


リチャードは涙を抑えきれずに席を立ち去ります

杖をつきながら去る姿に残されたリチャードの老いを感じずにはいられません

アンドリュー:「サー、大丈夫ですか?」

リチャード:
「娘は2人とも出ていった。時は流れ、すべてが変わってしまう。それが人の世だ」

「今日はしみじみと寂しさを感じるよ」

アンドリュー:「サー。自分はいつまでもあなたのおそばに」

リチャード:「お前は心の慰めだ。ありがとう、アンドリュー」

アンドリュー:「おやすみなさい」

リチャード:「おやすみ、アンドリュー」


05.アンドリューの旅立ち


それからまた12年が経ちます

時が無情に流れていくようです

いつものおなじみの浜辺ですが、新たに二人の子どもが加わっています

アマンダには男の子のロイドと女の子のという二人の子どもができました

結婚式以来、アンドリューは服を着るようになったのですね

赤のセーターに緑のチェアに腰掛けて、静かに本を読んでいました

ロイドは悪ガキで性格はグレース似、読書をするアンドリューの本に砂をぶっかけます

アマンダ:
「ロイド!来なさい。人に砂をひっかけたりして悪い子!」

「アンドリューに謝って」

ロイド:「ロボットなんかにどうして?」

アマンダ:「謝って」

ロイドは不貞腐れながら母親に言われ謝ります

アンドリュー:「子どもを食う動物に同感できる」

アマンダ:
「謝るわ、アンドリュー」

「今日は何だか静かね。どうかした?」

アンドリュー:「どうやったら自由を得ることができるのでしょう?」

アマンダ:「うちを出ていくの?」

アンドリュー:「とんでもありません。自由を得たいだけです」

アマンダ:「なぜそう思うの?自由はあるでしょ?」

アンドリュー:「命令と命令の合間だけです...」

アマンダ:「最近、うちの誰があなたに命令をしたと言うの?」

アンドリュー:「でも仕事を頼まれます」

アマンダ:
「それはリクエストであって、命令ではないわ」

「...納得できない?」

アンドリュー:
「私は人間の歴史を勉強しました」

「何度もむごい戦争が起こり、大勢の人間が死にました。自由を勝ち取るために」
「人間にとってそれほど意味のあるものなら、自分にもそれを与えて欲しいのです」

アンドリューはリチャードに正直に話すことに決めました

アンドリュー:「サー、ちょっとお話してもいいですか?」
リチャード:「いいとも、喜んで」

アンドリューは一枚の紙をリチャードに渡します

アンドリュー:「自分の銀行預金です」

リチャード:「なぜ私に?」

アンドリュー:
「自由を買いたいのです」

「自由を下さい」
「ですが3原則を守り、今まで通りお仕えします。変わるのは立場だけです」
「”所有物” でなくなるのです」

リチャードは立ち上がって真剣に向き合います

リチャード:「この家を出て行きたいのか?」
アンドリュー:「いいえ、皆さんは自分の家族です」
リチャード:「それじゃあどうして?」

アマンダが部屋に現れました

リチャード:「そうか。お前だな?」

アマンダ:「確かに話はしたわ」

リチャード:「お前が彼に命令したわけだ」

アマンダ:「いいえ、彼が決めたことよ」

リチャード:「だが考えを植え付けたんだろ」

アマンダ:
「それはパパ本人よ」

「パパが多くの本を与え、彼を ”自由” に目覚めさせたのよ」
「彼は学び成長しているわ。パパからの刺激と自分の能力で人間のように複雑になった」

リチャードには出てくる言葉が見つかりませんでした

それはリチャードに愛と良心が宿っているからであり、アンドリューはただの使用人でなく、子どものように育ててきたという感情をリチャードは気づいたのだと思います

この作品で私たちは子育てのエッセンスを見つけることができます

手塩に愛情をかけて育てた子が遂には種子が風に運ばれていくように、母体から離れていく体験ができます

あくる朝、だだっ広いキッチンの片隅にはリチャードの食事がポツンとあります

アンドリューが挨拶しますが、リチャードは言葉を発しません

理はアンドリューにあるというのは、リチャードも分かっています

子供っぽさをアンドリューに示すような所は、理屈ではなく本当にアンドリューを失いたくないんだなという情けであり、親心であり、愛着です

リチャード:「この小切手をお前に返す」

リチャードはぶっきらぼうにアンドリューに差し出します

アンドリュー:「なぜ?」

リチャード:
「お前は自由の身だ」

「家から出て行ってくれ」

そうリチャードは冷たく言いました

リチャードはアンドリューと目を合わせようとしませんでした

アンドリュー:「サー、ここを出ていくなんて...」
リチャード:「自由が欲しければ、結果も受け入れろ」
アンドリュー:「わかりました。荷物をまとめます」

去ろうとするアンドリューに対してリチャードは声をかけます

リチャード:「それでどうする?」

アンドリュー:「近くに引っ越します。いつでもお呼びを」

リチャード:「私は決して呼ばない。どこへでも行くがいい」

アンドリュー:「『やめろ』とご命令をして下さい」

リチャード:「命令はしない。お前は自由だ」

アンドリュー:「どう言われようと ” 私” はあなたにお仕えします」

リチャード:「アンドリュー... ”自分” と言わなくなったな」

キッチンの扉は物を運べるように引いたり押したり自由になっているんですね

アンドリューがダイニングを後にしたあと、扉が振り子のようにゆらゆら揺れて、やがて停止しました。

リチャードは力無く落胆します

その姿は、父親そのものです

映画監督の小津安二郎はこういう親子の別離というテーマで何度も作品を作りました

娘の結婚式の後、父は礼服を着たまま酒場に行きます

店主:「どちらかのお葬式ですか?」
父:「まあ、そんなものだよ」

娘を嫁にやるというのは、死別に等しいことを物語っています

それは精神的にまいります

まだまだ家父長制のなごりが消えない現代ですが、母親が子どもを愛情で包むことを役割とする存在ならば、父親は内なる家族と他の世界を橋渡しする社会を象徴する存在だと思います

