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『ストII』を超える超名作『ストリートファイター6』は、どこが凄いのか
2023年6月2日、対戦格闘ゲーム『ストリートファイター6』が、PlayStation 4/5とXbox Series X|S、そしてSteam(Windows PC)という5つのプラットフォーム向けに世界同時発売された。タイトルからもわかる通り、これは『ストリートファイター』シリーズのナンバリング6作目だ。映画にせよゲームにせよ、6作目ともなれば目新しさを失い、失速していくコンテンツも多い印象だが、『ストリートファイター』は違っていた。
1991年『ストリートファイターII』が変えたゲーム業界
1991年、日本のゲーム業界は『ストリートファイターII』という大ヒットタイトルの発売により、対戦格闘ゲームのブームが巻き起こった。前作『ストリートファイター』でも対人対戦も可能ではあったが、基本はコンピュータとの対戦がメイン。ところが『~II』では、コンピュータとの対戦に加えて、対人対戦も重視されたゲーム設計となっていた。このため、『ストII』はゲームセンターに登場した当初こそCPU(コンピュータ)戦が中心だったが、半年後には対戦が大盛りあがり。1つの基盤を2つの筐体に映し、それぞれの筐体にプレイヤー1とプレイヤー2のレバーやボタンを独立させた「対戦台」が登場した。
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このブームに便乗するかのように、日本のゲームメーカー各社は(特にゲームセンター用のアーケードゲームで)対戦格闘ゲームを制作。結果、1990年代のゲームセンターは対戦格闘ゲームが大量に稼働するような状態となった。
対戦格闘ゲームのブームも21世紀には収束
しかし、そんなブームも21世紀に入る頃には一段落ついてしまう。21世紀に発売された対戦格闘ゲームは、『ストリートファイター ZERO 3↑』や『CAPCOM vs. SNK PRO』『鉄拳4』『バーチャファイター4』『ザ・キング・オブ・ファイターズ 2001』など。元々の市場規模が大きかったために、『ストII』発売から10年が経過してもまだ人気のジャンルだったことは確かだが、対戦格闘ゲームというジャンルの特性上、「勝てる人は続け、勝てない人は辞める」という状態が続いたため、プレイヤー人口は減少の一途を辿っていた。
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この状況は『ストリートファイター』シリーズにおいても同様で、『ストリートファイターIII』『ストリートファイターIV』『ストリートファイターV』とシリーズを重ねるごとに、新規参入するファンは少数で、既存ファンが継続して遊ぶジャンルと言っても過言ではない状態になっていた。
※筆者はアーケードゲーム基板を集めていたが、買ったのは初代『ストリートファイター』から『ストリートファイターIII 2nd.IMPACT』まで。『~3rd STRIKE』は移植版のみ購入
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1ボタンで昇龍拳が出せる『スト6』のモダン操作
そんな状況を打破するために企画された『ストリートファイター6』は、5年前の2018年から開発を開始。コンセプトは「新しいストリートファイター」。その「新しさ」とはずばり、「新規参入を増やすため」の施策。
たとえば、『ストリートファイター6』には新操作モード「モダン」を採用。これは、レバーを↓→と倒し、直後にパンチボタンを押すといった、必殺技「コマンド」の入力を簡易化できるモードだ。これまで対戦格闘ゲームの多くはコマンド入力難易度が高く、波動拳や昇龍拳のコマンド入力ができないと、マトモに戦えないという状態だった。これに対してモダンでは、△ボタンや△+→といったシンプルなコマンドで波動拳や昇龍拳を出せる。これにより初心者はもちろん、久々に対戦格闘ゲームへ復帰しようと考えている人も「それならば、やってみようかな」という気持ちにさせられた。
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モダン操作については「正確なコマンド入力をしないと必殺技が出せないクラシック操作に較べて、モダン操作はずるい」という声も一部聞こえてはいたが、モダン操作で出した技は攻撃力が20%減していることや、出せない技もいくつかあること。さらにはキャンセルの猶予フレームが短いといった欠点もあるため、発売後しばらくするとそうした不満の声は消えていった。
その一方で、『ストリートファイターリーグ』や『Red Bull Kumite 2023』、そして『Evo 2023』といった世界トップクラスの大会でも、プロゲーマーがモダン操作を選び、上位に入賞するプレイヤーがちらほらと現れた。これから数カ月後の大会では、モダン使用者がもっと増える可能性もあるだろう。
