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親の代から承継した現役農家や、地域活性の現場でいま、農業の「基礎学習」が求められる理由とは?

気候変動や人材不足、流通の課題などさまざまな課題がある現代の農業。「これまで通りの慣習」だけでは向き合いきれなくなってきています。

そんな農業が抱える多くの問題を基礎から学び、本質に向き合うための技術と知識を深める「アグリイノベーション大学校(以下、AIC)」をご存知でしょうか。

こんにちは、マイファーム公式noteです。
執筆者のMと申します。ふだん、マイファーム公式noteでは、内部のメンバーやAIC受講生が執筆していますが、この原稿に関しては、外部メンバーで結成された取材チームが手掛けています。

まずは、このnoteが生まれる経緯からお話させてください。


農業を、オンラインで、どれだけのことが学べるのだろう?

当初、このnote執筆のオファーを受けた時は、AICが関東で実施されている農場実習の様子を取材させていただくつもりでいました。ですが、AIC事務局のみなさんによくよくお話を聞いたところ、「オンライン受講課程」の存在を知りました。

地方で農業に従事しながら、あるいは仕事を続けながら、本格的な農業理論を学ぶことができるコースが、AICの「オンライン受講課程技術経営コース(以下、オンラインコース)」です。

2007年、体験農園の事業で起業していることからも分かるように、実地での体験を大切にしているのが運営会社のマイファームであり、AICだと捉えていたので、「オンライン受講課程」の存在に、正直、意外な感じを受けました。

現場での経験を大切にしている農業の世界に臨むにあたって「果たして、ビデオツール越しに、どれだけのことが学べるのだろう?」と感じたのです。

そして、そうした疑問を持ち、この講座を眺めている、これから学ぼうとされている外部の方も多いのではと感じ、オンライン受講課程についての取材を進めることにしました。

オンラインで学ぶ、2人の受講生に話を聞いてみた

このnote執筆にあたっては、AICのオンライン受講課程で学ぶ2人の受講生に話を聞くことができました。

ひとりは、新潟県阿賀野市で農家を継ぎ、従事しているうちに学び直しの必要性を感じAICに入学した「丸山農園」の丸山さん。

新潟県阿賀野市「丸山農園」にて、丸山さんが田植えを行う様子

そして、長年の外資キャリアでビジネスを学んだのち、地域おこし協力隊として、秋田県大館市の農政課で働き、地域の未来を考えるなかで農業に関心を持ち、AICで農業を学びはじめた大西さんです。

大西さんは右から2人目の女性。前職時代の様子

お二人への取材では、こんな言葉に出会えました。親の代から農家を継いだ丸山さんはこう言います。

「実際に農業に関わると、作業の流れはわかっても、根拠や理由がわからないことが多くて。こういうものだから、ずっとやっているからで済んでいることが多いなと感じた」

「深刻な担い手不足という状況もあるので、今後若い世代を育成する意味でも基礎が必要だと感じるようになった」

「自分のやりたい農業の技術、経営の技術を基礎から学べるのではないか」

新潟県阿賀野市「丸山農園」の丸山さん

また、地域おこし協力隊として、農家と関わるようになった大西さんはこんな言葉を残してくれました。

「農家さんにお手伝いに行っても詳しい説明があるわけではないので、基礎的なことから農業を学びたいと思いました」

「今は具体的にどういうかたちで農業に携わっていくことが正解かはまだ見えていないのですが、AICでの学びとこれまでの経験を活かしながら見つけていきたい」

秋田県大館市の農政課ではたらく大西さん

この取材を通じて感じられたのは、「農業を改めて基礎から学び直すことの意義」でした。

「農業の基礎を学びたい」という声

危機感のある現役の農家さんや、地域の活動へ携わる方々が、これまでの経験則や慣習に加え、学びたいと思っているのが、農業の基礎だったのです。

たとえば、インターネットですこし検索するだけでも、稼いだり儲けることに特化した農業セミナーを見つけることができます。もちろんそれは、大切なことです。しかし、AICにおいては、稼ぐことを手前に置いたアプローチではなく、基礎から総合的に学ぶことを大切にしています。