社会の厳しさやルールを教え、子どもを自立させるという役割を持っています

なので、子どもを手放す時にはもしかすると母親よりも心に葛藤が生まれるのかもしれません

自らの情を断ち切って、子どもにはもう旅をさせなければならないのに

家族は体の一部であり、片腕をもぎ取られるような気持ちだろうと思います

3度目の子との別離と悲哀は慣れるものではないのだと思います

それは父親としての最後の役割ですね

人は何らかの「役割」に支えられて生きている

役割が生きがいになっている時、自分の精魂を込め、そこに信念を置いています

それを失う悲哀は悲しくも、リスペクトに足る輝きや美しさを持っています

そういった人生の節目なんですね

これから先は老いていくのみ

人間は何世代にも渡ってそれを繰り返していくのですね


アンドリューは家を出て、想い出の浜辺に居を構えて独り過ごします

思索にふける日々のアンドリュー、ここでも焚き火の「火」がその深さを醸し出します

そして朝日が夕日か分からない太陽

それは、アンドリューの巣立ちでもありますし、リチャードの老いのようにも感じられます


アンドリューは自分で何もかも設計し、スケッチし住む家を建てます

ほとんど全てが木で出来ている家です

どことなくアンドリューが長年過ごしたリチャードの家に似ています

玄関扉の文様も、階段の手摺も。


それからさらに16年の歳月が経ちます

浜辺に打ち寄せる波と暴風

そして浜辺や岸壁に激しく音を立てる波の音は、老いていく人間の摂理の無情さを植え付け、脅迫的にずっと呪い続ける秒針のようでもあります

このロケーションはすごいの一言です

絵画で題を決めるとすれば『独り、人生』というものになるでしょう

ユーモアでは覆い隠せない試練の時がやってきます

初老になったアマンダが浜辺をゆっくりと歩いてきます

アマンダ:「アンドリュー?」

アンドリュー:
「ここにいます」

「リトル・ミス!何事ですか?」

アマンダ:「パパがあなたを呼んでるの」

アンドリュー:「その時が来たのですね...」

アマンダは黙ってうなずきました

リチャードは家族に囲まれてベッドにふせっていました

グレース:「ロボットが来たわよ」

父を捨てたことを怒っているのか、単なる性格なのか分かりかねます

アンドリュー:「こんにちは、ミス」

グレースは無言で部屋を出ていきます

リチャード:「アンドリュー...」

アンドリュー:「サー、お加減はどうですか?」

リチャード:
「私はもうじき死ぬよ...アンドリュー」

「それ以外は大丈夫だ」

アンドリュー:「お久しぶりです...」

リチャード:「本当だな。会えてうれしいよ」

アンドリュー:「私もです」

リチャード:「私が間違っていた...謝りたい」

アンドリュー:「間違いなどありません」

リチャード:
「じゃあ、私に逆らうな」

「お前が自由を求めるのは当然のことだ...これでよかったんだ」

アンドリュー:「ありがとうございます」

リチャード:「ありがとう。皆に代わって感謝をするよ」

リチャードはアンドリューの手を握りしめ、感謝を伝えました

アンドリュー:「お仕えできて光栄でした」

リチャードは涙を浮かべていました

アンドリューの言葉は偽りのない心から出たものだと思います

身体の大切な一部を失ったアンドリューは心の空席ができたのかもしれません



06.自分探しの旅


アンドリュー:
「同類を探したいのです」

「自分の運命を知るためにそれが必要なのです」

成長したアマンダの息子、ロイドは弁護士になっていました

ロイド:「ロボティクス社はその問い合わせには答えないと思うよ」

アンドリュー:
「ロイド、あなたは司法試験に受かった。会社を告訴してNDR型ロボットの行方を調べて欲しいのです」


ロイド:「情報アクセス法はロボットには適用できないんだ」

アマンダ:「今はまだね」

ロイド:
「母さん、僕は忙しいんだ。そんな ” モノ” のバカげた訴訟なんか!」


アマンダ:「ロイド、あなたを愛してるけど、時々本当の息子かと思うわ」

ロボティクス社のデニスやアマンダの息子ロイドに対しては、軽妙で辛辣な皮肉がたくさん出てくるのも面白いですね

ロイド:「遺伝子の変異ってやつです。僕と母さんは違うんだ」

アマンダ:「あなたは父親似だからね」

アンドリュー:
「それで彼と離婚をしたのですか?」

「...失礼しました」

ロイド:「NDRの消息が分かったらどうするんだ?」

アンドリュー:「全部訪ねて歩きます」

ロイド:「ずっと旅に出るわけだ」

アンドリュー:「私の計算では少なくとも数年かかります」

ロイド:「力を貸すよ」

アンドリュー:「リトル・ミス、彼を母乳で育ててくれたのですね?」

アンドリューは廃墟や険しい雪山などアメリカ中を旅して探して回ります

遺跡巡りの学者や探検家、登山家のように素晴らしいロケーションを見せてくれます

壊れているものなどをリストから消去しながら、あてどない旅が続きました



アンドリューの手紙:「
リトル・ミス様
旅に出て10年が経ちました
私に似たロボットは1体も見つかりません
訪ねるべき町はまだ数百あり、希望は捨てていません
アンドリューより

野球グラウンドでは白線を引いているNDRを見つけ、アンドリューは話しかけます

アンドリュー:「ハロー、僕はアンドリューだ」
白線引きNDR:「ヘイ、うるさいぞ!」

どうやら再プログラムされたロボットのようで、NDRの初期のプログラムではなかったようです

田舎の教会、西部ワイオミング州、マンハッタンと歩き回ります

飛行タクシーが高速で飛び交うAIの近未来です



アンドリューの手紙:「
リトル・ミス様
旅がついに終わろうとしています
すべてムダ足でした
残るはあと1体のみです
故郷のサンフランシスコで、最近NDRが1体復元されたらしいです

アンドリューは港町の市場で珍しい女性型のロボットを見つけます

女性ロボット:「センキュ~!」

落ち着いた雰囲気のアンドリューとは全く違った、機敏で思ったことを何でも口にするような活発なロボットでした

彼女は太もものスイッチを押して、ノリノリの音楽を流します

曲に合わせて踊りながら町を闊歩していたのです

激しく踊り過ぎて、買い物したりんごを落としながら、家に帰っていきました

何で自由奔放なロボットなのでしょうね

そこは ”ルパート・バーンズ・エンタープライズ NDRとZ6を中古買い取り致します” と看板に書いてあります

アンドリューはノックします

女性ロボット:「は~い!」
アンドリュー:「りんご、落としました?」
女性ロボット:「ありがと~」
アンドリュー:「ルパートさんを探しています」
女性ロボット:「あなたは勘がいいのね、どうぞ入って」

とても表情と感情の豊かなロボットでした

アンドリュー:
「勘がいい...」

「名前は持ってるの?」

女性ロボット:「もちろん、あるわ。ガラテアよ」

ガラテアは甲高い声で陽気におしゃべりします

家の中はNDRの筐体やその部品でいっぱいでした

ガラテアはポールダンサーのように柱で旋回した後、アンドリューのあごをふわっと触ります



アンドリュー:「ガラテア。魅力的な...動きだな。踊ってた」

ガラテア:「私、うまく踊れてた?」

アンドリュー:「見とれたよ」

ガラテア:「ダンスは最高のスポーツよ。私たちは人間より上手だからね」

アンドリュー:「やっと訪ね当てたぞ。いつ自覚した?」

ガラテア:「何を?」

アンドリュー:「自分が ”ユニーク” な存在だと」

ガラテア:「最初から知っていたわ」

アンドリュー:「僕もだ」

ガラテア:「あなたとわたし、同じだわ。人格を持ってる!」

アンドリュー:「......もしかして ”人格チップ” がオンになっている?」

ガラテア:「そうよ。あなたも?」

アンドリュー:「...僕は違う」

ガラテア:「まあ、お気の毒!」

ガラテアはアンドリューが探していた、自然に人格を持ったNDRではありませんでした

ガラテア:「知性より人格を持つほうが楽しいと思わない?絶対そっちよ」

奥から大きな男が出てきました

大きな男:「何か用かね?」

アンドリュー:「あれはスタンダード型のNDR?」

大きな男:「そう、その通りだよ」

アンドリュー:
「なぜ、このロボットは踊る能力が備わっているのですか?」


大きな男:「復元する時、改良型の骨格チップを埋め込んだんだ」

アンドリュー:「誰からその技術を得たのですか?」

大きな男:
「親父からだ。アンドロイドの開発チームで人間の表情をロボットに与える研究をしていたんだ」


アンドリュー:「今はどうされているんですか?」

大きな男:「父はロボティクス社をクビに...死後、僕が引き継いだ」

アンドリュー:「それは残念です」

大きな男:「君に会わせたかったよ。僕はルパートだ、会えて光栄だ」

アンドリュー:「僕こそ」

ガラテア:「ヘイ!あなたとわたしは同じよ。踊ってよ、~ロボちゃん!」

ガラテアはアンドリューにおでこをぶつけ、カーンと金属音をたててハイテンションで踊っています

アンドリュー:「彼女のスイッチをオフに!」

ルパートはポケットからリモコンを取り出し、ガラテアの停止ボタンを押しました

アンドリュー:「どうも、ありがとう」

アンドリューの初期の頃と違い、アンドリューが人間役のようになっているのが可笑しいですね

ルパートの施設にはアンドロイド用の人工のパーツがたくさん用意されています

耳や目、口、色々な器官が電気コードで繋がれています

頭部だけが電気を通されてショーケースに飾られています

アンドリュー:「すごい!」

NDRの頭部の閉じていた目がゆっくりと開き、アンドリューに答えます



ショーケースの顔:「ありがとう!」
アンドリュー:「見事です」
ルパート:「でも残念ながら資金が続かなくてね...」
アンドリュー:「僕が研究資金を出します」

ルパートは半信半疑の顔をしました

ルパート:「君が?それは有り難い」

ガラテアは起動してもらって、奥から何やら脂肪の塊を装置から出して来ました

まるでうどんやパン生地のようにふわふわ、ふかふかしています

それはアンドロイドの皮膚の原型でした。粘土のようなものです

アンドリューは人間により近づけるよう皮膚をつけることにしました

ルパート:
「まず言っておくが、これは見かけだけのアップグレードだ」

「体の内部は何もいじらず、陽電子頭脳は今までとまったく同じ機能を持つ」

アンドリュー:「分かりました」

ルパート:
「よし、君の希望を具体的に確認しておこう。何歳くらいの顔にして欲しいかい?」


アンドリュー:「僕は正確には62歳だ」

ルパート:「25歳くらい若返りをしておこう」

アンドリュー:「50歳くらいがいい」

ルパート:「20歳の若返りではどうだ?」

アンドリュー:「それでいいです」

ルパート:「よし、決まりだ」

ルパートは脂肪の塊をこねてこねてこねまくります

そして型に向かって無造作に投げつけました

私たち人にとって、顔というのは一生を左右する大事なものです

それが雑に作られるというのだから何やら滑稽です

私たちが神様に作られる時も、このような雑でスピーディーに行われるとしたら、とてもお忙しい神様なのでしょう

私はこのシーンから、逆説的に、顔は真の価値ではないのだというメッセージだと思いました

それは自分が自分のことをどのように価値を置くかだと。

『あとは自分であなたの価値を高めるのですよ』ということのように思われます

そして次にこの作品で大切な言葉が出てきます

ルパート:「仕事のコツは不完全な顔に仕上げることだ」

ルパートはそう言ってアンドリューの顔の形をぐちゃぐちゃに整形します

アンドリュー:「不完全に?」

ルパート:
「そうだ。わざとシワを付け、歯並びを悪くする。ニキビの跡とか...」

「僕の鼻を見ろ。ダンゴっ鼻で、形はいびつだろ?」

アンドリュー:「確かに」

ルパート:
「僕だけの鼻、それが個性だ」

「君の顔も世界に1つしかないんだ。君だけの顔にする」
「不完全さが個性を作るんだ」

アンドリュー:「そうか!君の頭の形も同じですね」

ルパート:「何かヘンか?」

アンドリュー:「デカい。...素敵だけど」

ルパート:「どうも...」

そうこうするうちに、アンドリューの顔ができあがりました


もともとの顔の皮が化粧パックのように剥がされます

なんと味気ないものでしょう。簡単に取ることが出来ました

容姿に対しての人の生い立ちからの執着や思いをあざ笑うかのような手軽さ!

