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ショートショート1000字縛り★変態仮面夫婦
私たち夫婦は仮面夫婦
もう3年も、夜の営みどころかハグもキスもなし
新婚の頃はラブラブだったけど、想定外だったのは生まれたのが三つ子だったということ
共働きで旦那も家事はやってくれるけど、全っ然、手が足りない
髪も肌もボロボロ、お洒落もしなくなった私を、女として見てもらえないのは仕方ないと諦めていた
いまではお互いロクに話もせず、家に帰ってきてもスマホをいじる時間の方が長い
そんな私にも一つだけ楽しみがある
それは恋愛小説を書くこと
若い頃から、同人誌に投稿していたので書くことは大好き
子供たちが寝静まってから、少しずつ書き進めている
現実にはもう叶わない、とろっとろのあま~いラブストーリー
登場人物たちに思いっきり素敵な恋をしてもらうの
もちろん、身バレしたら大変!
ママ友たちの笑いものになってしまう
私はプロフィールを実際とは真逆になるように設定している
性別を男性にして、読書好きの文学青年て感じ
最近はコメントもいただけて、お友達のように話せる人もいる
「いつも楽しみにしています
今度の展開もドキドキですね」
「男性なのに女性の気持ちがよくわかってて
私の理想です」
これはちょっと後ろめたいなぁ
むしろ女心しか分からないのよ
ある夜のこと
子供たちがやっと寝静まり、もうくたくた
旦那も疲れたらしくて、コーヒー飲みながらスマホをいじってる
私もスマホを出して、コメントをチェック
「次回作のヒロインの名前が決められなくて
いい案があったら教えてください
強がりだけど、本当は泣き虫の頑張り屋という設定です」
昨日書いたそんな私の書き込みに、何人かが提案をしてくれていた
「沙穂里なんてどうかな」
「春香、は?」
「瑞稀はどうでしょう」
あらら
ある女性が提案してくれた名前は私の本名だった
珍しい字なのに字まで同じなんて
その人からDMが来ていた
「相手役の名前は決まってるんですか?」
「はい、大好きな名前を使いたいと思います
海人と書いてカイトです」
と返事を書いた
途端に隣の旦那がコーヒーを吹いた
え?
私はゆっくりと旦那を見た
旦那もゆっくりとこっちを見た
旦那の名前は海人だ
二人ともみるみる顔が真っ赤になった
恥っず!
「な、何やってんだよ、お前」
「何よっ、この変態」
「なんで、男のふりしてんだよ」
「そっちだってネカマじゃん」
夫婦で性別変えて、コメント交換ってバカすぎ!
もちろん大喧嘩勃発
子供たちも起きてしまった
そしてその夜
私たちは3年ぶりにハグをした