友愛と言うおもてなしで人々を喜ばせた推しと、失敗した私
「あなたとは感覚が合わないので、絶交します」
平成最後の日の朝、私のTwitterのダイレクトメールに届いた絶交宣言。送り主は私が好きな芸人のファン仲間だったAさんだった。
同じお笑い芸人が好きだからと言う事をきっかけに、私たちはTwitterで出会った。私は当時31歳の社会人。Aさんは当時22歳の女子大生。年齢差はあっても、仲良くやっていると私は思っていた。
しかし向こうにすれば私は自分とあまりにも合わない感覚や考え方を押し付けてくる面倒な存在だった。もう我慢できなくなったので私と絶交する事にしたとメッセージには書いてあった。
絶交された私は怒り、悲しみ、ふさぎ込んだ。Aさんに絶交されてから1年以上経っても、完全に立ち直る事はなかった。
そんな中で私はリンダカラーというお笑い芸人のファンになった。
リンダカラーはワタナベエンターテインメントという事務所に所属しているお笑い芸人だ。眼鏡をかけているボケ役のデンさんと、漫才衣装がスーツのツッコミ役のたいこーさんの2人で結成している。芸歴は3年目と超若手で、知名度はあまり高くない。
※左がデンさん、右がたいこーさん
初めて観た彼らのネタはYouTubeに上がっていた「幽霊」というネタだった。デンさんが繰り出す突飛な世界に対してたいこーさんがハイテンションにツッコミを入れていき、時にそのまま巻き込まれていくという構図に衝撃を受け、そして笑いが止まらなかった。お互いのボケとツッコミについ笑い、楽しそうにネタをしている姿がとても魅力的に思えた。
幽霊のネタを観終わった後、他のリンダカラーのネタも観た。リンダカラー唯一のレギュラー番組である「ウケメン」も観た。荒んでいた心に彼らの笑いが染み入り、すっかり私は彼らの虜になった。
私が一番リンダカラーに魅力を感じたのはネタを観た時にも感じた、彼らの仲の良さだ。たいこーさんは「俺らは相方じゃなくて友達なんでね」とインスタライブで言っていたが、本当に彼らは仲良しだ。
2人は小学校からの幼馴染同士で、17年もつるんでいる仲だ。高校以降進路が別々になっても、一緒に京都や沖縄に旅行へ行くなど一緒にいる事が多かった。コンビを組んでからも地元の友達を交えながら一緒にご飯を食べに行く。たいこーさんのインスタライブをデンさんが視聴して、時にはファンに混ざってコメントをする。それにたいこーさんが反応して笑っている。デンさんから「Instagramに載せる写真がないからお前の自撮り送って」と頼まれて、たいこーさんが渋々送ってあげて、デンさんは笑いながら自身のInstagramに載せている。お互いのSNSへの登場頻度も高い。
Aさんから絶交されたときの事をまだ引っ張っていた私には彼らが眩しくて、羨ましかった。私はただAさんと仲良くしたかっただけだったのに、どうしてこうなったんだろうって悲しくなってしまった。
だけど私はリンダカラーの2人を見ていて気付いた。私とAさんがこのまま仲良くしようとし続けていたところで誰も幸せになれなかった事に。
私が彼らの仲の良さに魅力を感じたように、リンダカラーのファンの多くは2人の仲の良さを微笑ましいと思い、また幸せな気持ちで見ている。彼らのコンビ仲のよさはネタにもレギュラー番組での活躍にも活きている。
この時私は「友愛とはおもてなしだ」と気付いた。それと同時に私はAさんに対して彼女が満足できるサービスを供する事が出来ていなかった事、私の周りの人間を誰も幸せにできていなかった事にも。
本当は私も気づいていた。同じ推しを応援しているというだけでは私とAさんの心の差は埋められないと言う事に。
だから私はAさんと関係がうまく築けない事を友人や家族に相談していた。ほとんど皆が「年齢や考え方がそれだけ離れていたら親密に付き合っていくのは無理だ」と言っていた。元々相手の立場や空気を読むのが苦手な私を見越して「あまり自分の考えをAさんに押し付けたらいけないよ」とも忠告されていた。
でもAさんと仲良くしたい気持ちが強かった私は忠告を無視して、結果Aさんに絶交された。友人からは「だから気をつけなさいって言ったんだよ」と叱られた。でも「それで怒るような子はアイナちゃんと合わないって事なんだよ。もう切っちゃって良かったよ」とも言った。母親からは「もう彼女を解放してあげなさい」と諭された。あれはAさんを解放してあげる事で私が悩みから解放されるから、という事だと気づいた。私の周りの人たちはずっと心配しながら見守ってくれていたのだ。
たくさんの人を心配させて、私もAさんもお互いに不満を募らせている。私がAさんに執着する事はもう誰の為にもならなかった。そして私はやっとAさんを切った。
今、私には新しい仲間がいる。Twitterでリンダカラー以外にも色々な好きな芸人の話をしたりする。いつかコロナ自粛が明けたら一緒にリンダカラーをライブで観て、ご飯を食べながら感想や彼らの魅力を語り合えたらなと思う。
リンダカラーの2人のように周りから見て幸せそう、楽しそうだと思う友愛を築けるかどうかはわからない。だけどせめて相手が心地よいと思えるおもてなしをしてあげたいとは思う。私は彼らの姿を見る度に、人との向き合い方を考えるのだ。
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