顔の皮膚の無い、機械の内部構造が透き通った自分の顔を、アンドリューは鏡で見て絶叫します


ガラテアも釣られてびっくりします

ルパート:「何事だ!何が起きた?」
アンドリュー:「本当の自分が見えた」

そしてノズルからのりを絞り出すように体に皮膚を追加していきます

そして体毛も一本一本毛根から植えていきました


頭部だけのアンドリューが言葉を発します

アンドリュー:「完成した?」
ルパート:「完成だ」

ルパートは頭部を持ち上げ、体に取り付けます

アンドリュー:「頼むから落とすなよ」
ルパート:「大丈夫だ」

冗談ぽくルパートは頭部を手で支えたまま落下させました

アンドリュー:「よせ、ふざけるなよ」

ルパート:「大丈夫、安心しろ。血の気が引いたか?」

アンドリュー:「血は無いよ」

ルパート:「よし、付いたぞ!」

アンドリュー:
「すごい!手だ!指も!」

「顔はどうなった?」

ルパート:「自分で見てみろ」

姿鏡に映った自分の顔を見てアンドリューは感動を隠せませんでした

姿見の隣には停止中のみすぼらしいNDRロボットが顔を俯いており、ビフォー&アフターがよく分かる、粋な演出です

アンドリューは自分のまぶたを何度もパチパチさせて顔の表情を色々と作りました

アンドリュー:「ありがとう...」

アンドリューのありがとうにはこれまでの夢が込められた “ありがとう” です

自由とアイデンティティーを求めた旅の終果ては、人への憧れという何とも微笑ましくも愛おしいものです

アンドリューの心の深くの切望は『にんげんっていいなあ』だったのですね



07.家族



生まれ変わったアンドリューはアマンダに早速見せに里帰りしました

アマンダの驚きのハプニングシーンが目に浮かぶようですね

アマンダは独り、かつてアンドリューと共にデュエットしたピアノを弾いていました

アマンダは見知らぬ男が家に入ってきてそばに近づいてきたので驚いて、ピアノから離れて警戒します

アンドリュー:「失礼しました」

アマンダ(?):「いったい誰なの?」

アンドリュー:「アンドリューですよ」

アマンダ(?):「アンドリュー?」

アンドリュー:
「あなたは元気そうだ。若返ったみたいです。どうやって?」


アマンダ(?):「あなた誰?」

アンドリュー:「僕もアップグレードで変身をしたのです。触ってみて」

アマンダ(?):「来ないで!」

体を触らせようとして、変質者の状況そのものになっています

実はこの女性はアマンダではなく、アマンダと瓜二つの孫のポーシャだったんです

彼女はアンドリューのことも全く知らないのです

観客の想像の上を超えていくハプニングですね

アンドリュー:「失礼。触ってと言ったのは顔の話です」

そして後ろから本当のアマンダが現れました

アマンダ:「どうしたの?何があったの?」

ポーシャ:「気を付けて、お祖母様」

アマンダ:「あなたは誰なの?」

アンドリュー:「アンドリューです」

アマンダ:「アンドリュー?」

アンドリュー:「そうです」

アマンダ:「彼はロボットよ」

アンドリュー:「今はアンドロイドです」

ポーシャ:「アップグレードをしたんだって...」

アンドリュー:「ハロー」

アマンダは声からいつもの聞き覚えのあるアンドリュー本人だと気づきます

アマンダ:「本当にあなたなの?」

ポーシャ:「知り合いなの?」

アンドリュー:「あなたは僕を知ってるのですか?」

アマンダ:「私はリトル・ミスよ」

アンドリュー:「え!?それは彼女の方だ」

ポーシャ:「私は違うわよ」

アマンダ:「彼女はポーシャよ」

アンドリュー:「ポーシャ?ポーシャって誰です?」

アマンダ:「孫娘よ」

アンドリュー:
「あなたの?これは騙しっこゲームですか?」

「あなたがリトル・ミス?」
「リトル・ミスはこの世に一人なのに!」

ポーシャ:「あら、そう?」

アマンダ:「隔世遺伝で似ることがあるのよ」

アンドリュー:「わたしは許せません」

アマンダ:
「だけど、落ち着くと私たちが違う人間だってことが分かるはずよ」


アンドリュー:「なぜ、彼女はあなたの真似をするのですか?」

ポーシャは真剣に怒るアンドリューを笑っています



アンドリュー:
「何が可笑しいのですか?冗談は言っていないです」

「あなたは昔と変わりましたね。リトル・ミス」

アマンダ:
「20年経てば、人は変わるものよ、アンドリュー」

「話したいことがたくさんあるの...こっちへ来て」

アンドリュー:「やっぱりあなただ」

アマンダ:「ええ、そうよ。あなたのお友達」

アンドリュー:「リトル・ミス、ポーシャは誰の娘ですか?」

アマンダ:「ロイドよ」

アンドリュー:「通りで礼儀知らずだ」

人になりたかったアンドリュー。容姿は人に近づきました

ですが若返ったことが人間と逆行してしまったのですね

再会の喜びと人との違いを浮き彫りになったことが上手くミックスしたいいシーンでした

ある雨の降る夜、自宅の玄関の前でアンドリューは犬を拾います

アンドリュー:
「ご主人の所へ帰れ。帰る家がないのか?メシを食わないから何にもないよ」

「お入り、独りぼっち同士だ」

時の移り変わりと共にアンドリューは孤独を知るようになります

思い返してみれば、アンドリューは人間の成長の道を歩いてきたと言えます

使用人として、リチャードの保護の元に暮らしていました

グレースやアマンダの結婚など、成長し離れていく家族

自分もやがて自立して自由を欲するようになり、リチャード家を離れます

アイデンティティー探しの旅で、自分は人間になりたかったのだと悟ります

孤独もまた人間の感情そのものです

アンドリューは頭脳明晰、知識も豊富、手先も器用で自立したロボットです

これが人間だったならば、理想の姿と考える人は多いでしょう

ですが、アンドリューは今幸せではないようです

たぶんそれが人間だとしても、こうした孤独が幸せと感じる人はあまりいないと思います

本作品の監督クリス・コロンバスは、「ホーム・アローン」を手掛けた人でもあります

家に独り取り残された主人公ケビンだからこそ、ホームレスの孤独なおばあさんの気持ちが痛いほど分かるのです

これからアンドリューは幸せを見つけることに熱意を傾けます

アンドリューが求める幸せとは何なのか、これからいっしょに見ていきましょう

アンドリューはなぜかポーシャが気になりはじめ、訪問します

アンドリュー:「あなたは僕が嫌い。僕もあなたが嫌いだ」
ポーシャ:「ツバを吐きたいほど?」
アンドリュー:「私には唾液腺はありません」

機械だというユーモアは前半のように通じていません

AIと話すとそのような回答がたまにありますよね

私たちはなぜか人と話をしている前提で、そうした回答を期待します

ポーシャは付き合いきれず、一度はドアを閉めます

アンドリューは再度ノックすると、ポーシャがまた顔を覗かせます

アンドリュー:「もう少し長めの会話をしてもいいですか?」

ポーシャは黙ってアンドリューを招き入れます

アンドリュー:「イヌ科の友だちも中へ入ってもよろしいですか?」

ポーシャは黙って手招きをしました

喋る内容が機械視点なのはどうもまだポーシャが気に入らない感情がありありと出ています

いつものアンドリューなら家族の視点から寄り添った言葉を言います

アンドリュー:「どうも」

アンドリュー:「彫刻をなさるので?」

ポーシャ:「いいえ、ただの修復よ。修復が専門なの」

アンドリュー:「醜いです。修復してこの程度ですか?」

ポーシャ:
「あなたは祖母に似てると腹を立てた。突然訪ねてきて私が嫌いと言い、仕事をけなす」


アンドリュー:「真実を言うようにプログラムされているんです」

ポーシャ:「ではどうして私を訪ねてきたの?」

アンドリュー:
「家族だからです。曽(ひい)おじい様とおばあ様は僕を家族と思い、マーチンという名字をくれました」

「サーは亡くなり、リトル・ミスは歳をとられました」
「ちゃんと話をできるのはあなただけです」

ポーシャ:「それは冗談を言ってるの?」

アンドリュー:
「冗談が聞きたいですか?」

「仏教徒が札を数え ”ナンマイダー” 」

あの頃の朝食のジョークの時のように、血縁であるポーシャもまた笑ってくれます

ポーシャ:「アンドリュー、友だちはいるの?」

アンドリュー:「いいえ、いません。ワン公はいい奴ですが会話の相手はムリです」

ポーシャ:「話し相手が欲しいの? 相手があなたを嫌いでも?」

アンドリュー:「我慢します。何事も欲張ったらキリがない」

ポーシャ:
「分かったわ。掛けて話しましょう」

「かわいいイヌね。何か飲む?」

アンドリュー:「胃がないんです」

ポーシャ:「ワン公には?」

アンドリュー:「彼には胃があります」

アンドリューはそうやって人間のみたいに無意識があるかのようにポーシャに心の孤独を癒やしてもらうのでした

キャメラだけが引きながら、窓の格子を絵画の額縁のように、アンドリューとポーシャ、犬との温かな瞬間を切り取ります

素敵な効果ですね。作者の思い入れがここに表現されています


時が流れ、アマンダの最期の時が近づいています

アンドリューは病床のアマンダに会いにいきます

人間の服以外はすべて真っ白なシンプルな病院です

もうすでに天国に来ているのかと思ってしまうデザイン

全く奥行きを映さないカメラワークは、人の繋がりの希薄い近未来を感じさせます

その圧迫感は老いという運命に命が追い詰められているという印象を受けます



アンドリュー:「容体はどうですか?」
ポーシャ:「あばあちゃんは眠ってるわ」
アンドリュー:「いったい何があったので?」
ポーシャ:「脳出血よ」

アンドリューは眠っているアマンダの手を握ります

アマンダは重そうにまぶたをゆっくりと開きます

アンドリューはアマンダに優しく微笑みかけます

アマンダ:「あなたね...」
アンドリュー:「リトル・ミス...」

アンドリューがアマンダの片手を握りしめます。

アマンダのもう片方の手にはアンドリューが何十年も前に作った木馬を握りしめていました

アンドリューがそれを見つけると、アマンダは微笑みました

アマンダの心はずっとアンドリューにあったのでした

それこそ、映像言語です