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モダン操作×人気ストリーマーという掛け算が生んだ宣伝効果
モダン操作を採用した恩恵は、新規参入や復帰勢を呼び戻す以上の効果を生むことになった。その最たる例は、ストリーマーたちによる『ストリートファイター6』配信の増加だ。
YouTuberに代表されるストリーマーたちの中には、『ストリートファイター5』のプロゲーマーとして大会に出場している人もいれば、対戦格闘ゲームなど触れたこともないというド初心者までさまざま。だが、そんな初心者でも楽しそうに対戦を楽しんでいる姿を配信していることで「自分にもできそう」という安心感が伝わってくる。
中でも特徴的だった出来事は、ソフト発売からわずか一週間後に開催されたREJECT FIGHT NIGHT。プロeスポーツチーム「REJECT」主催の『ストリートファイター6』大会で、4チームによる総当たり戦が配信された。
それに続いたのは、CR(Crazy Raccoon)カップと呼ばれる、eスポーツを開催する団体が、ソフト発売から僅か3週間後となる6月25日に『ストリートファイター6』の大会を開催したこと。この大会では5人が1チームとなり、4チームの総当たり戦で勝敗を決めた。もっとも注目すべきは、各チームの人選である。
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チーム01のメンバーは以下の通り。
梅原大吾/世界トップ級の『ストリートファイター』プロゲーマー
葛葉 /にじさんじのVtuber。チャンネル登録者数157万人
関優太 /FPSのプロゲーマー。登録者数103万人
叶 /にじさんじのVtuber。登録者数119万人
k4sen /FPSのプロゲーマー。登録者数61万人
これだけの人気ストリーマーたちが自身の配信チャンネルで練習の模様を配信し、『ストリートファイター』のプロゲーマーたちから対戦格闘ゲームの基本をコーチングしてもらう模様も配信していた。これにより、これまで『ストリートファイター』どころか対戦格闘ゲームに興味がなかった人たちですら『ストリートファイター6』に興味を持ったり、コーチングの内容を踏まえて自分も練習しようとするリスナーたちが増加していった。
FPSのプロやVtuberたちにコーチングするプロゲーマーたちも、今やYouTubeやTwitchで自身の練習風景を配信しているほか、コーチング風景もDiscordの音声を含めて配信している。つまり、コーチする側のプロゲーマーたちにもメリットがあるため、皆積極的に教えてくれるというわけだ。もちろん、『ストリートファイター6』は「縮小傾向にあった対戦格闘ゲームのプレイヤー規模を広げるチャンス」と感じてくれているという側面もあるのだろう。
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全チームが『ストリートファイター』のプロと、FPSのプロ、そして人気Vtuberという組み合わせで結成され、同程度の実力の人同士で対戦。そして勝利「数」が多いチームが勝つというルールを採用していたため、初心者のVtuberの1勝と、プロゲーマーの1勝が等価値となり、プロも初心者に対して一生懸命にコーチングする姿。そこまでのバックグラウンドを踏まえた上で迎えた大会当日の対戦を見守る熱気は、かなりのものとなった。
超人気Vtuberたちが『ストリートファイター6』を配信
『ストリートファイター6』発売から8日後には、Vtuberの壱百満天原サロメさん(チャンネル登録者数 177万人)が、トレーニングモードで練習する配信を9時間以上。
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Vtuber事務所のホロライブプロダクション所属のVtuberだけでも、CRカップに参加した戌神ころねさん(登録者数201万人)と鷹嶺ルイさん(登録者数 76.4万人)は先行プレイを配信。姫森ルーナさん(登録者数94万人)は体験版で配信したほか、ソフト発売直後には夜空メルさん(登録者数84.2万人)。6月25日には兎田ぺこらさん(登録者数227万人)も、メーカー提供枠で配信したあと気に入ったらしく、案件枠以外でも頻繁に『スト6』実況配信を継続。
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こうした配信は、『ストリートファイター6』に興味がなかった人にゲームを紹介できるという利点に加えて、これまでの対戦格闘ゲーム配信は「上手い人が、さらなる高みを目指す」配信だったのに対して、初心者が試行錯誤しながら、ワーキャーしながら対戦を楽しんでいる姿を見て、自分も参加したいという気持ちになる効果もある。
さらに、参加型配信を行っている人であれば、自宅から配信者のサーバへ行けば憧れの相手と試合できるほか、その模様が配信されるというメリットもある。人気配信者の参加型配信は、すぐにサーバが満員になってしまう現象が起きている。