代々、受け継がれた目の前の常識をただ受け入れるのではなく、自分の頭で考え抜く人のために、AICの講座が作られています。そして、オンライン受講課程が生まれ、居住したり従事する場所を問わず、AICでの学ぶ機会は、ひろく開かれることになりました。

オンライン受講課程で本当に農業を学ぶことができるのか?プログラム内容はどんなものなのか?そして、ふたりが、これから農業とどんなふうに携わっていきたいのかを聞きました。


■楽しい農業を未来につなぐために。
 消防士から農業へ転身した丸山さん

――20歳から消防士として救急や救助、火災現場での対応など、さまざまなことを経験してきたという丸山さん。幼い頃からの夢でもあった消防士の道を離れ、農業の道を歩くことになったきっかけをたずねると「自分にしかできない仕事だと思ったから」と教えてくれました。

丸山さん「就農する2年ほど前に父が体調を崩したことがきっかけで、実家の田んぼの今後について考えるようになりました。

消防士を続けながら農業をすることもできたかもしれないですが、家族との時間が取れなくなるだろうし、消防士も農業もどっちも中途半端になってしまうのではないかと考え、消防士を辞めて就農することを選びました。

小さい頃からの夢である消防士を辞めたくはなかったし、職場の方々にも引き止められましたが、消防の仕事は自分の代わりがいますから。丸山家の農業は私にしかできないと思ったことが農業の道を選んだ大きな理由です」

消防士を退職される前、ご家族と

――子供の頃から農繁期になると手伝いをしていたので、作業の流れはわかっていたと語る丸山さん。ただ、お父さまのやり方より、もっと良い経営や栽培方法があると思い、就農すると同時に経営移譲をし、これまでのやり方ではなく自分なりの新しいやり方で取り組んでいきたい、という気持ちになったといいます。

丸山さん「実際に農業に関わると、作業の流れはわかっても、根拠や理由がわからないことが多くて。こういうものだから、ずっとやってるからで済んでいることが多いなと感じたんです。

周りの人に聞けばなんとなく理解はできますが、毎年条件も違うし、新しいやり方もどんどん生まれている。深刻な担い手不足という状況もあるので、今後若い世代を育成する意味でも基礎が必要だと感じるようになったんです。

農作業以外でも経営や数字の面での難しさも感じていたので、農業経営についても基礎から学びたいと思っていたところ、マイファームさんが主催するセミナーに参加する機会があり、そこで『アグリイノベーション大学校』を知りました。

自分のやりたい農業の技術、経営の技術を基礎から学べるのではないかとすぐに思い、受講を決めました」

阿賀野市にある丸山農園から歩いてすぐの、「瓢湖」のようす

――現在は「丸山農園」として田んぼと畑で働くかたわら、オンラインで月2回の授業を受講。田んぼや畑の仕事のなかで自然と向き合い、常にさまざまな問題が山積する農業の合間に、どのように、勉強の時間を捻出しているのでしょうか。

丸山さん「どうしても授業の時間とあわず、アーカイブ視聴が多くなってしまっているのが悩みではあります。

課題もなかなか難しくて、オンラインで質問期間を設けてくださっているものの、後回しにしてしまうこともあります。それでも、アーカイブは何度も視聴できますし、少しずつ視聴することもできます。

授業の内容はどれも面白くて、自分のやりたいことに通じているものばかり。時間を作る難しさはありますが、学んでいてとても楽しいです。聞けば聞くほど新しい学びがあるので、実際の農業にもどんどん取り入れていきたい。

今はインプットしきれていない部分もあるので、ちゃんと復習して、しっかりインプットしなくてはと思っています。本当にいつも次の講義が楽しみで。どんな話が聞けるのだろうといつもワクワクしています」

苗管理をしている育苗ハウス。「苗管理には一番、気を使う」とのこと

――現場仕事が中心の農業においては「実際に手を動かしてなんぼ」と思われる方も多いかもしれませんが、AICではオンラインだからこそのプログラムを提供しています。

たとえば、ゲストスピーカーを呼んでの授業。実際に農業に携わっている方、農業の第一線を走る専門家が、自身の経験、知識や技術をお話ししてくれるというもので、実践で学ぶのとはまた違う新しい視点を提供してくれると好評を博しています。