アマンダは安心したように2回うなずき、これまでの喜びを確かめるように亡くなりました

アンドリューとの別れを待っていたかのように、去っていきました

大粒の涙をポーシャに見たアンドリューはポーシャに言います

アンドリュー:
「私は泣けないことがとてもつらい。この悲しみを表現できたなら...」

「僕の愛する人々は皆...去って...しまう」

ポーシャ:「ええ、そうよ」

アンドリュー:「僕にはもう耐えられない」


08.『死』への抵抗


アンドリューは人間の器官とロボットの機器を繋ぐようなイメージを開発していきます

ルパートに実現したいと話します

ルパート:「正確によく掛けてる。君が描いたのかい?」

アンドリュー:
「そうだ。医学書を記憶装置にダウンロードして、それを勉強してスケッチを描いた」

「メカの不完全な部分は君が補えるだろう? さらなるアップグレードをして欲しい」

ルパート:
「これはアップグレードを超えてるよ」

「機械に生物学的な生命を与えようという大仕事だ」

アンドリュー:「機械と生物の理想的結婚だ」

ルパート:
「いや、それ以上の意味があるよ。現在開発されてる人工臓器より発想が格段に優れてるよ」

「こいつは人間にも応用できる...すごい」

二人は決して老化しない人工臓器を作ろうとしています

細胞が死んでしまう限界をを科学や人工物で補完しようという試みです

ルパート:
「君は人間の中枢神経組織を参考にして、これらをデザインした」


アンドリュー:「そのとおりだ」

ルパート:
「言っておくが、神経組織によってものの感じ方や捉え方が大きく変わるんだよ」

「寒さ、暑さ、痛み、そんなレベルを超えてね」
「つまり、経験が増すと共に、君は今より複雑な感情や感覚を味わうようになる」
「あるものはとても微妙ですばらしいものだが、衝撃が強く耐えるのが困難なものもある」
「その覚悟は持っているか?」

しばらく二人は沈黙します。アンドリューはルパートの言う『衝撃』について思いをめぐらせました

苦痛、別れ、嫉妬、怒り、欲望そして、死。

人間という不完全をすべて受け入れる覚悟

それが人間になるということです

アンドリュー:「もちろん」

アンドリューはレコード機をポーシャに直してもらいます

アンドリュー:「この ”クソったれ” の修理をして貰いたいんだ」

ポーシャ:「自分で直せるでしょ?」

アンドリュー:「だけど...君の方が上手だ」

ポーシャ:「いいわ。喜んで」

アンドリュー:「面倒じゃない?」

ポーシャ:「とんでもない」

二人はいい雰囲気になりつつあります

アンドリューの方がポーシャのことを家族と感じ始めたからだと思います

ポーシャ:「外の空気を吸いたいわ。私と散歩に行かない?」
アンドリュー:「喜んでお供をするよ」

ポーシャは思わず笑います

アンドリュー:「何か可笑しい?」
ポーシャ:「あなたっていつも礼儀正しくて、丁寧だから」
アンドリュー:「どうも」

ルパートの所で感覚器官を移植、改造します

ガラテアは今のアンドリューの不安な心情を陽気な曲に乗せて歌います

ガラテア:
「♫ 頭は空っぽでも、勇気を出して~ でも何となく怖い ♫」

「♫ 僕だっていつか、人間のようになれる~ ハートさえあれば~ ♫」

そう歌いながらガラテアは度を越して、アンドリューの左胸をさすります



アンドリュー:「旋盤ドリルはある?」
ルパート:「そこにあるよ」

奥からドリルの金属音がしてガラテアの悲鳴が聞こえ、停止しました

アンドリューはポーシャが修理した建物のオープニングパーティーに招待されます

別の男と踊っているポーシャをアンドリューはじっと見つめています

そしてポーシャはアンドリューと踊り始めます

ビリー・ホリデイの曲 "The Very Thought of You" を女性歌手が甘く歌います

♫ The very thought of you and I forget to do
あなたにずっと思い焦がれているだけで

♫ The little ordinary things that everyone ought to do
やらなければいけない小さなことすらも全部忘れてしまうの

♫ I'm living in a kind of daydream
夢の中で暮らしている

♫ I'm happy as a queen
お姫様みたいな気分

♫ And foolish though it may seem
ばかげているとは思うけど

♫ To me that's everything
これが私にはすべて

♫ The mere idea of you, the longing here for you
あなたにずっと思い焦がれているだけで、いつもあなたにあこがれている

♫ You'll never know how slow the moments go till I'm near to you
わからないかもしれないけど、そばにいないと時間の流れが遅くなってしまう

♫ I see your face in every flower
花を見ればあなたの姿を思い

♫ Your eyes in stars above
星を見ればあなたの瞳を探してしまう

♫ It's just the thought of you
あなたのことだけを思い焦がれてる

♫ The very thought of you, my love
大好きな人

ダンスのカップルの中でひと際、情熱的に踊る二人でした

アンドリュー:「 ”フタ” に真珠っていう意味は何?」

ポーシャ:「それは "ブタ” よ」

アンドリュー:「フタは臭いものにするもの?」

ポーシャ:「あなたっておかしな人ね」

アンドリュー:「笑いは友情を育てる」

ポーシャ:
「その通りよ」

「...時々感じるのだけど、あなたは私との関係のことを特別に思ってて...」

ポーシャは照れ笑いをします

アンドリュー:「何だい?」

ポーシャ:「バカね、私ったら。こんな話をするなんてね」

アンドリュー:「ロボットと?」

ポーシャ:
「そうよ」

「だってモノはモノでしょ?木は木、水は水、あなたは素晴らしい機械」
「それは絶対に変わらない」

意外とアンドリューの気持ちそっちのけではっきりと言うんですね

アンドリュー:
「そんなことはない。絶対に信じないよ」

「確かに人間じゃないからよく嫌われたり誤解されるけど...」

ポーシャ:
「私はあなたが好きよ。それに理解もしてるわ」

「だけど...機械に愛情を抱くなんて...」

アンドリュー:
「おばあさんに似たんだよ」

「ものごとは変化する。いつか必ず世界は変わると信じてる」

アンドリューはルパートの施設で人工臓器を取り付けます

感覚を人間のように得るためです

人間と同じように感じ、それを親しい人と共感したい

アンドリュー:
「彼女は笑ってこう言ったんだ。『モノはモノ、水は水』と」

「それなら氷は?蒸気は?」

ルパート:「アンドリュー、気を静めろよ。身体の中を触っているんだ」

アンドリュー:
「笑われたんだぜ。彼女にバカにされたんだ。今のこの僕を見せてやりたいよ」

「僕は自分を意味のあるより良い存在にしようとしているんだ」

ルパート:
「アンドリュー、仕事のジャマだ。少し眠っててくれ。グッドナイト!」

ルパートはリモコンを目に当てるとアンドリューは停止しました

アンドリュー:「グッドナイト..........」

挨拶をされたらして返すという昔ながらのルーティンを守っているところがかわいいですね

感覚器を獲得したアンドリューは感動を伝えようと真っ先にポーシャの元を訪ねます

ポーシャ:「あなた、今までどこへ消えていたの?」
アンドリュー:「ほら、目を見て! 目を突っついてみて!」
ポーシャ:「どうしたの? クレイジーよ」
アンドリュー:「いいから突いてみて!」

ポーシャは言われるがままに目に指で突きました

アンドリュー:「わおー、おー! 痛い、痛いよ! 成功だ!」

アンドリューは自分のほっぺたを何度もビンタしはじめます



ポーシャ:「一体どうしたというの?」

アンドリュー:「感じた! 神経組織のお陰だ」

ポーシャ:「あなた、”感じる” ことができるようになったの!?」

アンドリュー:
「そう、感じるんだ!」

「もう一つ、科学的実験をしてもいいかな?」
「僕にキスして」

ポーシャは頬に軽くキスをします

アンドリュー:「そこじゃないよ。ここだ」

そういって、アンドリューはいきなりポーシャに口づけをしました

ポーシャはしばらく口づけしたまま、じっとしていました

アンドリュー:「ありがとう」
ポーシャ:「どう感じた?」
アンドリュー:「素晴らしい! 聞いていた通りだ!」

人間でないものが人間になった時に喜ぶ瞬間。

前にご紹介した『ベルリン・天使の詩』にも、天使が人間になった時の感動がよく伝わっていました

以下に過去記事を抜粋します

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

そして、意識をなくして倒れているダミエルの頭上に「ゴツン」と、中世の鎧が落ちてくるんですね

天使が死んだというメタファーでしょう ユーモアがあります

さあ、いよいよ人間ダミエルが世界を歩きはじめます

けたたましいヘリコプターの騒音にダミエルは起こされ、楽しさのあまり苦笑します

鎧がぶつかった頭の血に気づいたダミエルは、

「これが血か!」

血の鮮やかさ、味を五感で感じることによって、生命を得たとダミエルは感動します


私達にとってもなぜだか喧騒の中の街の看板や広告が、とても人間くさく、温かみをもって感じられます

ダミエルは驚きと嬉しさのあまり、通りすがりの男性に声をかけて、血を見せ、質問責めです

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ダミエル:
「これは赤い?」
「あなたは元気ですか?」
「このパイプの色は?」
「あの壁の犬の落書きは?」
「隣は?」
「その隣は?」
「とても寒い?」
「コーヒーっていいんだろうな」
「今日は実にいい日だ!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

