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韓国ドラマ視聴録#02|「社内お見合い / 사내맞선」
「社内お見合い」
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韓国のSBSとNetflixで2月28日から放送され、最終話は4月5日と最近放送終了したドラマ。日本でもNetflixで同時配信され、先に放送開始していた『気象庁の人々』『二十五、二十一』に並んで話題となっていた。主演はアン・ヒョソプとキム・セジョン。日本ではNetflixで前述した2作品と競るようにランキングに登場。Netflixでもランキング1位を記録した。原作はKakao Webtoonで、日本でもピッコマで読むことができる。
制作国:韓国
放送期間:2022/02/28〜2022/04/05(全12話)
原題:사내맞선
監督・演出:パク・ソンホ
脚本:ハン・ソルヒ、ホン・ボヒ
放送:SBS
制作:Kross Pictures
監督は、『油っこいロマンス』『あやしいパートナー』など温かい恋愛ドラマを手がけてきたパク・ソンホ監督、脚本家は、『ブッとび!ヨンエさん』を手がけたハン・ソルヒ作家、ホン・ボヒ作家。ストーリーのテンポもよく、作品の世界観にのめり込んだまま、中だるむこともなくあっという間に見終わった作品でした。恋愛ドラマということもあり、全12話という構成も非常に見やすくてよかったのではないでしょうか。この作品はぱっと見、韓国ドラマあるあるなラブロマンスコメディに見えるのですが、個人的にはそうではない部分も多分にあると思っています。もちろんロマコメがメインストーリーであり、そこに尽きるといえば尽きるのですが、細かな設定や人物像の描き方などが現代の潮流に合わせられていて、単純に従来のラブロマコメで括ってしまうのはもったいないと感じているので視聴録として残しておこうと思います。
あらすじ・企画意図
完璧なルックスと頭脳、膨大な財力、事業家としての力量まで、この上なく完璧な財閥家の御曹司カン・テムと、偶然の事故?で自身の会社の代表である彼とお見合いをすることになったシン・ハリを中心に繰り広げられる甘く殺伐とした社内ロマンス
ブケの正体が発覚したらポンケはクビ?
顔面天才能力男のCEOと
正体を騙してお見合いをした女性職員の
スリルいっぱい「退社防止」オフィスロマンス
※ブケ:本来の自分ではないサブキャラクター
※ポンケ:本来の自分、メインキャラクター
2020年頃から韓国の芸能界で定着してきた造語
※個人の翻訳です
次世代俳優陣の魅力
本作はメインキャスト4名が若手俳優で固められ、彼らの演技力がより引き出され、光った作品であったことがひとつの魅力だと思います。
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主演のアン・ヒョソプは、私個人は『30だけど17です』で初めてお目にかかりました。『30だけど17です』では主人公に片想いする若々しいスポーツ男子高校生を演じていたため、本作とはまったく雰囲気が異なり、正直同一人物だと理解するのに時間がかかりました。もしや?!と思ったときの衝撃と、子どもっぽさもある爽やかな学生とはあまりにも違う役柄に大混乱し、途中複雑な気持ちで見たことは否めません。ただ、それだけ彼の演技力が高く、幅広い役柄を消化できる俳優であることの証明だと感じました。『アビス』『浪漫ドクター キム・サブ2』にも出演しているので、彼の他作品も要チェックですね。
そして、キム・セジョン。『悪霊狩猟団:カウンターズ』では無愛想で感情表現が不器用なサバサバした役柄でしたが、今回は感情豊かでエネルギッシュな気概のある女性の役でした。本質的には、情に熱く人思いなところがある役柄という点では『悪霊狩猟団:カウンターズ』と共通していて、キム・セジョンらしい役柄とも言えるでしょう。今回キム・セジョンにハマった方は是非『悪霊狩猟団:カウンターズ』も見ていただきたい作品です。今年もう一昨出演が確定している彼女。次回作への期待も高まります。キム・セジョン自身はアイドルも経験し、ソロでも楽曲を発表しています。歌が上手いというレベルを超えて圧巻の歌唱力です。名作ドラマのOSTの参加率も高いのでぜひ聞いてみてください。
