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AIC生ブログ│窓際菜園でおとな食育

マイファームは、「アグリイノベーション大学校(AIC)」という社会人向けの農業スクールを運営しています。
仕事を続けながら週末で農業を学びたい方へ向けて、農業の技術や経営に関しての知識・理解を深める、学びのプログラムを提供している学校です。

今回は、現役でそのAICに通っている、のなさんから寄稿いただいた記事をご紹介させていただきます。エンジニアから農業を志した1人の女性の行動力をご覧ください。

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窓際菜園でおとな食育

5月。私はマンションの一室の出窓で野菜を育て始め、それによって得られたことが想像以上にたくさんありました。
中でも、ただの栄養源としてしか認識していなかった野菜に対して敬意が芽生え、日々の食生活に変化が生まれたことは大きな収穫でした。

窓際菜園はおとな向けの食育ツールとして最高だと思います。忙しい、庭や畑が近くにない、植物の成長に興味がなく「買った方が楽だし安いでしょ?」と考える、私みたいな方にこそオススメです。

テーブル横の出窓で、菜園生活はじめました

コロナ禍で巣籠り生活をする中、どうやら他の多くの方もそうなっているように、私もエンターテインメントに飢え「食」が最大の楽しみになっています。
話題になっているものはとりあえず経験してみたい性格の私は、食品廃棄レスキュー、農家直送野菜宅配、テイクアウト、ベランダ菜園、Zoom料理教室…などなど、流行りものには一通り乗ってみました。
その中で最も良かったと感じているのが室内での野菜栽培です。

最低限必要なものは種、容器、土、水
それらが一式になった栽培キットが数百円~の価格で売られているので、キットを購入すれば手軽に始められます。
私は種やさんの通販サイト(タキイ種苗 https://shop.takii.co.jp/ )で種を購入し、容器は手近にある廃材などを活用して始めました。

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写真は私が育てているラディッシュです。

油揚げが入っていたトレイの上に紙の卵パックを乗せて、土と種を入れ、水をやっています。
油揚げのトレイは5mmくらい上げ底になっていて卵パックとの間に隙間ができるので、水はけをキープできて良いです。

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こちらは八百屋さんで売っていた100円のシソの苗を、クッキーが入っていた布製のバッグに移し替え、土を足しました。バッグの下には、もともと油揚げが乗っていたトレイを敷いています。
ちなみにシソは直射日光が苦手で日陰を好むので、私の部屋のように日が当たりにくい場所でも育てられます。

このような最低限の設備でも、今のところ順調にスクスク育っています。
私の周りには自称「サボテンですら枯らす人」が何人もいるので、自分もそうなのではと最初は心配していました。
ですが、食卓の横にある出窓で育てていれば、家族と食事をしながら毎日3回眺めることになり自然と成長具合の話題になるので、ずぼらな私でもお世話が疎かになることがありません。

卵パックの中の畑に、この世の真理を見る

最初は、コロナ禍が終わった後に貸し農園で菜園をするための予習として、まず手軽に栽培体験をしておこうという程度の軽い気持ちで始めました。
ですが実際に育ててみると、毎日の成長を見守りながら小さな変化に一喜一憂し、農家さんへの尊敬の念や、自然への畏怖まで感じるようになってきています。

例えばこんな感じです。

最初に種を蒔いて水をやり数日待つのですが、全部が芽を出す訳ではありません。まったく同じように世話をしていても、すぐに芽を出して双葉が開くものもあれば、芽を出さずに腐ってしまうものや芽を出しても途中で力尽きてしまうものもあります。

その様子を見ていると、生まれる前から持っている力の個体差という現実を突きつけられます。そんなの不平等だ!と訴えても、生えないものは生えません。

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これは、同時に撒いたラディッシュの3日後の写真です。
同じ種に同じ量の水をやっているのに卵パックの種類によって発芽率と生育状況が異なっています。
これは種ではなく育成者である私が提供した環境に問題があります。
この様子を見ながら私は自分の仕事と重ねます。
チームメンバーが能力を発揮できるかはマネージャーが作る環境次第なんだと考えさせられました。

