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造船業の思考習慣を変えていこう「野球の自責点と投球回数」

私はプロ野球観戦が趣味で、ビジネスの現象を野球に喩えることが好きなので今回もそういう話です。野球にご興味のない方々にはピンとこないかもしれませんが、おつきあいください。

「1対1の同点で迎えた9回裏、ここまで先発ピッチャー北別府はたいしたピンチもなくソロホームラン1本に抑えてきましたが、だいぶ疲れが見えてきました」
「ついにこの回、相手打線につかまり、1アウト1塁2塁のピンチです」

「マウンドにピッチングコーチが向かいます。内野手も集まりました」
「おーっと、ここで監督が出てきました。ピッチャー交代です」

(場内アナウンス)ピッチャー 北別府に代わりまして 江夏 背番号26

ここから典型的な2つのシナリオを示します。


シナリオ1:サヨナラ負け
「さあ、試合再開です。外野はバックホームに備えて前進守備。内野はゲッツー体制」
「ピッチャー江夏 セットポジションから第1球を投げたっ」
「いい当たり!左中間真っ二つ!」
「2塁ランナー悠々と3塁を回ってホームイン サヨナラだー 9回裏 2対1 サヨナラ勝ちです」
「江夏 マウンド上でガックリ 動けません」


シナリオ2:延長戦突入
「さあ、試合再開です。外野はバックホームに備えて前進守備。内野はゲッツー体制」
「ピッチャー江夏 セットポジションから第1球を投げたっ」
「ああー ショート真正面」
「6-4-3のダブルプレイ!見事にピンチ脱出!延長戦突入です」
「江夏 ガッツポーズ!」
「北別府もベンチで喜んでいます」


さてシナリオ1において、サヨナラ負けの2点目を取られたのは誰のせいでしょうか。

ビジネスの世界では「考えるまでもない。サヨナラヒットを打たれた江夏のせいだ」となるのが自然の成り行きです。少なくとも私は我が造船業の実務でそういう場面を何度も目撃してきました。

しかし野球のルールでは「自責点」即ち「誰のせいで点を取られたか」は、サヨナラヒットを打たれた江夏さんではなく、サヨナラホームインした2塁ランナーを出した北別府さんのせいと決められています。従って負け投手として記録されるのも江夏さんではなく北別府さんです。
これは、2塁ランナーがいなければ、江夏さんがヒットを打たれても点は入らなかったという考え方です。ビジネスの世界でありがちな「江夏のせい」を「結果主義」と言うとすれば、野球ルールの自責点で決められた「北別府のせい」はいわば「原因主義」と言えます。

悪かったことは結果を責めても次の改善に繋がらない、やるべきはその結果を生んだ原因に注目して解消することだ、というのは品質管理等の教科書に書かれています。しかしビジネスや日常生活では頭でわかっていても行動が伴わず、どうしても結果を責めがちです。そんな中で、日常生活に溶け込んでいる(少なくとも私にとって)野球では、品質管理の教科書の教えと同じ「原因主義」が自責点というルールに埋め込まれていることに驚きます。

ではシナリオ2において、2アウト目を取ったのは誰のおかげでしょうか。
先ほどの自責点の考えに倣うならば、2塁フォースアウトで2アウト目となった1塁ランナーを出した北別府さんのおかげとなるのでしょうか。

野球のルールはそうなっていません。「投球回数」即ち「どのピッチャーが幾つアウトを取ったか」は、打者の3アウト目はもちろんのこと、北別府さんが出した1塁ランナーで取った2アウト目もあわせて、アウト2つとも内野ゴロを打たせた江夏さんのおかげと決められています。良い結末の瞬間にマウンドに立っていたピッチャーを素直に称えようという形であり感情的には納得できますが、一方でこの「江夏のおかげ」はシナリオ1でありがちな「江夏のせい」で指摘した「結果だけ」を見ているようにも思えます。自責点は原因主義なのに投球回数は結果主義?矛盾してる?

しかし実はシナリオ2において良い結果につながったのは、悪い結果の原因になりかけていたランナー1塁2塁のうち1人を、江夏さんがアウトにしたからです。「原因に注目して解消」と捉えればこれも品質管理の教科書と同じく、立派な原因主義です。筋が通った、よくできたルールです。私は「さすが理屈の国アメリカのスポーツだ」と感じます。

野球好きの私はこのように「自責点と投球回数」を合言葉に、ビジネスや日常生活の現象に結果主義ではなく原因主義で向き合っていきたいと日々心掛けています。野球好きの同志の方々にもぜひお薦めします。

但し我々がビジネスの場面で追及すべき「原因」は、北別府さんや江夏さんという「人」ではなく、ランナーが出たという「出来事」「現象」です。そのあたりは別の機会に書きたいと思います。

注記:
本稿はビジネスの場面を野球に喩えて理解することを試みるものであり、その目的を優先して野球のルールを単純化して書いている。野球のルールを正確に説明するものではない。
日本プロ野球の往年の名選手の苗字を拝借しているが、説明をわかりやすくする目的で使っており、特定の個人を論評するものではない。

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