八月短歌
おごそかに線香花火分け合ってささやかな死を繰り返す夏
お国から貢がれる身になればこそお国のためには死なぬと思う
「散りぬべき時知りてこそ」つぶやきて
開かなかった花火として生く
偶然に浴衣で歯医者へ行く日なり
きちがいなれどこういうのじゃない
美しさ 黒髪ぱっつん長髪のお化けでありたい その 美しさ
人形のソバージュ切ればたくさんの
光ふるふる祝福のごと
布噛んで心中道行しずしずと涙を拭かぬ傲慢こそ美
ぴらぴらの簪買ってとねだれども
どこにもなくて国を呪えり
鮮血を吐くに似ていて半衿の赤さ可愛や可愛や小春
「涙が止まらない」と繰り返す人
泣けない悲しみ飼い慣らす口
ビニールに透けた生肉床に置き
爆破さるよな優先座席
夏なんて季節の呼び名と思いつつ
松葉のサイダー飲めよ少年
少年よサイダー飲む咽喉はだけるな
いつか言うべき「さらば」のために
からみ生地風をはらんではためいて
外側のみは清廉でいる
ねえすごく恥ずかしいこと言っていい?
松竹梅ってどれが上なの?
「戀」という漢字が「恋」になったとき
さぞ沢山の星が消えたろう
くだされる手のかたちすら愛おしく
痛く痛く触っておくれ
注染の色に出にけり我が恋を
ほっといてくれる君、君だけが
絶え絶えに病院の坂のぼりつつ
ひとり孤独とたたかうふたり
「こんなのって死んでいるのと同じだわ」
ざらめの溶けたカステラ食べて
初句:そういえば
「そういえば蝸牛踏むと良い音よ」油まみれのエスカルゴ食べ
そういえばノーパンだったブルジョアのふりする化粧カウンターにて
初句:きっとまた
きっとまた恋をするからふたり眼をえぐりあおうね 甘いスプーン
初句:この夏は
この夏は麻酔のように雨の降る
撃ち撃たれても咲け夾竹桃
(8月6日に)
【以下コードギアス反逆のルルーシュ劇場版を観て】
性愛よりはるかにはかなく甘苦く
重きものにて君に抱かれ
あまりにも少年らしき悲しみを
置いてけぼりに廻る世界よ
口をつく「生きろ」の一語しなやかな
君を縛せる唯一の命令
君とだけわかりあえないことだけが
許せず声を張り上げていた
躊躇なく目を見開きて我が罪の重さをなじる
君よ気高し
君以外誰にも裁きはなせなくて
ふたり重なり倒れる墓標
まっすぐに合わせた目より涌きいづる罪こんこんと 君よ僕を撃て
籠絡に長けた指先 盤上の駒から撃たれる覚悟を持ちて
愛すから 孤独の君の玉座には何も残っていなかったとて
憎むから 孤独の君の玉座から滑り落ちても君を抱きとめ
ルルーシュと名乗る心の幼さを
殺してそして無は無に帰る
幼さと訣別しようとすることが
幼さであると気づかないまま
知るからこそ 愛し愛されることを
自らを仇として持つふたり
少年の日は不可逆に暮れてゆく
背負いきれない罪に張り裂け
新しい明日のために塗るネイル
悪逆王子の悲しき血の色