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世界のカルトカルチャーレポートvol.6 / HOTな女の子は腐っている

Tiktokを中心にソーシャルメディア上に広がるZ世代の若者の新たなセルフケアトレンドとして「#girl rot」「#bedrotting」といったキーワードが注目されている。

girl rotやbedrottingは直訳すると腐った女の子、ベッドで腐るといった意味になるが、「ベッドでダラダラ過ごすこと」を指すスラングとして使われており、ストレス解消を目的に、一日中ベッドの中にいて、ブラウジングをしたり、リラックスしてくつろぐようなアクティビティを指す。

この現象の背後には、資本主義・情報社会が生んだ「成果・達成主義的な自己実現」に疲弊してしまう燃え尽き症候群の影響があるとも言われている。 
ドイツを拠点にする哲学者ビョンチョル・ハンは、著書『疲労社会』(横山陸訳、花伝社、2021)、『透明社会』(守博紀訳、花伝社、2021)中で、現代における「透明性」「個人の自由」「成果・達成主義的な自己実現」などはネオリベラリズムの装置として機能し、私たちを取り囲むソーシャルネットワークやビッグデータがもたらす過剰な情報量に、社会や自身を疲弊させる要因が潜んでいると警鐘を鳴らしている。

ハンは自分の決断で「自由に」生きる現代の個人は、自分の欲望に捕らわれたパフォーマンスの奴隷であると説く。ヘルシーで幸せな人生を目指し、自己実現をしていると信じて、仕事でも、プライベートでも、私たちは常に何かを達成して、次に進み、自由で充実した人生を謳歌しなければならない。自己満足や承認欲求を満たすソーシャルメディアはこのサイクルを加速させる。仕事の成果、自分の考え、プライベート、感情などを自発的にオンライン上で発信し続けると同時に、他者の成果を見て、さらに自分に鞭を打つ。

私たちの社会では、何らかの生産的なアクティビティに参加したり、ヨガや瞑想といったマインドフルネスを行ったり、健康的な食事や自然の中で時間を過ごしたり、友人などとソーシャルな時間を楽しんだり、啓発的なポッドキャストを聴くといったような特定の種類の”ヘルシーな”セルフケアが支持・美化される傾向にある。

現代人が苦しんでいる疲労感は、深い自己の疲れ、コミュニティの疲れ、社会の疲れとして世界的に現れている。
ハンは著書の中で、何もしないアクティビティ=無為の論理の重要性を説いていたが、若者の中で広がるgirl rotやbedrottingのような非生産的娯楽や、自分との関係性に着目したsolo dateなどは、新たな”セルフケア”の在り方を示唆しているのではないだろうか。


girl rot / bedrotting (ガールロット/ベッドロッティング)

Tiktokを中心にソーシャルメディア上に広がるZ世代の若者の新たなセルフケアトレンド。「ベッドでダラダラ過ごすこと」を指すスラングとして使われており、ストレス解消を目的に、一日中ベッドの中で、ブラウジングをしたり、リラックスしてくつろいぐことを意味する。“健康的”で、自信に満ちており、休日は友達と出かけたりパーティーをしたり、楽しい予定で充実しているような女の子を表すHot girlという言葉もTiktokなどでトレンドになっていたが、そういったイメージとは異なり、”ヘルシー”で快適な娯楽やセルフケアとして肯定的に使われている。




solo date (ソロデート)
Solodateは、ひとりの時間を楽しむことで、自分の幸せやメンタルヘルスを考えることを重視したアクティビティ。リレーションシップなどの関係性の多様化やソーシャル疲れから“セルフケア”や“セルフラブ”を提唱する動きも高まっている中、自分と向き合うことで、自分との関係性を健康的に維持するといった考え方を大切にする傾向は「おひとりさま」や「ソロ活」とも少し異なり、よりセルフアウェアネスに繋がっているとされる。リレーションシップやソーシャルな繋がりに比重を置いて充実や幸せを量ったり、誰かとデートをしたり、アクティビティを共にするのではなく、他者の影響から離れ、意図的に自分のために時間を費やすことで、自己の発見や成長、自分を愛する気持ちに繋がり、自分との関係がより深まるという。




text / Saki Hibino

https://www.instagram.com/saki.hibino/

ベルリン・パリなどヨーロッパを拠点に活動するリサーチャー、エクスペリエンスデザイナーキュレーター 、ライター/コーディネーター。 Hasso-Plattner-Institut Design Thinking修了。デザイン・IT業界を経て、LINEにてエクペリエンスデザイナーとして勤務後、2017年に渡独。現在は、アート、デザイン、カルチャー、テクノロジー&サイエンス、エコロジーなどの領域を横断しながら、国内外のさまざまなプロジェクトに携わる。


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