ちなみに発売日当日には、芸人の狩野英孝さん(登録者数172万人)や、ハン・ジュリのcvである喜多村英梨さんも実況を配信していたのが印象的だった。
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そのほか、ゲーム好きのグラビアアイドルで結成されたチーム「G-STAR Gaming GSG」も、Twitchで視聴者参加型のチーム対戦を配信している。同チームの広報を担当されている芦澤佳純さんのTwitterやTwitchをチェックしておくといいだろう。
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対人対戦で「負けたくない」なら、対戦しなくてもいいと思えるゲーム
対人対戦で、かつ『ストリートファイター』のような1対1のゲームでは、勝利も敗北も明確だ。誰しも勝ちたいし、負けたくない。でも、対戦で勝てるレベルまで練習する時間も掛けたくない…そんな人は少なくないだろう。そういうテンションだと、「対戦格闘ゲームのソフトを買ってもCPU戦をやるだけでプレイしなくなっちゃうなら、もったいない」というネガティブな感情を抱きがちだ。しかし『ストリートファイター6』は違う。
『ストリートファイター6』には、新たに「ワールドツアー」と呼ばれる、一人プレイ専用モードが追加された。他ゲームに例えるなら、『龍が如く』のようにストーリーを進行させていくタイプのアクションアドベンチャーだ。『龍が如く』に比べるとストーリーの充実さはやや見劣りするが、それでもクリアまで30時間前後は要するし、最大の特徴は、ゲーム中に敵と遭遇した際の、戦闘シーンが『ストリートファイター6』画面になること。
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「ワールドツアー」で使うキャラは、戦闘することで経験値を稼ぎ、レベルを上げられる。このため強敵がいてもレベル上げをすれば、いつかは解決してくれる。また、手足を長くエディットすればリーチが長くなるし、全登場キャラが持つ必殺技の中から、昇龍拳とスピニングバードキックとスクリューパイルドライバーという具合に、好きな必殺技を組み合わせられる。これでアーケードモードで遊ぶキャラに較べて、圧倒的に強いキャラクターを作り出すこともできる。筆者の場合、この時点で春麗を使いたいと考えていたので、通常技も必殺技も春麗に揃えた。こうすることで、ワールドツアーを遊びながら、春麗の練習をしていることになるからだ。
とは言え、自分の腕前やレベルが足りないなどの理由で、ワールドツアーに登場してくる敵が倒せないこともある。筆者はそこで、必殺技のうち使用頻度が低い↓+△を覇山蹴から、ザンギエフのスクリューパイルドライバーへと切り替えた。これで大ダメージを与えられるため、勝率はかなり上がった。これに加えて、スーパーアーツゲージを1本使用し、弟子入りした師匠を召喚。2対1で闘えるという要素もある。
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こうして30時間程度遊んでストーリーをクリアするまでに、ストーリー上で『ストリートファイター6』に登場するキャラクターたちと出会い、技を教わり、戦闘のシステムを一つずつ教わっていく。実戦を交えながら30時間掛けた、長いチュートリアルを経験しているような印象だ。これで、プレイヤーは対人対戦を一度も経験しなくとも『ストリートファイター6』について、ある程度学んだ状態へ成長しているだろう。
一方で、ソフトを買って30時間も遊べたのだから、対戦で負けて嫌な気分になるくらいなら、ここでソフトを引退しようという決断もわかる。「ワールドツアー」で育成したキャラをさらに育て、全サブクエスト(かなりの強敵も出現する)をクリアするというのも楽しみ方の一つだ。
CPU戦で条件を達成して、『ストリートファイター』イラストを収集
「ワールドツアー」を終えたあとは、「ファイティンググラウンド」と呼ばれる、CPU戦やトレーニングモードなどがあるメニューがお勧めだ。ここでCPU戦を遊ぶと、クリア後に「イラストが追加されました」というメッセージが表示される。「イラスト」は、『ストリートファイター』シリーズのイメージイラストとして描かれてきた数10枚のイラストが「ギャラリー」メニューの中で閲覧できるようになっている。
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ギャラリーを見てみるとあちこち虫食い状態になっているが、解放条件が「CAフィニッシュを3回決める」「ドライブリバーサルを当てる」など記載されているが、「ワールドツアー」を終えただけの人には、それが何を示しているのかわからない。そこで「CAとは何か」「ドライブリバーサルとは何か」などを調べてみて、それをCPU戦で達成すると閲覧できるイラストが増える。