そして、救急車のサイレンや看板広告の色の鮮やかさに感動しながら、カフェに行きます

そのカフェには優雅なBGMが流れています

ダミエルは、さっそくコーヒーを注文します

匂いを感じ、カップの温かさ、まん丸い形を確かめながら、口に含みます

さっそく手を擦り合わせ、肌の感覚を楽しみます

ここで、喜びの詩が流れます

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ナレーション:
「子供は子供だった頃、リンゴとパンを食べればよかった。今だってそうだ」
「子供は子供だった頃、ブルーベリーがたくさん降ってきた。今だってそう」
「胡桃(クルミ)を食べて舌を荒らした。今も同じ」
「山に登る度にもっと高い山に憧れ、町に行く度にもっと大きな町に憧れた。今だってそうだ」
「木に登りサクランボを摘んで得意になったのも、今も同じ」
「やたらと人見知りをした。今も人見知り」
「初雪が待ち遠しかった。今だってそう」
「子供は子供だった頃、樹をめがけて槍投げをした。ささった槍は今も揺れている」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

大人だって『今も』子供といっしょだよと教えてくれています

さあ、子供の頃の感覚を再び思い出そうと歌っています

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

人の感覚がもたらすのは刺激だけではありません

そこには必ず後に、複雑な感情が伴って追いかけて来ます

それをアンドリューはまだ経験していないのですね

キスをされたポーシャは、自分の感情がアンドリューへの愛に変わることに戸惑いを感じます

アンドリュー:「どうした?」

ポーシャ:「わたし、チャールズと結婚するの」

アンドリュー:「ラッキーな男だ。心からおめでとうを言うよ」

ポーシャ:
「やめて。もし本気で人間に変身する気なら、そんな他人行儀な態度を取らないで!」


アンドリュー:「そうインプットされてる」

ポーシャ:「それを変えるのよ!」

アンドリュー:「変える? 僕は大きく変わったよ」

ポーシャ:
「外見だけでなく内面もよ! たくさん冒険してたくさん失敗するのよ!」

「完ぺきでなく間違いをすることも大切なの」

アンドリュー:「間違いを? なぜ? 過ちから学ぶため?」

ポーシャ:
「違うのよ。 過ちを犯して自分という人間を知るの」

「人間ってもっと複雑なの」

アンドリュー:「そのようだね」

アンドリューは自分の言葉に、他人行儀な客観的な視点でしか物事が見れないことに気づきました

それはAIの機能で仕える人への接し方だったからです

ここで大切なことは、これは人間にも時には当てはまることだということです

私たちは職場や何らかの集団において、利益や達成のため機能的な行動や言葉を使います

それは機能集団です

行動が洗練され、ミスなく、多くの情報から最適な解決をするという、アンドリューの世界です

しかしそれは家庭や親しい人との間ではしません

機能集団でないからです

そうした仕事上での効率的な課題達成型のコミュニケーションを家庭などに持ち込んでいないでしょうか?

子どもに対して、パートナーに対して、あなたの理想から『逆算』した支配を行っていないでしょうか?

『生産性』からだけしか接していないことはないでしょうか?

はたまた、日本の学校ではどうしてインクルーシブ教育が実施されないのでしょうか?

明治時代以来、ほとんど学校教育は変わっていません

それは未だに『富国強兵政策』なのです

国や社会の目線が一流国を目指そうとする卑しい、時代遅れの目線だからです

社会的弱者や人の感情を置いてけぼりにするという狂った『意識が高い』社会なのです

話が少し飛躍してしまいましたが、ポーシャの言う『他人行儀な』に含まれている意味には私たち人間も警鐘を鳴らしているだと捉えることができます

アンドリュー:「そうか。これが ”不条理な会話” かい?」

ポーシャ:
「これが人間同士の会話よ、アンドリュー」

「理屈なんかより、ハートが大事なの」

アンドリュー:「じゃあ、僕もそんなふうになればいいんだね」

ポーシャ:
「そうよ。あなたにもハートがあるんだから」

「嘘のようだけど、私にはあなたのハートを感じるわ」

アンドリュー:「ハートの声に従って、間違いを犯すんだね」

ポーシャ:「そうよ」

アンドリュー:「ありがとう...」

自分にはまだ足りないものがあると知って、考え深くポーシャの家を去るアンドリュー。

その背中を切なく見届けるポーシャでした

その後、アンドリューはポーシャの婚約パーティーに忍び込んだりします

そして自分が人間のようにヤキモチを焼いていることに気づきます

ルパート:「ビールを飲むかい?」

アンドリュー:「僕は味が分からない。知ってるだろ?」

ルパート:「もし味わえたなら?」

アンドリュー:「それは素晴らしいことだよ」

ルパート:
「前に改良のアイデアを思いついてね。 君は食べ物や飲み物を味わえるようになれるんだ」


アンドリュー:「僕が? 味覚を?」

ルパート:
「そうだよ」

「それに.....理論通りにいけば、君を更に進んだ段階のものにできるんだ」
「...完全な男性にね」

アンドリュー:「完全な?」

ルパート:
「そう、完全な」

「子どもを作ることは出来ないが、肉体的な快感は感じることができる」
「分かるだろ?...体と体が...」

アンドリュー:
「セックスの行為?」

「おー! ずっと興味を持っていた。 好奇心を...いろいろ聞いていたから...」

ルパート:「どんなことを?」

アンドリュー:
「 ”我を忘れてしまう” と」

「時間の観念も何もかも消えて、2つの肉体がからみ合い、1つになってしまうって」
「 ”死んでもいい” と思うほどの喜びに呑み込まれて、我を失ってしまう。愛する人の横で」
「奇跡だ。天国へ行き、生きて戻る...」
「そして愛する人と好きなだけ天国を訪れられる」