丸山さん「茨城県で有機農業をしている久松農園さんのこれからの農業の話は刺激になりました。いろんな人の考えや知らない世界の話を聞くことで、自分のやりたいことが見えてくる気がします。

そういうコミュニケーションが取れることはありがたいですね。すべてを吸収することはできないですが、講義のたびに1つ、2つ吸収できるものがあればいいのかなと思いながら取り組んでいます」

丸山農園の「特別栽培米」として、従来コシヒカリ、新之助が「道の駅あがの」で販売されている

――現場で農業の大変さを体感しながらも、学び直しを通してますます農業の面白さに魅了されているという丸山さん。基礎から学び、新しい視野が広がったことで、自身の田んぼや畑のこれから、そして農業のこれからについての展望も抱きはじめているよう。

丸山さん「僕は楽しい農業をしたいんです。もともとコミュニケーションがあまり得意な方ではないのですが、一度しかない人生で悔いを残さないためにも、積極的に人に関わっていこうと決めたらたくさんの方々と交流が生まれ、農業にかかわらず多くの人と知り合いになりました。

農業って、実はさまざまな業種の方々と交流が生まれる楽しい仕事でもあるんですよね。

もちろん大変な仕事でもあるんですが、いろんな人と関われるし、自分のやりたいことにも挑戦できる。そういう農業の楽しい部分も教えられる立場になりたいと思っています。誰かに教えるうえではやっぱり基礎が大事。しっかり学び、より根拠を持って農業に取り組んでいきたいですね。

田植えの時期に「箱洗い」を手伝う、丸山さんのお子さんたち

また、高齢化で離農者が増えてきており、農地を貸したいという方にお話をいただくことも。

私も耕作放棄地にはしたくないという想いが強いので引き受けてはいますが、一人では限界があります。ですから、今後は雇用などを考え、沢山の方と交流をして農業から地域を活性化していきたいです。

コミュニティの場を作ったり、地域活性化プロジェクトをしたり、体験農園などもやっていきたいですね。そして、多くの子供たちが農業をやりたいと将来、思ってもらえるきっかけを作っていきたいです。」


■これまでの経験と農業を掛け合わせて秋田を盛り上げたい。
 地域おこし協力隊で大館市へ移住した大西さん

――もうお一人の大西さんはアフリカで育ち、アメリカの大学と大学院を出たのち、ニューヨークと東京で金融や会計の仕事に従事…と、グローバルな経歴の持ち主。

2023年から地域おこし協力隊として秋田県大館市に移住し、現在は大館市の農政課に勤務しています。移住のきっかけは秋田旅行だったと語ります。

大館市は、秋田県北部に位置している。市の北境で青森県と接しています

大西さん「2020年に旅行で秋田を訪れ、滞在先のご近所さんだった農家さんが畑で採れたての野菜や果物、おかずなんかを差し入れしてくれて。人のあたたかさと面白さ、そして山々の雄大な自然に魅了されてしまいました。

秋田に興味は持ちつつも、すぐに移住を決めたわけではなくて。コロナ禍で移住や地方創生がテレビでよく取り上げられるようになり、秋田への思いが再燃したところ大館市の農政課で募集を見つけて勢いよく応募しました。

年齢を考えると農業の分野で、採用されると思っていなかったので、決まった時はうれしかったですね」

――大館市農政課の地域おこし協力隊の制度は自由度が高く、好きな農業のお手伝いなどから協力隊の活動がスタートしました。最近は今後の自分の将来を見据えながら農家の手伝い以外にも取り組んでいるといいます。

課題を見つけ、何をどうやるか考え、取り組むのも自分次第というのが、地域おこし協力隊という仕組み。正解のない中で、迷うこともあったのだそう。

大西さん「地域おこし協力隊の活動内容には正解がないため、何をやるか迷った時期もありました。農家さんの手伝いをするだけでいいのだろうか?と。

もともと地域おこし協力隊の面接では、秋田の名産を全国に広めたいという思いをプレゼンしたのですが、思ったようにはできないことも多くて。

たとえば、畑のキャビアと呼ばれる『とんぶり』の販路を広げたいと思ったのですが、生産が追いついていないということがわかりました。

思ったようにはできないという現実を、身をもって感じながらも、その中でできること、そしてこの先の将来につながることは何かを考えながら取り組んでいます。

今は自分の強みや経験を活かしてSNSの発信や、JR大館駅の産直ショップの経理周り、在庫管理などの業務を行なっています。他にも、地元企業と土産用の商品のパッケージ制作や、耕作放棄地でハーブやお花、ジャガイモ等を植えながら農業の実習を始めました」

