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酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第53回「マイナスからプラスに転じた大館一人酒」

「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。

withコロナでようやく一人酒が再開した。が、まだまだ心置きなく飲めるようになるまでの道のりは遠い。ならば、体験談エッセイでも書くとするか。酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第53回「マイナスからプラスに転じた大館一人酒」である。


はじめに

秋田県の大館市の三大名物をご存じか。答えは秋田犬、きりたんぽ、比内鶏だ。秋田犬は忠犬ハチ公によって一気に知名度が上がった。大館駅前にも忠犬ハチ公の像があり、「渋谷だけじゃなかったんだな」と感慨深く見入ったものだ。

飲み歩くのには関係ないので秋田犬から話題に出したが、残る二つのきりたんぽ、比内鶏が、大館での一人酒のキーワードとなっていく。両方とも名物グルメなので絶対に外せないのだが、果たして無事に食べられたのだろうか?

大館の夜、まずはホテルのチェックインからだ。

大館市「秋北ホテル」~なんてこったいのハプニング

ビジネスホテルがある都市に泊まるときは、たいがい素泊まりもしくは朝食付きにする。夕食をフリーハンドにしておけば、その都市で飲み歩けるからだ。ただ、レストランを併設しているホテルでは、ごく稀に魅惑的なプランをお目にかかることもある。

大館市で泊まった秋北ホテル(現ホテルクラウンパレス秋北)もそうだった。旅行代理店予約サイトで「比内地鶏堪能コース」というプランを見つけたのだ。料金も二食付きとしてはリーズナブルだった。即座に飛びついたことは言うまでもない。

大館市郊外の大滝温泉にある日帰り入浴施設で温泉を堪能した後、ホテルへと向かった。チェックインするためにロビーに入った瞬間、イヤな予感がしたのだ。なんと、高校のスポーツ部が数団体泊まっていたのだ。

食事なしで外食だけだったら何も問題はない。だが今回は食事つきのプランで、ホテル内のレストランでの提供となる。高校生たちとバッティングするのは避けられない。

案の定、レストランは高校生たちでワイワイガヤガヤ状態。それでも気を取り直して、スタッフに部屋番号とコースを申し出たが、妙な素振りをするじゃないか。悪い予感は現実のものになりそうだ。ついには責任者と思われる人物まで現れて・・・

「こちらの手違いで、お料理の用意ができていません」。

おいおい、なんてこったい。レストランスタッフは恐縮するばかり。ケツを割って「外食するからいらない」とでも言うか。と、そこへ再び責任者が現れ「すぐにご用意しますので、少々お待ちいただけますか」と平身低頭。なら、待つとするか。

高校生たちの夕食はバイキングだった。見渡すと、ほかに一般客はほとんどいない。そもそも団体が入るような日に、コース料理を設定する方が悪い。まあ何を言っても仕方がないので、ササっと夕食をいただいて、ササっと外出しよう。

数十分待たされてようやく案内され、夕食にありつく。メニューはきりたんぽ鍋、地鶏の焼き鳥、刺身、地鶏入りサラダ、ハタハタの飯ずし、とんぶりだが、あえて料理の論評はしない。いや、記憶に残っていないので書けないとでもしておこう。

蛇足だが、このホテルはコロナ禍で休業中のままである(23年9月現在)

大館市「秋田比内や大館本店」~比内地鶏を食ったものの

まがいなりにも腹は膨れたが、とても満足できるものではない。気を取り直して大館市内で軽く飲み歩くとするか。探し歩いて多少腹具合がよくなってきた。頃合いよく居酒屋「秋田比内や大館本店」を見つけたので入ってみる。

ここでお断りしておくが、この先の記述はあくまでも約20年前の出来事で「たまたま巡り合わせが悪かったことによる印象表記」ということを前置きしておく。

人気店らしく、客の入りはいい。まずは秋田を代表する地酒・高清水と、とりあえず焼き鳥2種を注文する。比内鶏は天然記念物なので食べられないが、一代雑種の比内地鶏が地域ブランドとなって味わえる。当然この店の焼き鳥は比内地鶏である。

ところが、待てど暮らせど焼き鳥が出てこない。

だったら注文時に「お時間がかかります」と断ればいいものをと、次第に立腹してくる。やっと1串出てきたが、もう1串は別の客に出してしまったらしい。何たる不始末か。

これ以上いても精神衛生上よくない。1串食って即座に勘定をさせた。もし2串分計算していたら怒鳴ってやろうと構えていたが、さすがに向こうも気づいたようだ。

さえない大館市の夜酒・・・とことんまでパッとしないまま終わるのか。

大館市「真心」~酒飲みのカンに狂いはなかった

ホテル近くまで戻ってきた。釈然としない一人飲みに悶々としていたところに、一軒の小料理屋が目に入った。「真心」という屋号がアットホームな感じを醸し出している。むろん予備知識は全くない。だが、酒飲みのカンに狂いはないはずだ。

小ぢんまりとした店内は、中年ご夫婦が切り盛りをしており、先客も気分よさげに飲んでいる。これはイケるかもしれない。早速、酒を頼もう。地元大館の太平楽燗酒。付き出しはなんとモクズガニ。これは嬉しい。料理はジュンサイをいただくとする。

店の雰囲気に馴染んできたところで、ご主人と話をする。大館市について尋ねると「観光PRが下手なんですよね」と嘆く。もともと鉱山で発展してきた街であり、観光にシフトチェンジするための生みの苦しみを味わっているらしい。

観光の話題が出たところで、三大名物の一つ「きりたんぽ」についても聞く。さきほどホテルのコース料理にも入っていたが、「こんなものか」という感想しかなかった。そのことを正直に話すと、ご主人からこんな言葉が返ってきた。

「きりたんぽは家庭料理だからね」。

レストランなどで出すきりたんぽ鍋は万人向けに作られているのだという。本当のきりたんぽは、家庭ごとの個性があふれているとのこと。「真心」でも冬になればきりたんぽ鍋を出しているという。食べてみたいなあ。

そんなわけで話は弾み放題弾んだ。サービスで山ウドのきんぴらやフキ味噌まで出していただき、酒も進んで上機嫌。大館一人酒、「真心」のおかげで、一気にプラス方向にベクトルが動いたよ。ありがとう。ごちそうさま。

〇〇〇
今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2005年4月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。


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