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拙いながらも少しずつ、何度も試しているうちに、どんどん上達している自分に気付く。CPUの難易度をEASYからNORMALに上げても、それなりに闘えるようになって。この頃になれば、ネットワーク経由の対人対戦「ランクマッチ」に挑戦しても、恥ずかしくない結果が期待できるはずだ。
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もちろん、対人対戦は絶対にしない、というポリシーを貫くのも、それは人それぞれの自由ではある。なにしろ本記事の著者も、ソフトの発売から2ヶ月が経過するというのにお恥ずかしながらまだ『ストリートファイター6』で対人対戦経験はなく、LPは「---」のままだ。
ちなみに『ストリートファイター6』のCPUは、非常に納得感のある、人間の上位プレイヤーのような動きをする。それこそ『ストII』時代のCPUレベル8は、人間の上方向レバー入力に反応して対空をしてくるといった超反応を示されたり、プレイヤーが技を出すことで敵キャラの行動を誘ったり、といった方法が「CPU攻略」とされてきた。
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しかし『ストリートファイター6』のCPUは人間が操作しているような自然な動きをするため、自分の使用キャラを敵に設定してCPUのレベルを上げると、「そのキャラを使う時の参考になる」と言われているくらい、CPUの行動は洗練されている。
『ストII』初期の8キャラは最初から勢揃い
『ストリートファイター6』は、発売時点で18人のキャラクターが使える。1991年に発売した『ストリートファイターII』に登場した8キャラクターは、全員が最初から揃っている状態だ。
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また、一定条件を達成(または課金)すると、この8キャラクターの衣装を『ストII/スパII』時代のデザインで、かつ『ストリートファイター6』のグラフィッククオリティに変更できるという要素もある。特に春麗とキャミィ、ジュリなど女性キャラの旧作コスチュームは必見だ。
※筆者は春麗とキャミィのみ課金済。550円で数キャラぶんの衣装を購入できる
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これに加えて、キャミィやディージェイという『スーパーストリートファイターII』からの追加キャラが2人。さらに、サンダー・ホークは未登場ながら、彼と同じ部族のリリー・ホークという女性キャラが登場している。
※フェイロンも未登場
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かつてスーパーファミコン版『ストリートファイターII』や『スーパーストリートファイターII』で遊んでいた方々にこそ、『ストリートファイター6』を遊んで欲しいと切に願う。
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「恋しさと せつなさと 心強さと2023」で蘇る『ストII』の記憶
最後に。『ストリートファイター』と言えば、この曲。『ストリートファイターII MOVIE』(公開は1994年)の主題歌であり、アーケード版『ストリートファイターZERO』ドラマチックバトルBGMである、「恋しさと せつなさと 心強さと」。この曲が、『ストリートファイター6』のためにアレンジされた。
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当時、この曲を聴いていた人なら、もう『ストリートファイター6』が欲しくなっている頃だと思う。
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盲目のエドモンド使いがEVOで勝利
最後に。『ストリートファイター6』には、サウンドアクセシビリティ機能というオプションがある。これをONにすると、対戦相手との距離や、攻撃の上中下段属性。さらに、各種ゲージの残量を効果音で知らせてくれる。つまりは、視覚障害者でも遊べるという配慮だ。
筆者は子供の頃からゲームが大好きで、できれば死ぬ寸前までゲームをしていたいと願っている。しかし50歳を超えた今、身体機能は衰え、同年代の知人のなかには大病を患っている人もいる。そんな時考えるのは「最低限、目と指が動けばゲームができるな」という思考。脚を切断することになっても、目と両手だけは一生使えるようになっていたい。そう思っていた。
しかし、サウンドアクセシビリティ機能があれば、視覚を失ってもゲームができることが証明された。そう考えると、EVO 2023に出場した盲目のエドモンド本田使いが予選に勝利したシーンを観て、思わずガッツポーズを取ったほど。
改めて言おう。
『ストリートファイター6』は、本当に素晴らしいゲームだ。
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