大西さんが業務として携わる、JR大館駅産直ショップの様子

――これまでの経歴を活かし、マーケティングの視点をもって地域に関わっている大西さんですが、農業とも地方とも直接関わりのない仕事からの転身。異なる領域から地方、そして農業の世界に飛び込んだことで見えてきたものも多いようで…。

大西さん「実際にお手伝いしてみると、大館市には『慣行栽培(多くの生産者が行っている農法)』をしている高齢の農家さんが多いことがわかりました。農家さんにお手伝いに行っても、詳しい説明があるわけではないので、基礎的なことから農業を学びたいと思いました。

秋田県の農業試験場で農業経営講座を受講することも考えたのですが、大学、大学院で学んできた経営よりも農業そのものを学びたいと探していたところ、『アグリイノベーション大学校』を知り、プログラム内容やサポート体制がしっかりしていたので申込みました。」

耕作放棄地の開拓に、地域おこし協力隊として関わっている

――地域おこし協力隊として市のお仕事、街のイベントにも関わりながら、オンラインで受講する日々。月2回の授業とはいえ、課題が毎回あり、予習復習の時間も確保するとなると大変なことも少なくはないご様子。

大西さん「平日は地域おこし協力隊の業務があるので、土日を中心に勉強時間を捻出して取り組んでいます。講義が本当に面白いので、時間をつくる難しさはありながらも毎回楽しみにしながら受講しています。

本当は農場実習も参加したいのですが、地方からだとなかなか参加できないのが残念ではあります。

機会があれば参加したいと同時に、大館市で農場実習や視察などができないかとも考えています。秋田や東北の人が実習に参加できるだけでなく、この土地を知ってもらうきっかけにもなりますから」

耕作放棄地で、じゃがいもやさつまいも、花、ハーブ等を栽培している

――新しい土地でこれまで経験したことのない仕事として農業に関わり、学ぶ大西さん。移住生活1年を経て、そしてAICで学ぶなかで、どんな”これから”を考えているのか聞いてみました。

大西さん「移住してみて、本当にいろんな深刻な問題があるな、ということを日々感じています。大館市に限らず全国的に高齢化や人口減少の問題が深刻化しています。10年後に農業がどうなっているか…と不安にもなります。

秋田県は自然資源に恵まれているので、それを生かした農業や取り組みをしていきたい。とはいえ、小規模でやっても収入や設備投資を考えると難しい…と葛藤はいろいろあります。

今は具体的にどういうかたちで農業に携わっていくことが正解かはまだ見えていないのですが、AICでの学びとこれまでの経験を活かしながら見つけていきたいと考えています。

個人的にはラズベリーや『大館とんぶり』に注目しています。秋田県はラズベリーの収穫量が全国1位なんです。日本で流通しているもののほとんどが輸入に頼っている現状で、あまり知られていません。

私はそこに潜在的なマーケットがあるように感じています。個人的に、秋田産ラズベリーがすごく好きなので、農家さんのお手伝いをしながら販路拡大の方法も考えているところです。

また『大館とんぶり』もより多くの人に食べてもらいたいと思い、こちらも販路拡大に取り組みたいと思っています。」




農業の未来につながるステップとして

農業にすでに従事している丸山さん、農業を学びはじめたばかりの大西さん。それぞれの視点から農業を基礎から総合的に学ぶことの重要性と、学びによる発展を垣間見ることができました。

農業に携わるさまざまな方が集まり、共に学ぶことでこれからの農業を考えるきっかけ、課題解決のヒント、そして農業人生の起点になれるよう私たちも多様なコンテンツを得られるAIC。

農業の未来につながるステップがここにはありそうです。

もっと知りたい方へ

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