エアスイミング稽古レポート③ 2023/08/21
愛美「あーやりたくないなー」
一姫「あー」
あんたたち、それは岩崎さんに言いなさいよ。
愛美「岩崎さんもこのシーンやりたくないって言ってた」
岩崎さんが稽古場にやってきた。
岩崎「なになにー?」
愛美「このシーンはやりたくないって言ってたんです」
岩崎「やりたくないよなー!!」
やりたくないんかい。
一姫「でもこのシーン終わらないとエアスイミング終わらない」
岩崎「そうなんだよ。
でもさぁホントにやりたくないシーンはやりたくないって言わないよね!」
愛美「えぇ〜 すっごいMじゃないですか!」
むわ、、、っとした稽古場。
黙っていても汗が噴き出してくる。
前回お邪魔した稽古から一週間。
今日こそは飛世と耳々さんのシーンが見れる!
と思って来たのだが・・・
服部一姫と小野寺愛美がいる。
二人の稽古に変更になったらしい。
飛世早哉香、宮村耳々を見る事は叶わないのか。
やりたくない、と皆が口にするのは前回も見たシーン12、シーン14。
エアスイミングのクライマックスは、演出家ですらやりたくないほど苛烈だ。
稽古が始まる。
ほぼほぼ喧嘩である。
ドルフ(愛美)がポルフ(一姫)を罵る。
ポルフの好きなものをメッタメタに否定する。
愛美が止まる。
愛美「ここなんですよね。(セリフが)出ない」
岩崎「うんうん ここね」
検証タイム。
セリフ検証、、、かと思ったが、
岩崎「ちょっと肩押してみよう」
アクションの検証だ。
頭がパンパンの俳優たち。
だからなのか、体の話をする。
俳優の心情に沿って、アクションでサポートをしていく。
岩崎「今ドルフがこの話をしてる、このオーラが出ちゃってるから動きにくい、
その前に本を置きにいけるんじゃないかな」
岩崎「一姫さん、セリフ無いところだけど、一歩近寄ってあげると、
ドルフのセリフが出やすくなるんじゃないかな」
シーン12は不思議だ。
ドルフは狂っていうようにも見える。
だがその理由は明確には語られない。
心情を丁寧に辿っていく。
岩崎「そこで奪っちゃえんばいいんじゃないか」
愛美「ああ、ポルフに奪われたって思えばいいのか」
岩崎「この本を受け取る時に、やっぱりアンタか!って思うかどうか、」
本をいつ手放すか、かな。あると読みたくなっちゃう」
愛美「うん、なっちゃう」
岩崎「行動の線を作っていくセリフと一致していくんじゃないかな」
罵っているドルフが過酷なシーンにも見えるが、
罵られているポルフも痛々しい。
愛美「ホント(セリフ)出てこない、ごめんなさい」
岩崎「出てこないって暗示をかけないで」
愛美が出ないセリフに苦戦している。
日本人の我々には馴染みのない言葉、語順。
会話は脈絡があるのか無いのかわからない。
覚えるのも容易くないが、俳優はこれを”喋らなければ"ならない。
言葉のイメージ、相手への感情、しゃべる目的、普段意識しない様々。
これらを全てコントロールするのは至難の業だ。
だからこそ腑に落とさなければならない。
腹に落ちて初めて”喋れる”
素直すぎる俳優にとって、エアスイミングは過酷な挑戦だ。
小野寺愛美はとことん不器用だ。
腑に落ちてないセリフは徹底して言えない。
シーン12が半分くらい進んだところで休憩の提案。
〜〜〜〜〜 休 憩 〜〜〜〜〜
休憩、と言って休憩する人たちじゃないらしい。
広報も兼任する一姫はスタッフさんたちと談笑し、
愛美は横たわりブツブツ言いながら台本に向かっている。
岩崎「再開しようか」
岩崎「大西洋の対岸で に方向性がほしいな
大西洋の対岸があっちにあると、世界が開けるんじゃないかな」
岩崎「謝ってくれてもいいわ は一歩寄るか、一歩引くか、してもいいかも。
引くとあなたの全身が見えるから 少しも似てないわ に繋がるかも」
岩崎「そこで立てるんじゃない?
そこで立つってことが、自分のきっかけになるかもしれない」
セリフと心情とが合致した瞬間を見逃さず拾い、アクションにつなげていく。
頭ではなく、体に入れていく。
岩崎「今のとこ動けないかな」
愛美「座りたい」
岩崎「ああ!じゃあ座っちゃえば」
愛美「でも座ったら悲劇のヒロインみたいで恥ずかしいと思っちゃった」
岩崎「思い切って出してみよう」
愛美「出してみようっていうのは」
岩崎「悲劇のヒロインって言ったじゃない?
