デンマークの若者の悩みとは
選択肢が多いことは幸せなのか
北欧は言わずと知れた福祉・医療・教育の先進国で、税金は高いものの社会や暮らしへの還元がスムーズで政治への信頼感もある。デンマークは個人の”幸せ指数”が高いことでも有名で理想的な社会に見えるけれども、実は問題を抱えている若者もいるということを知る。
私のいるフォルケホイスコーレに通っているリーネから話を聞いた。デンマークでは14歳から18歳までの生徒が通うことができる”Efterskole(エフタースコーレ)”と呼ばれるオルタナティブスクールがある。彼女はそこの出身だ。
ユニークな自立型学習を促す場所で、例えばスポーツ、音楽、メディアなどの専門科目があったり、学習障害など通常の学校に通えない生徒も一部受け入れている。将来のまだ見えない多感な少年少女達が進路を決めるまでに様々な経験ができるような教育の仕組みがあるのだ。
デンマークの教育システムは、いわゆる小中高大学などの他にもフォルケホイスコーレや様々なルートがあり、途中で進路変更したり卒業してからもう一度学んだりとフレキシブルで年齢なども問題視されない。
「本当に役に立つことを自分のために学ぶ」というのが最優先だと親も先生も考えているからだ。
こういった環境を見ると、子供や若者は親に強制されることもなく、さぞ将来の「やりたい」何かに向けて創造性全開でいるのかと思いきや、一部の学生にとってはこの「選択の自由」がむしろプレッシャーとなっているというのだ。
「すべて自分で自由に選択できる」
自分の進路において「お金は心配しなくていいから好きなことをしろ」と言われたら?
私なら、なんてパラダイスだ!と思うのだが、それが当たり前の彼らにとっては、その自由さゆえに「実力」や「能力」がないことに勝手に劣等感を感じて落ち込んだり、選んだ道がうまくいかない場合の対処に悩むということがあるようだ。
人間が営む環境やシステムに完璧な形というのはないのかもしれない。どんな社会であっても、まず自分を肯定できる土台、軸があるということが前提ではあるけれど。
ギャップイヤーって必要?
リーネは高校卒業後、2年半という長いギャップイヤーを利用し、仲良し3人組で『når sabbatår er fucked』というドキュメンタリードラマを制作した。直訳すると「長期休暇なんてくそくらえ!?」というような意味になる。彼女は将来に対する不安や葛藤がありながらも、ギャップイヤーを推奨しており、あえてこんなお茶目なタイトルをつけたようだ。
自分達で撮りためた映像をつなぎ合わせ、プロの編集者にも依頼しまとめ上げた渾身の作品は素人とは思えないほどの出来映えだ。そしてこのドキュメンタリーはデンマークのWebドラマ部門で賞を獲得し、放映されることになった。
字幕もデンマーク語で・・意味はよくわからないのだが(汗)若者の日常や空気感のようなものが感じられて、興味深く見入ってしまった。
映像の雰囲気だけでも興味がある方は以下から見られます。
Limbo -『 når sabbatår er fucked』
みんな違っていい、自分はどうありたい?
日本人はよく子供に「何になりたい?」と将来の職業を問う。ヨーロッパや北欧では、人として「どうありたい?」という質問に対して、子供が堂々と答えたりする。
子供の頃から、「なぜ」や「あなたはどうしたい」という質問を浴びている彼らは、人と意見が違うことは当たり前で、思考や発想力も鍛えられていく。先生も個々に合ったオープンクエスチョンでそれを引き出すファシリテーションが上手だし、学生を信じる力が強いのだろう。
例えばデンマークの小学校の英語授業では、子供のスペルミスや些細な間違いに対してほとんど指摘しないそうだ。やる気や好きな気持ちを削いで「可能性の芽を摘まないように」との配慮だ。子供であっても一人の人間としての意思を尊重しているのだ。
とかく大人達は「間違い探し」をしがちで、知らず知らずのうちに「どうしてできないのか」「向いていない」と「否定」のほうにフォーカスしてしまう。学校に限ったことではなく、組織や企業でも同様のことが起こっている。
北欧の教育スタイルには、人間関係を考える上でたくさんのヒントが詰まっていると思うが、まずは働きかける側のマインドセットが必要だ。「できない」のはプロセスであり結果ではないのだから。
もちろんデンマークの社会や教育に懸念がないわけではない。高齢化や移民増加による労働や財政問題、また悩める若者がいるのも事実ではある。それでもやはり「学生主体」という教育のあり方は魅力的であるし、横並びで敷かれたレールを歩くより、選択肢が多く「自分」の可能性を見出す環境があるほうがいい。それはきっと「いかに自分の人生と向き合うか」ということに繋がり、そんな時間を持てるのは幸せなことではないかと思う。
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