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そして、ドラマの楽しみの一つとなっていたもう一組のカップルライン。まずは『この恋は初めてだから』『だから俺はアンチと結婚した』などに出演してきたキム・ミンギュ。1994年生まれの俳優で、本格的に知名度を上げたのは本作なのではないでしょうか。『シグナル』にも出演していたそうですが思い出せない…。本作で人気が爆発しそうなので今後の作品に期待です。日本でも今年ファンミーティングを実施するそうで、早くも人気に火がついている様子。そして、キム・ミンギュとラブラインを演じたソル・イナ。『哲仁王后』などに出演していますが、私は『青春の記録』ではじめてお目にかかりました。キム・セジョンとは『恋するレモネード』以降2度目の共演です。今回のような明るく真っ直ぐで、さっぱりとした性格の役柄が非常に合うなと思いました。個人的にはソル・イナ演じるヨンソという人物がとても好きでした。
シーンや登場人物など、制作費を比較的抑えたミニマムさはありますが、チープにならず作品の世界観にのめり込める作りになっていたと感じました。派手なシーンやロケーションのバリエーションが少なくても、メインキャストの4名、脇を固めるベテラン勢の演技により作り込まれていたことや、メインキャストが次世代俳優4名で固められたことが本作の魅力の一つだと思います。
ベタにならない絶妙な設計とスピード感
本作はラブロマコメであるため、運命と偶然しか存在しないのか?と突っ込みたくなるような理想の世界が描かれています。一方、それを飽きさせないスピード感ある展開と、ベタなロマコメにならないような絶妙なバランスの演技と演出であることが作品にのめり込める重要な要素でした。小さなハプニングは起きても、次から次へと大きな波乱が起こることはなく、目障りな悪役も存在しないため、良い意味で気軽に見られるストーリーになっていたことが秀逸さだと思います。
コメディ要素も、セリフも、過度にならず味わいとキャラクターの個性に生きるレベルの絶妙なラインにとどめられており、ベタすぎるシーンを抑え、登場人物も必要最低限にしたことでキャラクターへ感情移入しやすい作りになっていました。スピード感ある展開や演出、セリフ、個々のシーンに俳優陣の演技がファットし、ベタなロマコメと感じさせない作品に仕上がっています。
今の時代を捉えた細かな設定
また、財閥モノのドラマに欠かせないのが御家柄問題。もちろん例外なくテムとヨンソは財閥なので御家柄問題は彼らの人生に関与します。ただ、本作が秀逸だったのは、ハリとソンフンを含め、テムとヨンソにもそれぞれ家庭に抱える事情が存在したことだと思いました。4人ともそれぞれどこか傷を抱えながら、それと向き合い一生懸命生きてきたことが描かれています。財閥だろうが一般市民だろうが関係なく、誰しも人には打ち明けにくいことや心に抱えた傷はあり、それは家柄や生い立ちは関係なく存在する、誰しもがみな、人生の中で持っているものと持っていないものが存在しているということを描いているように感じました。
また、「男女関係なく自らが人生の主人公となり、自立して生きていく幸せ」という価値観が表現されていたように思います。ハリは貧しい家庭を必死に支えてきた背景を持ちますが、御曹司のテムに簡単になびくことはありませんでした。自らの仕事を愛しプライドを持っていますし、金銭的な面で決して誰にも依存せず自分で解決しようとする自立した女性です。また、自分の人生を恋人に依存するようなことも決してありませんでした。ヨンソも同じく、財閥であることに頼らず、自らの人生を自立して生きようとする姿勢が明確に描かれています。金銭面、精神面共に誰かに依存することなく、自分で意志を持って決断し進んでいく、自立した女性像を明確に描いていたと感じます。
時代の変化を捉えつつ、それを当たり前の価値観として表現しているところが本作の魅力のひとつと言えるでしょう。それぞれの精神面での自立と人としての成長、恋愛と結婚の理想と現実を絶妙に表現したラブロマンスコメディだったと思います。