[銀河鉄道の夜に Lyrical Lily]
表題の曲は[d4dj]登場するユニット[Lyrical Lily]の楽曲である。曲名の通り宮沢賢治の[銀河鉄道の夜]をモチーフとした曲である。
当該ユニットの楽曲は文学作品をモチーフとしているものが多く、その中でも私は特にこの楽曲がお気に入りのため、その魅力をモチーフである[銀河鉄道の夜]の話も交えながらしていく。
[銀河鉄道の夜]あらすじ
星祭りの夜、ジョバンニ少年は丘の上に寝転び星を見上げていたら突如目の前に謎の列車が現れ、気付いたらそれに乗車していた。彼は父親が行方知れずで母親は病に伏せているため、若くして学校へ通いながら働いて家を支えていた。学校へ行ったあと働き、得た賃金でパンと角砂糖を買い、母親の元へ帰る。そんな彼を同じ学校の者はバカにする。ただ一人、カムパネルラを除いて。
ジョバンニの乗り込んだ列車にはびしょ濡れになったカムパネルラがいた。ジョバンニは彼と久しぶりに二人きりで話せることを嬉しく思い、銀河を駆ける列車の旅に出るのだった。
二人は銀河を駆ける旅の中で多くの場所へ行き、また多くの人と交流を持つ。
白鳥座の停車駅で会った、化石採掘を行う博士。列車に乗り込み、途中まで旅を共にした鳥取りの男。そして小さな男の子とその姉、そして彼らの家庭教師と思われる青年。
その誰もが自分の行き先の決まった乗車券を持っていたが、ジョバンニの乗車券だけは行き先が決まっていなかった。行き先は決まっていないが、彼の乗車券だけはどこへでも行けるチケットだった。
旅の途中、燃える蠍の火を見て姉が蠍の話をする。幾多の虫や動物の命を奪ってきた蠍が、イタチに命を狙われるも、蠍は逃げ切り井戸に落ちてしまう。そして一人、誰の糧にもならない死にかたをすることに対して後悔を抱く。こんな何者にもならない死をするのならばイタチに食べられかの命の糧となったほうがよかった、と。蠍は死の際に神へ祈り、次はまことの幸いのためにこの命を使って欲しいと願う。その願いは受け入れられ、蠍の体は赤く燃え上がり今も夜の闇を照らしている。といった話だ。
ジョバンニは旅の中で多くの人との出会い別れを経て、そして蠍の話を聞き、「本当の幸せ」とはなにかを考える。そして彼は本当の幸せを探す為、カムパネルラへ共に探しに行こうと提案する。だがサザンクロスの停車場を出て、ジョバンニがその言葉を発した時にはカムパネルラの姿はなかった。
ジョバンニが目を覚ますと元の丘の上にいた。そして星祭りに戻り、橋の上の人集りに気付く。そこで彼はカムパネルラが川に落ちた友人を飛び込んで助け、まだ川から上がってきていないことを知る。
その後、結局カムパネルラが見つかることはなかった。失意のジョバンニの元にカムパネルラの父親が現れ、ジョバンニの父が間もなく家に帰ってくるだろうと話を聞く。
そして母へその話をすべく、一目散に家へ駆けていく。
以上がこの物語の大まかなあらすじだ。
本編の曲への落とし込みと対比
そしてこの話にてよく考察されるテーマの大きな一つに「本当の幸せ」とはなにかという問いかけがある。それは作中から読み取れる要素としての回答は、他者への貢献あるいは自己犠牲というものであろう。とかく、他の人の幸せのために生きるといったことに美しさを見出されている。
その問いかけはこの曲の歌詞の中にも出ている。だが、この曲において、作中のジョバンニのようにそれがなにかという回答にたどり着いていない。それどころか、曲の終わりとなっても、列車から降りてはいない。カムパネルラとの別れは訪れないし、本当の幸いがなにかを知ることもない。
いつかくる別れと現実との直面という終わりを迎えないまま、この曲は終わる。それはまだ歌っている彼女たちの幼さ、そしてそれらの辛さをまだ知らない無垢な存在であるから描写されなかったのだと考えられる。
歌詞の中においても「君」すなわち「カムパネルラ」の話は本当の幸せについて視点を合わせていない。本編におけるジョバンニの変化・成長と異なり、本当の幸いのことよりも、もっと別の多くのことに気を取られている。この原作との相違が本当に素晴らしく思う。
ジョバンニと違い、まだ彼女たちは夢の中にいるのだ。本当の幸せだとか友人との別れといった現実を知ることなく、生きている。本当にただただ無垢な存在なのだ。この対比によって浮き彫りになる純真さといつか来るその無垢への別れの示唆こそこの曲の魅力であると私は考える。
意外と読む機会のない名作文学への導入となる
この曲は【銀河鉄道の夜】の幻想的にしてどこか寂しげな部分だけをあえて抽出したように捉えることができる。それが結果として彼女たちの無垢さを強調している。
原作を知ることでその対比を知ることができ、その違いから多くのことを考察することができる。とかく文学をモチーフとした【Lyrical Lily】の楽曲において顕著である。
また、合わせてぜひ原作も改めて読んでみてほしいと思う。非常に幻想的で独特の雰囲気は今なお色褪せない魅力がある。現在Amazonであれば無料で読むことができる。
現状配信等の気軽に見られるプラットフォームはないが、アニメ映画も原作に忠実にして魅力的な雰囲気を造り出している。
こうした古い名作にきちんと触れる機会というのは意外と多くない。だからこそ、こうした楽曲やコンテンツの発信をこれからも行っていきたい。
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