episode1:始まりの音
高校三年生だった。
大学受験が終わり、隣の県にある大学での寮生活が決まった。
特に大きな志もなかった私は
進学校と進学塾、周りの煽動と轟音に流されるようにして、深いことまでは考えられず
有名大学ばかり受験して、すべり止めの1校のみに合格した。
浪人する気概もなく、何の力も湧かなくなった私は、その大学へ進学することに決めた。
卒業式もなんとなく上の空のまま、
大好きだった部活の仲間と、部室と、簡単にお別れの日は来た。
3年間毎日いた、自分の唯一の居場所だった。
卒業はあっけなかった。
どこか上の空のまま、
心に何かぽっかりと穴が空いたまま、
次のステージがもう始まる音がする。
この先どうなるのだろう。
どこを目指して何を頼りに進んでいけば良いのか分からない。
自分のやりたいことって何なんだろう。
違う。もっともっと、"根源的な"何かを、わたしは求めている。わたしは知りたがっている。
*
卒業証書を勉強机に置いて、携帯を開く。
当時流行っていたmixiというSNSで、最近気になる人を見つけた。
(ひゃー年がバレる😂💦)
ニックネームは水月(みづき)さん。
40代の女性で、隣の県に住んでいるようだ。
ブログでは、自分で過去世の誘導瞑想を聞いて、どんどん過去世を思い出していて、今世の自分の気づきをシェアしていたり、自己啓発本を紹介していたり、自分の心霊体験なども書いていた。
その彼女が先日紹介していたのが
"ワイス博士の過去世誘導瞑想"の本。
本には過去世誘導瞑想のCDがついていた。
過去世を視る時、水月さんはこのCDをいつも聞いているらしかった。
そのブログを読んだ後、偶然本屋で見つけて、どうしても気になって買って帰って来たまま忘れていた。
黒いビニール製の袋に入れたまま、勉強机の上に置かれたままになっていた。
そっとビニール袋から本を取り出す。
ページをめくると、優しそうな高齢の男性がこちらに向かって微笑んでいた。
何かが始まるような
何かが変わるような
新しい世界がそこには待っているような気がして
制服を椅子の上に無造作に脱ぎ捨てる。
CDの入ったラジカセに
イヤホンのジャックを差し込んで、耳にイヤホンを装着すると、ベッドに潜り込んだ。
CDの心地良いバックミュージックを聞きながら、うたた寝するような気持ちで目を閉じた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?