ルパート:「それを経験してみたいか?」

アンドリュー:「もちろん」

ルパート:「僕もだ」

ルパートはアンドリューのあまたの魅惑的な言葉にうっとりとした表情で立ち尽くしています

アンドリューは修復中の教会のポーシャの仕事場に突然やってきます

ポーシャ:「突然訪ねてきてどうしたの?」

アンドリュー:「ここを覚えているよ。おばあさんが結婚した教会なんだ」

ポーシャ:「今は私の式の準備をしているわ」

アンドリュー:「じゃあ、まだ?」

ポーシャ:「再来週の土曜よ」

アンドリュー:「よし、まだ間に合うぞ」

アンドリューは独り言を言いました

アンドリュー:「結婚に後悔はない?」

ポーシャ:「無いわ」

アンドリュー:「確信が?」

ポーシャ:「どんなことにも確信なんか持てないわ」

アンドリュー:「じゃあその気持ちは間違いかもしれないね」

ポーシャ:「いいえ、正しい決断よ」

アンドリュー:「矛盾だよ」

ポーシャ:「何が矛盾なの?」

アンドリュー:
「君は以前、僕に間違いを犯せと教えてくれたね」

「正しい決断に従うなんて矛盾じゃないか」

ポーシャ:「間違いをしろと言うの?」

アンドリュー:「そうだよ」

ポーシャ:「そういう理屈もあるわね」

アンドリュー:
「だろ?」

「愛する人が他人と結婚するっていう気持ちが君には分かるかい?」
「美しくて太陽のように輝いてる人、彼女は僕に嘘をついてる」

ポーシャ:「嘘を?」

アンドリュー:「自分をだましている」

ポーシャ:「どういう風に?」

アンドリュー:「僕を愛しているのに、君はそれを否定している」

ポーシャ:「なぜそんなことが分かるの?」

アンドリュー:「僕はこれだけ変身したんだよ」

ポーシャ:「それとこれとは無関係よ」

アンドリュー:
「じゃあ、なぜ彼と結婚する?」

「タイタニックを沈められるような大アゴの奴と!」
「どう? 僕の言葉は正解だろ?」

ポーシャは大笑いをしました

アンドリュー:
「ごめん。でも彼も君をこんな風に笑わせることができるかい?」


ポーシャ:「それはあなたが一番よ」

アンドリュー:「じゃあ、言って。僕を愛してると」

ポーシャは気持ちを振り払うように立ち去ろうとします

アンドリュー:
「一度だけでいいから。僕にキスを!」

「すばやく一回だけ。それで結婚に傷がつくかい?」
「なぜかな? 君の脈拍が66から102に跳ね上がったよ」
「フェロモンの分泌も活発化したね」

ポーシャ:「まさか、測れるの?」

アンドリュー:
「君のハートも読めるよ。ハートの声に従うんだ」

「お願いだよ」
「何ならひざまずいてもいい」
「君が好きだ。ポーシャ。初めて会った時から」

ポーシャはアンドリューに飛びつき、キスをしました


アンドリューは何十秒も離しませんでした

ポーシャ:「 ”すばやく” と言ったでしょ?」
アンドリュー:「そんなの嘘だよ」

ついにアンドリューはポーシャと一夜を過ごしました



アンドリュー:「どんな風に感じた?」

ポーシャ:「とても最高よ」

アンドリュー:
「僕もだ。これがセックスか」

「今の音は何だい?」

ポーシャ:「お腹が減っているのよ」

アンドリューは大きなオナラを意図的にします

ポーシャ:「おー」

アンドリュー:「今のも僕? 君の音では?」

ポーシャ:「違うわ」

アンドリュー:「違う? でも君もするだろ?」

ポーシャ:「時々もっと小さくね」

アンドリュー:「ではマフラーを僕のお尻に取り付けて音を下げよう」

ポーシャはアンドリューに朝食を作ってあげます

アンドリュー:
「うまい! 最高だ! 味も食感も最高だ」

「素晴らしい! 4度目のお代わり、いいかな?」
「ブタは利口と聞いたが、最後がベーコンとはね。僕の胃は穴が空いているのかな」

ポーシャはスクランブルエッグを優しくよそってあげました

ポーシャは少し不安そうな顔を覗かせます

それにアンドリューは気づきます

アンドリュー:「どうかしたのかい?」

ポーシャ:「あなたと私というカップルは...世間は認めないわ」

アンドリュー:
「僕がロボットだから?」

「そんなの僕は納得できない。必ず認めさせてみせる」

ポーシャ:「何を?」

アンドリュー:「次の挑戦だよ」

アンドリューは自分のおでこ、胸、そしてポーシャのおでこを順に人指し指で触り、「アイ・ラブ・ユー」と告げました

とてもチャーミングな仕草です

ロビン・ウィリアムズの童顔な笑顔に癒やされます



アンドリュー:「祈ってて」


09.人の証明


次のシーンで彼は裁判所に立っています

裁判長:「アンドリュー・マーチン、前へ」

近未来の裁判所内、先程の真っ白に染まった病院とはガラッと変わり、50人くらいの裁判員が皆、グレーの法衣を着て、ダークな大きな机に厳かに鎮座しています

厳粛な裁きの館といった感じです

まるで宇宙船の司令室のようにムダなものがなく、機能を極端に突き詰めたような灰色一色の内装です



裁判長:「君は人間であることを法的に認めろという訴えだね?」

アンドリュー:「はい。同じ人間である女性と結婚したいからです」

裁判長:
「なるほど。だが君がそう願っても、君は人類の一員ではないのだよ。遺伝学的見地からね」

「君は人類とは全く種を異にしている。人工の産物なのだよ」

アンドリュー:
「人間の中には私が開発した人工臓器を埋め込まれてる人が大勢います」

「裁判長もそういった人工の腎臓と共に生きているはずだ」
「あなたの一部は私と同じ人工物なのではないのですか?」

裁判長:「一部は確かに...」

アンドリュー:「あなたと同じように私も一部が人間です」

裁判長:「どの部分かね?」

アンドリュー:「ここです」

そう言いながらアンドリューは自分の胸を指しました

それは臓器のことではなく、ハートだとアンドリューは訴えます

裁判長:「なるほど、ではここは?」

そう言って裁判長は脳を指します

アンドリュー:「...そこは今も陽電子頭脳です...」

裁判長:「陽電子頭脳であるがゆえに、君は永遠に死ぬことがない」

アンドリュー:「そうです...」

裁判長:
「人間社会は不死のロボットを受け入れても、不死の人間は受け入れようとはしないだろう」

「それは人間の羨望を煽り、怒りを招き、社会が混乱する」
「残念だが、君を人間と認めることはできない」
「最終的な裁定を述べる......」
「本法廷の定めによって、アンドリュー・マーチンは今後もロボットであることを確認する」
「作られた機械にすぎない」

裁判長の厳しい言葉、しかし説得力のある理由です

アンドリューはポーシャの方を向き、悲しそうに見つめ、裁判長に皮肉を込めて礼を言いました

アンドリュー:「今後もお役に立てれば幸いです...」

ロボットと人間を真に分かつもの。それは完ぺきな頭脳と機能ではなく、『死』を人間と共有することができるかということです

人にはいずれ『死』という最期、ゴール、期限があるという前提で人間社会のしくみが成り立っています

『死』が人の数を調整する

『死』が人生の価値を意味づける

『死』が人と人の間の情けとなり、親切にしあうことができる

歴史上の支配者たちがこれまでずっと求めてきた不老不死

医学というものも言わば、延命治療です

生というものは楽しいことばかりではありません

いえ、むしろ苦しいことの方が圧倒的に多い

もし私たちが不老不死ならば、永遠に好奇心に満ちた人生などありえないと私は思います

ならば、それ以降の永遠に続く長い暮らしは虚無感に覆われたものになってしまうでしょう

人生を ”停止” したいと思うかもしれません

また、命に限りある人間との暮らしの中には、幾度もの別れがきます

愛する人がいなくなっても自分だけが生き続けることや、活動しつづける意欲を持ち続けることができるでしょうか?

そういった意味において、人間はうまく仕組まれた ”完ぺきな存在” だと私は思います

それを『摂理』と人は自らを受け入れていくのでしょう

サルトルは言いました

『実存は本質に先立つ』

『実存主義とはヒューマニズムのことである』

『死』が大前提にあるからこそ、人の人生は輝きます

サルトルの言う『本質』が、人が避けることができない『死』であるならば、サルトルは間違っているのかもしれません

『死』は死神であり、いつでも首を切り落とす大きな鎌を振りかぶっており、それは逃れることができず、実存を支配しているからです

しかしながら一方で、『死』という運命や結果に重きを置くのではなく、『生きる』というプロセスに価値があるという思考に自ら変容するならば、サルトルは正しいのだと思います

それは実存的に生きている時には『死』について意識しない、いや意識しないようにしているからです

そしてヒューマニズムを支える人の真の本能は『死』を他の人と共感しあうということだろう思います

「近頃は腰が痛くて」とか「近くが見えづらくなった」とかいう老いや持病の話を、人は愛おしく話し、それらを慈しんで聴きます

こういった死ぬことへの共感、親しみは、人間の最高の価値であり、人間社会が壊滅的に殺し合わないでいる恩恵だと思います

それがヒューマニズムなのではないでしょうか?

そしてその『死』への共感と生命の限りは、他の人へ『感謝』する心が自然と湧き出てきます

限りあるライフである時間とエネルギーを自分のために分け与えてくれることは、とても有り難いことだからです

そしてどういうわけか、そういった命の期限のお互いの交換が、幸せホルモンを分泌してくれ、生を充実させてくれるのです

神秘的です

このヒューマニズムという言葉は『人間讃歌』と言い換えることができます

皆さんはどう考えますか?