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レタスを狭いスペースで育てていると、生長するにつれ隣の子とぶつかるようになります。通常は間引きをするのですが、初めて育てた我が子を成長が遅いからといって抜いてしまうことは私にはできませんでした。
なので小さい子はそのままの場所に残し、環境変化にも負けないであろう強くて大きい子を、大きな鉢に植え替えました。

すると初めは水を上手に吸えず少ししおれ気味だったのですが、数日後にはまたすくすくと伸びはじめました。
生長に合わせて今いる場所を飛び出して大きなステージに踏み出す、最初は戸惑うことはあってもやがてその場所で根を拡げるようになる、その様子は子供の成長過程のを見ているようです。

野球ファンが野球に、登山家が登山に仕事や人生を重ねることにこれまで共感できずにいた自分が、まさかこんな風に卵パック農園に人生を重ねることになるとは想像していませんでした。

栽培って神秘だ、農家さんは命を育ててるんだ

種を蒔いて水をやると、まず種がふやけて、そこから根がピョロっと出て、その後に芽が出てきます。
春は天候が不安定なので、寒い日は窓際からキッチンに避難させ、暑い日は多めに水をやり、曇りが続いたら卓上の電気スタンドで日光に見立てた光を当て…と甲斐甲斐しく世話をしたくなります。

そんなことをしている時、ふと気付いたんです。

野菜売場でよく見かける言葉
「丹精込めて作っています」
「まごころ込めて育てました」

これのことか!
出荷する野菜は自分の子供のようなものっていうのは、こういうことか!

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知っていましたか?
トウモロコシの種っていつも食べてるあの実の部分で、あの1粒1粒が種なんです。よく食べているのに、あの粒から根と芽が出てくることを、私は知らずにいました。
トウモロコシは光が好きで、日当たりのよくない場所で育てていると太陽の方に傾いて伸びていきます。その様子をみていると、トウモロコシを食べると元気になるのは太陽の力を存分に浴びて育ってきたからなんだな、なんて思ったりします。

レタスは最初に丸い双葉が生えます。その後生えてくるあのレタス特有のヒラヒラした葉っぱは、無造作にではなく順番に1枚ずつ規則性をもって生えてきます。それを見ていると、1枚1枚を大切に食べようという気持ちになります。

「大地の恵みに感謝する」
「自然の偉大さを前に謙虚な気持ちになる」
というのは、ベテラン農家さんだけが知る崇高な概念だと思っていたのですが、出窓で育てただけでも色々なことを考え、心が豊かになるという感覚を知ることができます。

気の持ちようが変わるだけで、実際の味は変わらないのでしょう。それでも、今まで買っていたスーパーの野菜も、これまでよりなんだかおいしく感じるようになりました。
それに、買ってきた野菜はできるだけ新鮮なうちに調理したり、素材の味を生かした味付けにするようにもなりました。季節が少し変わると旬が少しずれて味が変わることにも気付くようになりました。

食生活が豊かになるとは、豪華だったり貴重だったりするものを食すという意味だけではなく、こういう感性を持てるようになることも指すと感じます。
「食育」は子供向けの言葉として用いられますが、食がおろそかになりがちなビジネスパーソンにも有意義な概念なのではと思います。

コロナ禍で巣籠りの毎日に卵パックの中の小さな宇宙にこの世の摂理や人生を見る、そして植物の成長や農家さんの仕事に思いを馳せて野菜を頂く、そんな日々への一歩として窓際菜園デビューはいかがでしょうか?


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寄稿者:のなさん

IT業界一筋15年/でも農業に惹かれてます/1982年兵庫生まれ→韓国→香港→愛知→静岡→東京/調理するより食べるのが好き/引きこもり傾向ありのインドア派

➡Twitterはこちら
https://twitter.com/nonna2EG





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