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アントシアニン不足と対策
前回はアントシアニンの色素としての形態や役割にフォーカスしてきました。
そして今回はその続き。アントシアニンがなぜ不足するのかというところから再開したいと思います。
アントシアニンの細かい話は置いといて、なぜ日本の赤ワインが淡い色をしているかということだけを知りたい方はこちらの記事だけ読んでいただければと思います。
1. アントシアニンとは
「1. アントシアニンとは」は前回の稿にあるのでそちらを読んでいただければと思います。
2.なぜ不足するのか
ここまで長々とアントシアニンの色素としての働きやメカニズムを見てきたが、日本のブドウの多くはアントシアニンが足りていない。
ワインを作る過程で減っているわけでも、抽出ができていないわけでもなくそもそも足りないのである。これはなぜなのだろうか。
こういった問題に関しては、フランスではあまり扱わない。
フランスは地域ごとにしっかりと環境に適した栽培法と品種、ワインのスタイルを確立しているから着色の問題などほとんど起こらないのだろう。
これは決してフランスでは毎年きちんと完熟して、病気もなくという意味ではないが、日本と比べるとはるかに栽培に適した地だと言えるのは間違いない。
問題は栽培環境が違う国で、それをただ真似るようにしてブドウを造っているというところにある。
話を戻すがなぜ日本のブドウの色づきが悪いかという話である。
簡単に言えば以下のことが挙げられる。
1.収量の多さ
2.日射量の短さ
3.降雨の多さ
4.温度
まず収量の多さは間違いないと言える。
収量が多いというのは日本のワイン産業の課題である。これは構造的に現状避けようがない。
というのも現状では多くのワイナリーが農家から契約栽培でブドウを買っているからだ。
つまり単純化すれば、農家は多くブドウを作れば作るほど収入が増えるのである。
そんな状況では収量過多になるのは当然と言える。
具体的な数字を挙げるならば、日本では10-15t/haの収穫をするのに対し、フランスのボルドーの地域の定められた最大収量は約6t/ha(単位がhl/haで定められているため「約」としています)だ。
収量が比較的多いと言われるドイツでも全平均が約10t/haなのだから日本の収穫量の多さがわかる。
これによってアントシアニンの蓄積が分散化し、結果的に破砕した後に液量に対してアントシアニンが少ないということが起こるのである。
それに加え、着色期の日射量の少なさも挙げられる。
基本的にはアントシアニンは光合成の二次代謝によって生成されるものなので、光合成の全体量によってアントシアニンの量も増減する。
日本はヨーロッパ諸国に比べて緯度が低いので、夏場(着色期)の日照時間が短い。
ヨーロッパでは夏至の前後には午後10時近くまで日が沈まないのだから、光合成ができる時間はもちろん長くなり、結果的にアントシアニンの生合成量も多くなる。
ちなみに具体的には6-8月のボルドーは平均230時間ほど、日本でも有数の日照時間を持つ山梨で170時間だ。
ここにも大きな違いがあることがわかる。
さらに降雨の多さもここに加わる。
先の日射量と同様に比べると、フランスの中でも比較的湿度も降雨もあるようなボルドーでも6-8月は平均で60mmほどの降水量で、一方日本を代表する山梨はというと130mmほど降っている。
自分も今年初めて降雨によってブドウが水っぽくなるというのを肌で体感した。
降雨によって房や実は水を吸収することで大きくなる。
つまり発酵段階において果汁に対して果皮の体積が減少するのだ。
ただでさえ果皮の色づきも悪いのに、比率まで少なくなると醸造過程でどれだけ抽出しようとアントシアニンの不足は顕著なものになる。
それに降水量の多さは病気の誘発も促す。それによって完全な熟期の手前で収穫することを余儀なくされることも多い。
それも色づきが不十分なブドウを生む大きな原因の一つだろう。
そこに温度だ。
アントシアニンは日本の高温にもダメージを受けている。
アントシアニンの生合成に関わる遺伝子の発現が高温(35℃)によって抑制されるのではないかと言われている(これはまだ議論中)。
一方で高温によって分解が促進されているという研究も出ているのだからいかに高温環境下でのブドウ栽培がアントシアニンを蓄積できないかがわかると思う。
3. 今後の方針と対策
今後の方針としては具体的な話をするとまた一章ずつそれに使わなければならなくなるのでまとめた形での紹介に留めておくことにする。
とりあえず果皮の色が重要視されるCSのような品種では、その収穫期が秋雨の後ということもあるので、品種を含めて見直すべきところはたくさんあると思う。
以前に紹介した栽培法(第28稿)だけでなく、どうやったらなるべく長時間、効率よく日照量を得られるのかを仕立て方から考える。
山の斜面を使うなら、斜面の角度と方角を考える。
ELA(Exposed Leaf Area)を収量に対してどうやって増やしていくのか。
除葉することによるピラジンの減少と高温によるアントシアニンの減少を天秤にかけて考えなくてはならないこともあるだろう。
粘土質の土壌は砂質に比べて日中の温度が抑えられるので使えないだろうか。
海や大きな水源の近くでは気温の日較差が少なく、気温が上がりにくいのではないか。
着果位置を比較的高くしたら熱反射も少なく、風の通りも改善されるかもしれない。
そういった一つ一つの選択を丁寧にしていかなくてはならないのだ。
日本というビハインドを背負ってワイン造りをする以上、ヨーロッパの後ろを同じように追いかけてヨーロッパ品種を植えた、垣根仕立てが増えたなんてことで喜んでいてはいけないのだ。
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