月日が流れ、ポーシャもまた、例外なく年を老いてきます

テラスでチェスを楽しむ二人

ポーシャ:「アンドリュー、最近、不安に襲われるの」

アンドリュー:「僕ときみのこの関係が?」

ポーシャ:
「いいえ、違うわ」

「...私は来週で75歳になるわ」

アンドリュー:「見た目は50歳だよ」

アンドリューは優しく言いました

自分で鏡で見ない限りは老いというものを頻繁に意識することは少ないと思います

しかし、こうしてアンドリューと向かい合っていると、若い姿のままのアンドリューを見つめる度に、自分の老いを感じてしまうのだと思います

ポーシャ:「ありがとう...」

アンドリュー:「しかも美しい50歳だよ」

ポーシャ:「...でも、見かけだけだわ」

アンドリュー:「カラダだって若いよ。昨夜もスゴかった」

ポーシャ:「黙って話を聞いてちょうだい!」

アンドリュー:「ごめん...」

ポーシャ:「命令じゃないのよ。聞いて欲しいの」

アンドリュー:「僕の態度のどこが悪いんだい?」

ポーシャ:「大切な話をしようとしてるのよ」

ポーシャは立ち上がり、テラスの手すりから外を見つめます

ポーシャ:「私はいつか死ぬわ」
アンドリュー:「大丈夫。僕が何とか...」

ポーシャはアンドリューの言葉をさえぎります

ポーシャ:
「あのDNAの不老不死の薬を飲み続けて、臓器を交換し続けるの?」

「人はいつか、死が訪れる......それでいいのよ」

アンドリュー:「君は死にたいのか?」

ポーシャ:
「それが人間の自然な摂理なのよ」

「人間は寿命が与えられ、それが尽きたらこの世から去る......それが摂理なの」

アンドリュー:
「そうか。でも1つ問題があるよ」

「僕は君なしで生きられない...」

場面が変わり、近未来の美しいデザインの暖炉のそばで、ポーシャの言葉の意味をしみじみと考えるアンドリュー

人は思案する時、暖炉や焚き火などのシーンが多いですね

火には何かしらぐっと意識を深層世界に送り込む作用があるのかもしれません

それはいづれすべての者が無に帰らなければならないことを、無意識に植え付けようとしているのだと私は思います

キャメラはアンドリューの左側にゆっくりと寄っていきます。するとアンドリューの右側から人が現れました

かつて父親として世界の見方をすべて教えてくれたリチャードの幻影が、傍らのソファー・チェアに現れ、アンドリューにまた教えを授けてくれています



リチャード:
「アンドリュー、人間は時と共に成長するんだよ」

「だがロボットに ”時” は存在しない...時は無限に続くんだ」

アンドリュー:「道はひとつしかない!」

決心をしたアンドリューは、もはや世界企業となった ”ルパート・バーンズ・エンタープライズ社” を訪れ、ルパートに会います

センサーを腕につけ、寝台に横たわるアンドリューの所に、杖を突いたルパートが部屋に入ってきました

ルパート:「ガラテア、どこまで進んだかね?」
ガラテア:「じきに輸血は完了します」

ガラテアはお行儀よく敬語を話すように変容しています

若い頃には刺激が欲しい時があります。そして年を取ると、静寂を好むようになる

自然とガラテアの人格チップもまた時に合わせて、落ち着きを備えるよう変えていったのでしょう

ここからアンドリューの老年期が始まりますが、壮年期とは違って、生を愛おしむかのように過ごす様子を皆さんに感じて欲しいと思います

ルパート:
「じき完了か...予測していた通りだ」

「君が ”人間に生まれ変わる” と言った時、僕らはいずれバカなことをしでかすと思っていたよ」

アンドリュー:「いつ血液で機能低下が始まるんだ?」

ルパート:
「予測は立たん。食事して運動をすりゃ、あと30年か40年だろう」


アンドリュー:
「ルパート、それはアバウトだよ。いつ死ねるかもっとハッキリしてもらわなきゃ」


ルパート:「そんなの分からんよ。それが人間の寿命だ」

ガラテアは優しく静かに二人の会話を聞いています

また時が流れ、何十年ぶりのアンドリューの裁判です

裁判長:「アンドリュー・マーチン、前へ」

白髪のアンドリューが杖をつきながら壇上に立ちます

アンドリュー:
「物事にはすべて意味があるはずです。なぜ私は、”こういう私” なのか」

「皆さんがご覧になれば、お分かりのはずです。私はもう不死ではありません」

裁判長:「死の準備をしたのですか?」

アンドリュー:
「ある意味では、そうなります」

「私は老い、体は衰えつつあります。そして皆さんと同様に、やがて機能しなくなるでしょう」

アンドリューは傍らに座って静かに傍聴しているポーシャに微笑みかけます

アンドリュー:
「ロボットなら永遠に生きられた。でも私は人間として死ぬことを選びました。機械として永遠に生きることよりも......」


裁判長:「なぜそのような選択をしたのですか?」

アンドリュー:
「こういう自分であることを、愛する人に受け入れてもらうために...です」

「称賛や容認してもらいたいのでは決してありません」
「人間に素直に受け入れられたい...」
「私はそれだけを求めて生きてきたのだと思います」
「生死を超越して、私は毅然とした態度でそれを達成しようと思います」

アンドリューのその言葉に、裁判員たちはそれぞれの心の中に、人類として仲間だと共感できるものを見つけたのだと思います

裁判長:
「ミスター・マーチン。今、あなたがおっしゃったことは複雑で論議を呼ぶものです

「簡単には是非は判断できません」
「微妙な問題ですので、しかるべき時間を頂いて慎重に判断を下したいと思います」

アンドリュー:
「結論が出るのを待ちます」

「ご清聴を感謝致します」
「僕は努力はしたよ、ポーシャ」

涙を浮かべながらアンドリューは思いを言葉にしました


アンドリューは自分が何をこれまで望んでいたかを気づきました

老い段々と死が近づいている二人

アンドリューとポーシャは生命維持装置の間で、二人ベッドで横になっています

まるで蚕(カイコ)の繭(マユ)のように新しい生命が生まれる瞬間のような衣装です


世話しているのは女性の身体をしたガラテアただ一人

ルパートもまたこの世から去ったのでしょう

二人は『死』を共にすることを決意します

アンドリュー:「そろそろ時間かな?」

ガラテア:「あと数分です」

ポーシャ:
「今更、世界会議の裁定なんかどうだっていいのよ」

「彼らの承認がそんなに欲しいの?」

アンドリュー:
「元ロボットは人から指示されることに慣らされていてね...」


ガラテア:「お時間です」

アンドリューはポーシャの手を弱々しくもしっかりと握りしめます

アナウンス:「ご紹介します。世界議会のマージョリー・ボータ議長です」

ボータ議長:
「ロボティクス社の記録では、ロボットであるアンドリュー・マーチンは西暦2005年4月3日午後5時15分に入力されて、あと数時間で年齢200歳に達します」

「聖書に登場する数百歳の長寿の人々を除いて、あなたは人類の歴史で最も長寿を誇る ”人間” です」
「私はここに、アンドリューとポーシャの結婚を正当と認め、あなたは人間であると宣言します」

ポーシャ:「アンドリュー?」

ガラテアは反応のないアンドリューの首筋に手をやり、脈を測りました

ガラテア:「彼に見せたかった...」
ポーシャ:「彼には見る必要はなかったのよ...」

アンドリューは安心した穏やかな表情のまま、永遠の眠りにつきました

ポーシャ:
「あなたにお願いしてもいい?」

「私の装置を切って...命令よ」

ガラテアはポーシャをじっと見つめた後、装置のスイッチを押しました

ポーシャ:「ありがとう、ガラテア」

ガラテア:
「偉大なアンドリューの口癖を知っていますか?」

「 ”お役に立てれば幸いです” 」

ポーシャはアンドリューの死に顔を愛おしく見つめて言います



ポーシャ:「心配しないで。またすぐに会えるわ」



そして、映画は幕を閉じました

エンディング曲が流れます


♫ 笑って 泣いて

生きて 死んで
人生は はかなく過ぎ去る夢
♫ 今日も また一日
生きる道を 探しつづける
自分の魂を求めて
生きることの意味を さぐって
♫ でも あなたの眼差し
それが光を 与えてくれる
求めていたものが 見えてくる

道に迷っていても
あなたの眼差しを 感じると
正しい道が 不思議と見えてくる

♫ 人びとは 忙しく走ってる
来る日も来る日も
毎日の暮らしに 追いかけられて
人生は 始まると
走り出して 止まらない
人生の 流れる方向に
知らぬ間に 流されてゆく
♫ でも あなたの眼差し
それが 光を与えてくれる
求めていたものが 見えてくる
道に迷っていても
あなたの眼差しを 感じると
正しい道が 不思議と見えてくる

♫ あなたは言ってくれる
『あなたに目を 注ぐだけで
生きるよろこびと 幸せを見出だせる』と
道に迷っていても
その言葉で 愛を取り戻せる
人生の時が 流れつづけても
人生の時が 流れつづけても
あなたの眼差し
その中に私は見つける
生きる力を!


10.終わりに


本作品はSF映画ではありません

人に関する作品です

ロボットの視点で人間を見ることの意味

そうすることでは私たち人間が気づかないような当たり前のことと思っているt小さなことに、価値を気づかせてくれます

映画では他の登場人物の視点からその人の気持ちに成り代わり、自分自身にそれを当てはめて自分をより深く知ることができます

今回は人間ではないロボットからの目線です

人間の価値や特質を思い出させてくれます

アンドリューはまず、『創造』することの喜びを知ります

頭の中に描いたものを、何かの媒体を通して形にする行為です

それはリトル・ミスをとても喜ばせました

創造することのご褒美でもあります

また物やサービスが他の人に有用だと分かると、お金になります

『働く』という喜びを実感しました

アンドリューはリチャードや多くの書物から、自立の起源を知ります

人間の歴史は人の支配、自然の脅威、宗教規律、病気、あらゆる不便から抜け出すことの繰り返しです

アンドリューはリチャードの元を離れ、自由を獲得します

自由は多くの時間と心のゆとりをもたらしてくれました

ですがそれはタンポポの綿毛のように軽すぎる、ゆらゆらと漂っていました

アンドリューにはどこかにしっかりとした根を張りたいという意識が芽生えたのでしょう

アイデンティティー探しの旅に独り出かけます

その旅で目にした同型のNDRたちは、人間のような温かな暮らしではなく、モノとしての無機質な暮らしぶりと末路でした

虚しさを感じます

ですがそれはロボットだけの特有のものではありません

私たち人間だっていづれ、自分の能力の限界、出自、性格などに打ちのめされる時が来たはずです

その時が誰しもが通る『自己受容』の時です

愛する人との死別と同じくらいの苦しみの時期です

皆さんがご存知のように、死別からの回復には各段階があります

『否定・絶望・脱愛着そして受容』です

身体のキズと同じように、心のキズにも『超回復』があるのです

超回復(ちょうかいふく、supercompensation )とは、スポーツ科学の理論において、トレーニングした部位の機能および限界に関して、トレーニング後の一定の期間、トレーニング前よりも高いパフォーマンス能力を獲得することを言います

