韓国ドラマ視聴録#01|「その年、私たちは / 그해 우리는」
「その年、私たちは」
チェ・ウシク×キム・ダミの2度の目の共演ということで、個人的にとても楽しみにしていたドラマでした。日本でもNetflix同時配信ということで、放送開始と共に見始めたのですが、話題と反して個人的には思ったよりものめり込むようにはハマらず、ゆっくりなペースで視聴しました。
個人的にそこまでハマらなかったとは言いつつ、すごく好きなドラマであることは間違いないので、視聴録を書きたいと思います。日本でも毎週話題になっていただけに、思ったほどハマらなくて「あれ?」と思ってる方も中にはいらっしゃったのではないでしょうか。私もその1人で、反響と自分の感覚の温度差に少しもやもやしていましたが、のめり込まずに見たが故に冷静に向き合えたので、その上で好きな作品だと思いました。
あらすじ・企画意図
“ヒット“よりも“話題性”
狭くとも深く愛されるコンテンツ
日本ではNetflixのランキング1位になったり、Twitterで投稿を見たりと話題になっているように感じていましたが、韓国国内では視聴率は低かったそう。一方で、NetflixKoreaではランキング1位を継続して記録、グローバルでも9位にランクインしていたので、OTTでは人気だったのではないかと思いました。メイキングなどの動画も話題になっていたり、SNSの投稿をよく目にしたこともあり、韓国国内でも視聴率は低くとも話題性としては盛り上がりがあったドラマだったように感じます。主演のチェ・ウシクのInstagramフォロワー数は放送前後で約2倍に増えたそうです。
最近の韓国ドラマはロマンスよりも社会派やシリアスなど様々なジャンルの作品が放送され、まだまだ韓国ドラマはラブロマンスが人気になる日本とは異なり、韓国国内ではロマンス以外のジャンルの方が視聴率が高く、好まれる傾向があると思っています。私自身も最近の韓国ドラマは社会問題やジェンダー、古い価値観からの脱却など、今私たちがしっかりと目を向け、向き合うべきことを真っ直ぐに描いているドラマに惹かれますし、それこそが最近の韓国コンテンツのレベルが高いと評される理由だと捉えています。その点では本作はロマンスだけに視聴率は低かったのかもしれません。
しかし、最近の韓国ドラマが高いレベルだと評価されるのは、先述した企画・シナリオ観点の他に、映像としてのクリエイティビティの高さも理由の一つでしょう。一つのカットごとに徹底的に考え抜かれ、創り込まれた演出表現や台詞回し、それを体現する役者の表現力、作品全体の味わいを深めるOST、こだわり抜かれた美しい画…細部の細部まで計算し尽くされた仕上がりが魅力だと思っています。その点では本作も例外なく、『その年、私たちは』の世界観に深く魅了され、のめり込んだ人たちは多かったはずです。この作品が醸し出す穏やかな空気感、スローテンポな展開、美しい画と音楽に惹かれ、ウンとヨンスが織りなす世界観と取り巻くさまざまな感情たち、彼らの人生のひとコマに高い共感を覚えた方もたくさんいたのではないでしょうか。
このドラマは幅広く人気な“ヒット作”とは言い難くも、共感する人は深く共感し魅了された“話題作”だったのではないでしょうか。それだけに、この作品への愛を目にする機会が多かったですし、結果、この作品が深く愛されていることが印象づけられたのではないかと思います。
自分の人生を愛し、自分の人生を生きる
穏やかなヒーリングドラマではあるものの、実はかなりメッセージ性が強く、登場人物全員に対して一貫してそれが描かれていることも本作の魅力です。ラブロマンスドラマのよくある展開、主人公の二人が付き合うまでの前半、付き合ってからの後半という構成では全くなく、言うまでもなく、胸キュンを狙ったラブロマンスでもありません。ラブロマンスというよりは、青春ノスタルジーであり、さまざまな愛情(友情)物語であり、人生の楽しさや苦しさや葛藤を率直に描いた味わい深いヒーリングドラマと言えるでしょう。
悪者もいなければ、スーパーマンもいない。
大きな事件や波乱もない。
人生は映画で描かれる世界とは異なり、実際はそんな平凡なものです。本作は、誰にでもあるその年のひとコマをただ率直に切り取った、そんな作品でした。作中でドキュメンタリーの価値を「人生のひとコマを記録すること。ある一瞬の記録がどれほど尊いものか」と表現し、「変わらない生活を送る人々に自分の姿を重ねることで、『これが生きるってことか』と気づかされる」と語られていましたが、まさにそれを体現したドラマだったと感じます。
