土鍋料理は冬の定番
天気が寒くなると、食べたいものも変わる。冬と言えば、頭にまず思い浮かぶのは、ぐつぐつと湯気を立てる土鍋料理だ。中国各地の土鍋料理はまさに「百花繚乱、百家争鳴」と言えるほど多彩な文化だ。
北の各地では、脂の乗った豚肉や羊肉が土鍋の中で煮込まれ、「豪快な肉食の世界」を味わえる。一方で南の沿海地方では、海鮮が米を加えた土鍋の中で独特な風味を引き出す。そして南北の米や麺類も、土鍋の中で自慢の味を競い合っている。
この土鍋という人類が古くから使ってきた調理器具は、熱の通りや分散が均一であることから、さまざまな食材を活かし、多彩な味わいを引き出してくれる。
西北地方の羊肉煮込み土鍋
中国西北部は中国の西北内陸の地域。地理上は黄土高原西部、渭河平原、河西走廊、青蔵高原北部、内モンゴル高原西部、ツァイダム盆地、新疆の大部分の地域を含む。中国においては西北区、または略して西北と呼ばれる。陝西省、甘粛省、青海省、寧夏回族自治区、新疆ウイグル自治区が西北五省区になる。
寧夏、また寧夏と陝西省の境のあたりの牛や羊は、半年以上も塩分を含む草を食べて育ち、すでに脂が乗って肉質も美味しい。新鮮な肉を切り出し、ジャガイモ、大根、豆腐などとともに骨スープで煮込み、土鍋に入れて強火でじっくり煮炊きする。まだテーブルに運ばれる前から、豊かな骨スープと肉汁の香りが漂ってくる。これこそが、羊肉土鍋の魅力なのだ。
寒さの中、熱々の羊脂で仕上げた油泼辣子(ラー油)を一さじたっぷりかけると、香ばしさと辛みが鼻を刺激し、食欲が一気にかき立てられる。これこそ、食べ始める前の最も儀式的で見事な仕上げだ。さらに、黄金色の糁米(サンミー)ご飯や一口の地酒が添えられれば、その美味しさで一日中幸せな気持ちになれるだろう。
東北地方の豚肉煮込み土鍋
満足感と言えば、量が多くボリューム満点の東北の土鍋料理は、氷点下20度の中でも常に火のような熱気を放っている。
中国各地で名を馳せた満州料理「砂鍋白肉」は、もともと東北発祥であることを知る人は少ないが、代わりに「ハルビン砂鍋壇肉」は今や東北料理の代表格として名高い。脂身と赤身が幾重にも重なる大きな豚バラ肉を、砕いた氷砂糖で炒めて香ばしいキャラメル色に仕上げ、老抽(濃口しょうゆ)、料酒、八角、花椒、香葉などの香辛料を加え、小ぶりの土鍋でじっくり煮込む。口に入れればほろりとほどけ、肉の旨味と豊かな味わいが口いっぱいに広がるのだ。
最も本場の食べ方は、濃厚な煮汁を白ご飯にかけて食べること。ご飯の一粒一粒が肉汁をたっぷり吸って、ふっくらとした歯ごたえになる。また、「油餅」と一緒に楽しむこともでき、まさに「香ばしくもこってりしない」という表現がぴったりの一品である。
南地方の土鍋は湖と海の幸の集大成
南京では、アヒル料理が千種類もあるといわれるが、寒風をしのぐ力でいえば、福建の泉州や厦門の「姜母鴨(ショウガ入り土鍋アヒル煮込み)」が一番だろう。
海藻や小エビなどを食べて育った浙江沿岸の「紅面番鴨」は、肉が柔らかく脂っぽさが少ないため、土鍋でじっくり煮込むのが最適だ。アヒルの脂が滲み出し、肉に奥深い香りとコクが加わるのである。
アヒルだけでなく、ショウガもこの土鍋料理の主役だ。3年以上寝かせたショウガは、洗って薄切りにして乾燥させることで「姜母」と呼ばれる。アヒル肉をゴマ油と「姜母」でじっくりと煮込むことで、ショウガのピリリとした辛みとアヒルの旨味が絶妙に混じり合い、奥深い味わいへと変わっていく。
福建の北に位置する浙江では、土鍋料理のバリエーションも思った以上豊富だ。骨付き肉の煮込み、龍鳳煲(ハトとスッポンの煮込み)、ハト鍋、タニシ鍋、地鶏鍋など、数えきれないほどのメニューが並び、目移りするほどだ。そんな中、ひと際目を引くのが「老鴨煲(アヒルの土鍋煮込み)」である。しかし、箸を伸ばそうとする前に、隣の江蘇から「何も珍しくない。私たちのほうがおいしいかも」と言われそう。
実際に江蘇を訪れると、最も人気がある土鍋料理は老鴨煲ではなく「天目湖砂鍋魚頭(ティエンムーフー土鍋魚頭)」、別名「沙河煨魚頭」であることがわかる。自然豊かな天目湖で育つ大きな天然の鰓魚(大きな草魚)は、脂がのった魚頭が特徴で、表面を黄金色に焼いたあと、紹興酒を加えて強火で煮込み、仕上げに豚の脂で煮白くすることで、土鍋のスープがさらに白濁し、豊かな味わいになる。一口食べると、口当たりはなめらかで、濃厚な旨味が広がり、「三年も香りが残る」と讃えられるほどの絶品だ。
もし魚料理への興味が尽きないなら、雲南省の大理へ行き、洱海の弓魚を試してみるとよい。若鶏の切り身、鶏茸、筍、干しシイタケ、火腿(ハム)、海参(ナマコ)など十種類以上の高級食材と一緒に煮込む「大理魚土鍋」は、滋味深い味わいが堪能できる。
一方、「スープなしでは宴にならない」という湖北では、湖産のハスを使った「排骨藕湯(スペアリブと蓮根の土鍋スープ)」がある。しっかりとした豚の胸骨と白い蓮根を二度に分けて鍋に入れ、強火と弱火を交互に煮込むことで、温かさに満ちた一鍋が仕上がる。スープの澄んだ白さに漂う淡い黄色の脂、やわらかく煮込まれた豚肉、そして甘みを帯びた蓮根が、もちもちとした食感とシャキシャキ感を絶妙に調和させている。
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