それ思いっきりやってみたらいいよ。ポルフが変わるかもしれない」
二人のシーン。どっちかが変わればもちろん相手も変わる。
当たり前なことだが、演技になるとこれが難しい。
愛美のリミッターが徐々に外れていく。
岩崎「出てく目的見つけたいかな」
愛美「とにかくここから逃げたい」
岩崎「だよね!逃げたい。目的じゃない。
でももう一つ言うと、目的があるように見えるといいかも。
だから、走らなくてもいいのかも」
愛美がどんどん変わってくる。
すると当然のように一姫も変わってくる。
先にも書いたが、これは簡単なことではない。
いかに二人がお互いに影響され合っているか。
この難解な言葉たちをあやつりながらそれをやるのは並大抵じゃない。
ポルフの心情がどう跳ねていくか。
稽古はシーン14に突入していく。
岩崎「知ってる設定で始めるって手もあるかも」
一姫「知ってる設定」
岩崎「ドルフって言ったら死んじゃう」
一姫「・・・あああ」
岩崎「うん。だから知らないって言い張る。でもあえなく時間がなくなる」
一姫「私は死なせないように頑張るんだけど・・・」
同じシーンを検証。
ポルフが明らかに変わった。
一姫「今、よくない考えが浮かんじゃった」
岩崎「なになに」
一姫「これ最後の会話かもしれない。これに答えたら終わっちゃうかもしれない。
だから話したくない」
岩崎「いいね!」
問答の意味は相変わらずわからない。
しかし二人の間に、何か強烈な意志が生まれ始めた。
岩崎「あのね内面的なことより、息遣いっていうか、今高い声になっちゃってる。
でもね、はぁ〜…っていう、深い息から出る、
ムリだった…ゲームオーバーやわ…っていう。
もっと失意の下でやりたい」
愛美が変わり、一姫に影響し、
一姫が変わり、愛美に影響する。
愛美「なんか、すごく悲しくなってきました」
岩崎「いいんだよ!そうなってるんだよ」
愛美「私は急かしたくなる」
一姫「私は2点テンポくらい遅らせたい」
岩崎「うんうん。でももう動き始めてるから、この流れは止められない」
一姫「うん・・・」
シーン12から14へ。
すさまじいギャップ。
これはワクワクする。
岩崎「じゃあ一旦休憩して、12〜13〜14、つなげるか。
耳々姉さんを呼ぼうか」
ついに宮村耳々と飛世早哉香のシーンが見れるのか
宮村耳々さん。
「異邦人の庭」北九州公演で初めて拝見した。
独特な雰囲気をまとった、素晴らしい俳優だ。
飛世と耳々さんが稽古場に現れる。
予想通り貫禄の登場。
愛美「あーなんか緊張する(笑)」
岩崎「できることをやってください。まだ明日本番じゃないです。
できることをやりましょう」
完成を目指すのではなく、今試せることを試す。
岩崎さんの稽古が豊かな理由かもしれない。
シーン12からスタート。
「ここなんです」愛美が出ないと言っていたセリフたちがするする出てくる。
どうやらつながったらしい。腑に落ちた、ようだ。
シーン13。
宮村耳々演じるドーラは、弱々しく見える。言葉もか細く、小さい。
だが聞こえてくる印象はまるで違う。
一言一言に意志と、哀しみ?そんなものを感じる。
言葉に脈絡があるのかもわからないが、それでも切なくさせられる。
体が重そうだ。
稽古場に入って来た時は軽やかだったのに。
何かを背負ってしまったんだろうか。そんな想像をした。
たった数分観ただけでここまで想起させる宮村耳々。
すばらしい俳優ではあることが十分わかる。
最初のシーンから通して観たい。
シーン14。
12とは打って変わって穏やかなドルフ。
なぜかポルフは追い詰められている。
緩やかな問答だが、緊張が張り詰めている。
ドルフが歩きだす。悪夢のようなおぞましさ。
ポルフの悲痛な叫び。
このシーンがやっとわかった。
感動した。
濃密極まる稽古が終わる。
最後にダンスしたい。
皆が言い始め、四人でのダンス。
パンパンに膨れ上がった頭と、
酷使した体を労わるかのように四人、ゆるやかに。
ところで、飛世早哉香のシーンを見れる日は来るのだろうか。
見たいんですけど。
OrgofA「エアスイミング」
著作/シャーロット・ジョーンズ
翻訳/小川公代
演出/岩崎正裕(劇団太陽族)
出演/飛世早哉香 宮村耳々 服部一姫(札幌表現舎) 小野寺愛美(EGG)
[日 程] 2023年8月31日(木)〜9月3日(日)
[会 場] ターミナルプラザことにパトス
[住 所] 北海道札幌市西区琴似1条4丁目B2F ※地下鉄 東西線「琴似」駅直通
https://dtagmd.wixsite.com/orgofa/airswimming-2023august
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?