強がることしかできなかったり、誰にも頼れなかったり、一人で弱くなったり…人生にはそんな時間もあります。誰しもが持つそんな人生のひとコマや、不器用で繊細で真っ直ぐな感情を描き、「幸せなんかないと思っていた生活の中にも、辛くてどうしようもないと思っていた人生の中にも、もしかすると自分が気づいていないだけで、すでに幸せがあるのかもしれない」そんなメッセージを投げかけてくれていると感じます。
「自分の人生を愛して、自分の人生を生きる」そんな普遍的なテーマをこれほどまでに美しく描いたという点でもとても好きな作品でした。じんわりと心に沁みる読後感で、年齢関係なく青春は訪れることを噛みしめながら、青春らしい爽やかさや苦さに混ざり合う、理性や思考に囚われてしまう大人のもどかしさを感じながら視聴しました。美しく、優しく心癒されるヒーリング青春ドキュメンタリーだと思います。
すべてにおいて“新鮮な“制作背景
脚本家・監督
脚本はイ・ナウン作家、 メイン監督はキム・ユンジンPDですが、イ・ナウン作家は長編は初挑戦の1993年生まれ、キム・ユンジンPDは本作がメイン監督デビュー。なんと、若手の次世代クリエイタータッグにより実現したドラマでした。主人公のウンとヨンスは29歳。脚本家も監督もメインキャストの4名もまさしくウンとヨンスと同世代であり、等身大の彼らが織りなすことでよりリアルな、より真っ直ぐに伝わってくる作品になったのではないでしょうか。
キャスト
主演は、チェ・ウシク×キム・ダミ。『パラサイト』然り、普通っぽさを絶妙に演じ分ける天才チェ・ウシクと、強烈なキャラクターを見事に演じ切る天才キム・ダミがラブラインとしてロマンスに出るというのは新鮮でした。
キム・ダミは、ドラマは『梨泰院クラス』に続き本作が2作目。『梨泰院クラス』含め過去作はキャラクター性が強かったのに対し、今回は現実的で日常的な演技を見せたかったそうです。ヨンスは休まず走ってばかりいる広報専門家で、「自分が他人に何も施すことができない人間になるから貧乏になりたくない」というような現実主義者。対して、「一人でいるのが楽で、余裕があって平和なのが良い」のがウン。夢はなく、ただ遊んでいたい。そんな真逆な二人が惹かれ合い紡ぐ世界を、韓国を代表する名俳優2人が描くところも本作の見どころ。そしてポイントは、引く手あまたな2人が実績がまだない若手脚本家×若手監督の作品を選んだということ。韓国エンタメが速いスピードで高尚にクオリティを高めていく背景には、こういった先進的な思考の俳優たちがいることもいち背景であると感じます。
また、脇を固めるのは『刑務所のルールブック』でおなじみのキム・ソンチョル、『ピノキオ』でご存知の方も多い子役出身のノ・ジョンウィ。彼らを脇役で終わらせず、彼らの人生にも目を向けさせ、一貫して「自分の人生を生きる」というメッセージを伝える構成になっていたこともこのドラマの秀逸さです。その他さまざまな作品でおなじみの俳優陣が脇を囲み、深みのある人間物語が温かく、優しく描かれています。
OST
美しい画とこだわり抜かれた演出はもちろんのこと、本作はOSTも非常に新鮮でセンスが溢れていました。OSTには、BTSのVを筆頭に、10cm、SAM KIM、ヤン・ヨソプなどが参加。個人的にはオープニング曲に使われたKim Kyung Heeの「Our Beloved Summer」がお気に入りでした。
音楽監督は『トッケビ』『愛の不時着』『サイコだけど大丈夫』『青春の記録』などのOSTを手がけてきたナム・ヘスン監督が担っています。上記の作品はOSTを鬼リピしてきた作品たちなので、個人的には本作もナム・ヘスン監督と知り大納得でした。OSTは以下のリンクからApple musicで聞けます。
前日譚を描いたウェブトゥーン
二人の高校時代の恋愛が描かれたウェブトゥーン『その年、私たちは -青葉の季節-』 がNAVERウェブトゥーンにて2021年11月6日から連載開始されています。
▼ストーリー・作画を担当されたHan Kyoung ChalさんのInstagram
▼韓国のウェブトゥーンは以下から見られます
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