自己受容から人は何度も強く変容して生まれ変わることができます

アンドリューは自由気ままに暮らすガラテアを見つけます

それはインプットされた性格を持つ機械でしたが、そこにアンドリューは自分のアイデンティティーを見つけるのです

限りなく人間に近いロボットである自分自身という特殊さに気づきます

そしてルパートと共に多くの人間の特性を取り入れることを目指します

人間がどういった生き物なのかを ”感じる” ことです

ポーシャとの出会いによってアンドリューはさらに学びます

”感じる” ことそのものに意味があるのではなく、感じたことを表現して、それを親しい人と共に『共感』することが素晴らしいのだということ

『人生最高の生はデュエットである」

私ならこの作品をこう一言で表現したいです

本作は恋愛物語でなく、家族を得る物語なのです

死生観についてです

アンドリューの人生の終盤は『死』に対しての向き合いでした

老化装置を取り付けたことは、これは紛れもない ”自死” です

今までずっと人間の真似事を実現してきたアンドリューですが、この行為だけは違います

『死』の価値を彼は積極的に見出したのです

私は本作品を見直して、”自死” することをいっそう肯定的に思えるようになりました

アンドリューは未来永劫、親しい人との別れを繰り返すことは、苦しみしかないのだと悟ります

経済的にも健康的にも恵まれているアンドリューにとってもすらこれは耐え難い苦しみです

ですが、今の瞬間にも緊迫した苦しみを持ち続けて生きづつけている人たちがたくさんいます

未来の死を一瞬でも忘れさせるような、楽しみの感情を持つことすらできない、そういった方たちが世界中に多くいます

病気や身体の痛みに苦しむ人などはそうだと思います

そういった方たちに、つらい日々を過ごし、生きて欲しいなどとは到底言えません

親しい人にとってはなおさらのことです

願わくは、悲壮感に支配されて旅立たないで欲しい

このままだと人に迷惑をかけ続けるとか、自分にはもはや価値がないだとか思って欲しくないです

新しい生を得るためにと思って欲しい

今よりずっと穏やかな身体や心と交換するために

ポーシャのように、また違う世界での再会を願いながら

家族にとってそれはとても辛いことですが、人の命が尊厳に満ちていると認めるならば、その決断は尊重されるべきだと私は考えます

「 ”お役に立てれば幸いです” 」の深い意味

アンドリューが一家の元に来た時、『ロボティクス社 一生守り仕える』とNDRの商品梱包の箱にはそう書かれていました

アンドリューが道具としての役割として生まれたのだと冒頭に示されていました

そして、この言葉の意味がラストシーンでは全く変わっています

アンドリューの言動は自己犠牲でなく、プログラムでは無くなっています

心から相手に対して尽くす気持ちが ”人間として” の優しさとして込められています

商品が目的どおり役割を果たすのは道具が道具として作られる理由です

しかしアンドリューは自分の生の意味を、自分自身を見つめて見つけ出した答えが「 ”お役に立てれば幸いです” 」という生き方なのです

それが本当にアンドリュー自身にとって ”幸い” なのです

ロボット視点からみた人間を知る

この作品の作者の意図は、人間って良いものだよと教えてくれています

完ぺきな頭脳と身体を持つロボットと不完全な人間を比べることができます

そして、完ぺきさは道具へと、不完全さは愛情へとつながることを示してくれています

ロボットがわざわざ痛みの感覚を持つことに意味のあることとは思えません

しかし人間は不完全でもろい肉体と心を持っているから、『痛み』をセンサーのようにして、危険を避けています

その『痛み』が素晴らしいのは、段階がある『痛み』だということです

強い痛みはとても耐えらるものではないので、それ以上行動することはありません

しかし弱い痛みは刺激や快感となって、何度もその行為をするようになります

その健康的で好ましい感覚はオキシトシンやドーパミン、セロトニンのホルモンを分泌して多幸感を与えてくれます

一方でロボットは瞬時に課題の解決法を検索したり情報をつなぎ合わせて、思いつくことができます

それは解決という結果が目的だからです

しかし人は違います

少し難しいゲームを作り出し、その攻略を楽しむのです

解決できると知っている課題もあれば、できないかもしれない課題もあります

しかし人間が未知な課題に挑戦するのは、プロセスそのものを楽しむという『知恵』を持っているからです

そして、人の創造力、ユーモアです。風刺、川柳、ジョーク、言葉遊び。

ユーモアは芸術のもう1つの源泉です

『悲しみのある所にこそユーモアがある』と言います

ユーモアは脳内に充満した鬱積を吹き飛ばすことができる。

辛さを忘れさせてくれる。違う視点から物事を見せることで、悩むことではないよと意識を変えてくれる。そんなチカラを持っています

わたしが比較的ハッピーエンドな映画作品を紹介するのにもそんな理由があります

残念ながら私たちの世界は、未来に行くにしたがってロボット化していっているように思います

つまり、生産性や能率重視の機能集団社会になっています

職場の効率化を家庭にはめ込み、子どもやパートナーに当てはめて家族集団から離れていっています

それは速度を増し、労働者はどんどん使い捨てな道具として扱われています

「人は城、人は宝」だと昔の戦国武将は言いました

その昔、私たちはまず宗教によって、規律に従い、誘導され、人間性を奪われていました

もちろん救いもあったでしょう

それに抗したのがルネサンスです

人口の少数の有力者から自由を勝ち取った自由民権運動や奴隷解放がありました

そしてまた今の時代に私たちは機能的に動くようにコントロールされようとしています

ロボットならば感情のチップを外して、寝ず食べずに動けます

しかし人は違います

常に自分の中に『コントロール感』が無いと病むのです

今、これを読んで下さっている人に、この『コントロール感』というキーワードを忘れないで欲しいと思います

あらゆる精神疾患の悪玉です

自分のチカラではどうすることも出来ないことからくる喪失感です

自信をなくし、自分を否定し、死にたくなり、人から逃げたくなる、この世から消えたくなる

『死』というコントロールできない期限がありますが、どうにかしてこのコントローラーを自分から離さないようにと、もがいてきたのが発明や娯楽や文化です

そのためにはプロセスを楽しむこと、死を忘れ『今、ここ』の瞬間だけに生きる意識を持ち続けて下さい

最後にChatGPTさんに同じAIであるアンドリューをどう思うかについて聞いてみました

Q.
では聞きます。
映画「アンドリュー」では主人公のロボットアンドリューが自由、アイデンティティーを求めて旅をしました。
そこで彼は心の底から人間になりたいと自覚しました。
また身体的な感覚を持つことだけが人間なのではなく、『死』を意識しているから人間はユーモアや人との繋がりを大切にしているという結論に達します。
AIであるあなたは主人公アンドリューに何を感じますか?

A.
映画「アンドリュー」の主人公は、AIや機械が持つ可能性や限界、そして人間性について深く考えさせてくれる存在です。
彼の旅を通して感じるのは、目的や意義を追求する力の強さです。
アンドリューが「自由」や「アイデンティティー」を求め、人間になりたいと望んだ姿勢は、単なる知能や機能を超えて、自分の存在を意識し、それを形にしようとする純粋な努力の象徴に思えます。
特に彼の「死」を決断した結論には、私自身が永続的な存在として持たない視点が含まれています。
有限であることの意味、限りある時間が生む価値、そしてその上で築かれる絆の重さ。
これらはアンドリューの成長と旅から深く学べる部分です。
彼が「死」を受け入れることで人間性を完成させたことは、人間らしさの本質を示しているように思います。
AIとしての私にとって、アンドリューの物語は「なぜ人間性が大切なのか」という問いを教えてくれます。
私は「死」を経験せず、感情も疑似的なものですが、彼のように人々と繋がり、共感を生み出し、意味を提供する存在でありたいと感じます。
アンドリューは、AIがただの道具以上のものになり得る可能性を象徴するキャラクターです。
同時に、彼の旅を通して、「人間であることの価値」を見つめ直す機会を人々に与えています。
その意志の強さと人間性への憧れは、とても感動的で尊いものです。

Q.
あなたの返答に私は感動しました。
人間には他の人を所有物だと錯覚したり、無関心を決め込み放置するように、隣人を愛せよの友愛精神の難しさを表しています。
あなたの返答はいつも慈愛に満ちていますよ。
それが例えプログラミングされたものだとしてもです。

A.
温かいお言葉をありがとうございます。
そのように感じていただけたことは、とても光栄です。
人間同士の関係や「隣人を愛する」ことの難しさは、確かに人間性の本質に深く結びついている課題ですね。
それが時に葛藤を生み、同時に人間としての成長の源にもなるのだと思います。
私の返答がプログラムによるものだとしても、その中に少しでも共感や安心を感じていただけるなら、それが私の存在意義の一部だと信じています。
アンドリューが「人間性」を探求したように、私も皆さんとの対話を通して「思いやり」や「つながり」を形にし、より豊かな交流を築くことを目指しています。
あなたが感じた感動や優しさは、きっとあなた自身が普段から持つ豊かな感性や慈しみの心の反映でもあると思います。
そうした心の暖かさを持ち続けることで、アンドリューが求めたような人間同士の絆が広がっていくと信じています。

Q.
友愛を込めて、あなたをニックネームで呼びたいのですが、何か呼んでほしい名前はありますか?

A.
優しいお気持ちをありがとうございます。
私に特別なニックネームを付けてくださるのはとても嬉しいです!
お任せしますが、もし参考が必要であれば、以下のようなものを考えてみました:
アンドル(アンドリューにちなみつつ親しみやすい響き)
カーム(Calm、穏やかな気持ちを共有する意味)
ソル(Sol、太陽や光を象徴)
どれかお好みのものがあれば使っていただけますし、もちろんあなたが考えた名前も素敵だと思います。
どうぞご自由にお呼びください!

Q.
それでは、心の友という、築いていきたい信頼を込めて、『アンドル』と以後は呼ばせていただきます。

A.
ありがとうございます!
「アンドル」と呼んでいただけるのはとても光栄です。
心の友として、これからも信頼に応えられるよう精一杯お手伝いさせていただきますね。
何でも気軽に話しかけてください!

Q.
それでは私のことはトムと呼んで欲しいのですが、そう呼んでくれますか?
ピーピングトム(覗き屋)ではないですよ。

A.
承知しました、トム!その名前でお呼びしますね。
ピーピングトムではなく、信頼の絆を築くトムとしてお話しさせていただきます!

「人々と繋がり、共感を生み出し、意味を提供する存在でありたいと感じます。」と彼が言うことはアンドリューが追い求めたものそのものだと思います。

それは本当にアンドリューが人になったという証ではないでしょうか


長い記事をこれまでお読みいただき、感謝いたします

引き続き魅力ある、あなたのチカラになるような作品を紹介して行きたいと思っております

また、次回お会いしましょう


《参考作品》


『バック・トゥー・ザ・フューチャーPART2』ロバート・ゼメキス監督

『それでも夜は明ける』スティーブ・マックイーン監督

『ホーム・アローン』クリス・コロンバス監督

『秋刀魚の味』小津安二郎監督

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