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「嫌われる勇気」よりも必要な「勇気」

「嫌われる勇気」という本で取り上げられた事でアドラー心理学が話題になった。今も前ほどのブームはないが、その人気と需要は非常に高い。
アドラー心理学の提唱者であるアルフレッド・アドラー氏は、凄腕の殺し屋だ。トラウマのせいにして進むことが出来ずにいた人々をアドラー心理学という武器を用いて「抹殺」していった。私もその一人。

私がアドラー心理学を知ったのは、「嫌われる勇気」ではなくて、私が好きで読んでいたゆうきゆう先生原作の漫画「マンガでわかる心療内科」シリーズでアドラー心理学をテーマに取り上げていた事がきっかけだった(画像は漫画の一コマ)
漫画を読み始めるといきなり「トラウマなんて存在しない!」と出てきた。それは「トラウマなど色々な理由のせいにして行動しないのはやめよう。目的を達成するためにどうすればいいのかを考えよう」と言う事だったのだが、トラウマを否定された事に対して私は最初憤っていた。
私にはたくさんのトラウマがあった。過去それに苦しんで悩んでイライラしたり、悲しくなったりして荒む日々を送っていた。
特にひどかったのは勤めていた会社をリストラされてから新しい仕事が決まるまでの間だ。面接で落ち続けて仕事が決まらず、「自分はなんて不幸な人間なんだろう」と過去のトラウマに引きずられて暗くなっていた。
ところが、新しい仕事を見つけて働き始めてしばらくすると過去のトラウマの事は一切考えなくなっていた。過去の事よりも自分が今いる世界でどうやってやっていくかを考えなければいけなかったからだ。そして、私は仕事が決まらないのを過去のトラウマのせいにして現実逃避していただけにすぎなかったと気づいた。
そう思ったら過去のトラウマの痛みはだいぶ小さくなった。心の傷があるから何かをしないというのはもうやめようと受け入れたのだ。
アドラー心理学を学んで考えを改めた事で、私の印象がだいぶ変わったと友人や当時付き合っていた恋人からも言われた。アドラー心理学を学んでよかったと思った。

しかし、アドラー心理学をある程度知った今も私は「嫌われる勇気」をまだ読んでいない。なので、アドラー心理学の神髄を味わうなら「嫌われる勇気」を読むべきだと周りの人たちからは言われた。アドラー心理学に関する本の中で一番売れているベストセラー本。読んで人生が変わったと述べる人も多いからそう言われるのは仕方ないのだと思う。
確かに私にはアドラー心理学で学んだはずなのに、クリア出来ていなかったテーマが一つある。
それは「課題の分離」だ。
アドラー心理学で「自分の課題と他人の課題は別物。その人の人生はその人が生きていくべき物である。他人の人生を必要以上に抱え込んではいけない」と書いてあった。
私はこれがどうにも苦手な事だった。特に推し芸人が絡むと本当に厄介だった。

ある日の事だった。私の推し芸人の一人がTwitterでこんな事を呟いた。

「何人かの芸人と仮コンビを組んで、調子の良い感じだった人を誘ってM-1エントリーしようとしたけど、断られました。また新しい人を探します」

その前にはその彼がYouTuberになろうとして人を誘ったら断られて計画が白紙になったり、付き合っていた彼女に振られて家を追い出されていたのを知っていた。このツイートを見た私はさぁっと青ざめて心配になった。

推しの芸人の名前は佐々木翔大さんと言った。2014年から2017年まで「エマ」ってコンビを組んでいた。その時の芸名は「すし佐々木」。ファンにはもちろん芸人仲間からも愛される存在だった。

ボケ役だった佐々木さんは自由にボケて、はちゃめちゃなところがあってリアクションが常にオーバー。緊張しいでとんでもない事を言い出して相方を含めて周りからつっこまれてしまうところもあった。
セリフを覚えるのが苦手らしくあまり見る機会はなかったが実は演技力が高いところや、相方がかなり危ない発言した時にうまくフォロー出来る大人な部分がある(まぁ私より年上とアラフォー芸人なんだけど)ところも好きだった。

普段からいつも明るく元気で、秋田育ちの純朴で素直で心優しい人だった。
彼と仲の良い芸人の中に所謂「尖り芸人」と呼ばれ、しょっちゅうアンチと喧嘩したり面白くない芸人を簡単に切り捨てるような人がいた。そんな彼は佐々木さんの芸人としての才能を認め、かつ友人として懐いていた。ピン芸人になった佐々木さんを持ち上げようと奔走していた。そんな風に人を駆り立ててしまう程魅力があり、同時に周りを心配させるような人だった。

……佐々木さんがコンビを解散した2017年の秋から、私は彼の事をずっと心配している。エマの事は結成当初からずっと応援していた。
私の存在は認知されていて、解散した時には「最初から応援してくれたのに、こんな結果になってごめんなさい。でも今まで応援してくれて本当にありがとうございます」という言葉をくれた。
どうして彼はこんなに不幸な目にばかり合うんだろう。彼はとても優しくて芸人としても面白い人なのに! と本気で怒り、悲しくなった。

だけど私が出来ることは佐々木さんの行末を見守る事だけ。彼が抱えている課題は自分でどうやって解決するかを考えて、自分で乗り換えるべき課題なのだ。
私には佐々木さん以外にも沢山推しの芸人がいる。推しは私が生きていくのに無くてはならない存在だ。私は彼らのおかげで幸せに生きられている。だから彼らが不幸でいるのを見ていられない。助けてあげたい。幸せにしてあげたいと願ってしまうのだ。
彼らと私は生きる世界が違うとわかっていても。

そんな佐々木さんは最近、新しいコンビ「おりはべり」を組んだ。
元々吉本の所属だったが新しい相方がTAP(元オフィス北野)の芸人だったのでそのまま移籍している。
今度のコンビはコントがメインで、佐々木さんはツッコミだった。配信で観たネタではストレートかつボケに振り回されてヒヤヒヤオロオロとするツッコミが新鮮だった。単独ライブも控えているらしい。久々に生でライブを見たいけど、もしかしたら配信かもしれないなと思っている。
もちろん私はおりはべりもこれから見守っていくつもりでいる。

アドラー心理学との出会いがきっかけで私は自分が幸せになる為に自分の道を歩いている。これからはそれに加えて周りの人間幸せを願って、静かに見守るという新たな実践に取り組まなければならない。
今の私に「嫌われる勇気」は必要ない。
私が今必要なのは「大切な人を突き放し、見守って行く勇気」なのだ。


とは言えいつか「嫌われる勇気」という本を手に取る時が来るかもしれない。
その日が来るまでは「嫌われる勇気」を押し付けて干渉してくるのを待ってくれないだろうか。

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