天童荒太著『包帯クラブ』|読書記録 25
読書記録21冊目は、『包帯クラブ』。
ず~~~っと読みたいとも思いながら読めていなかった本!
大好きな本、宮地尚子著『傷を愛せるか』で紹介されていたのを見て、いつか読まなきゃとずっと思っていた。
概要
主人公はワラ。
現在は高校2年生。
中学時代は、と一緒に方言クラブを結成していた。
ふと訪れた病院の屋上。
そこで出会った不思議な少年ディノ。
エロおやじのようで、ゴリゴリの関西弁を使う同い年の少年。
いきなり話しかけてきたディノ。
ワラは特に意味もなく、ただふらっと病院の屋上に行きたくなっただけ。
でも、ワラがリストカットらしきことをした箇所を見つけ、
ディノは強引にも包帯を巻いてきた。
何をするんだ、と思ったワラ。
しかし、包帯が風に吹かれているのを見て、どこか心が落ち着く。
「包帯を巻いてみる」という行為に心の安らぎを感じたワラ。
包帯を巻くことによって、「わたしは、ここで傷を受けたんだ」と自覚できる。名前がないもやもやした気持ちに、「傷」という名前を与えてあげる。
きっと包帯を巻くことによって傷を一緒に認識することで救われる人はたくさんいる。
そう思って、友人のタンシオ、タンシオの子分ギモ、そして、ディノも誘って包帯クラブを結成する。
どこから噂を嗅ぎつけたのか、包帯クラブには問い合わせが殺到!
理解できなくても、その人の痛みとして受け止め、包帯を巻き、それを写真に撮って報告する。
「つらいなら、どんんあものでも傷だよって認めてあげるのを、うちらのやり方にしよう。だれもが経験することでも、やっぱりその人だけの傷なんだし。」
そして、中学時代に仲良しだったリスキ、テンポも包帯クラブに誘う。
二人と一緒に中学時代は方言クラブを結成していたのだ。
ただ、二人はピンとこない様子。
「ただの自己満足じゃない?」とテンポは言う。
リスキは中学を卒業してから家庭の事情も重なって、毎日なんとかして暮らしている。
一方のテンポは来年の大学受験に向けて、少しでもよい大学に行けるように勉強中。
リスキとテンポの間には大きな亀裂が走っていた。
結局リスキはクラブに入ることになるが、テンポは入らずに、活動が続けられる。
いろんな問い合わせにこたえて町中にまいた包帯はそのままにしていた。
次第に、包帯があちらこちらに巻かれたままになっていることに対して、クレームが走る。
すると、どうやら包帯を巻いているのはワラたちらしいと通報が入ってしまう!通報によって、解散危機に!
自分たちではないと言って、なんとか免れる。
しかしながら、クラブは解散することに。
ある日、テンポのお母さんからワラに連絡が入る。
テンポがどうやら行方不明になったらしいと。
ワラはテンポに、方言を使って連絡を取ってみた。
すると、テンポから返信が返ってきた。
テンポは無事だった。
そして、包帯クラブのメンバーがワラたちだと通報したのはテンポだったらしい。
「人生を遊ばないでよって、あなたたちの笑顔が憎かった。」
そう打ち明けられたワラ。
「テンポがしたことは、自分が傷ついていたからだと思うよ。その傷にもまいてくる。壇上から見たとき、いっぱいいたっていうテンポと似てる人たちも、やっぱり何かの傷は受けてると思う。だって、その人たちは、わたしでもあるんだよ。」
そして、不思議な少年ディノの過去を知ることに。
「何にもならないのはわかるよ。何にもならないことの証しとしてでも、巻いておこうよ。」
そんな物語が本作では過去のクラブ活動の報告として主人公視点でまとめられていた。
感想ー声を聴き、受けとめることー
本作にはケアのすべてがつまっていたように思う。
だれかが私の声を受け止めてくれる。
そんな関係性の網目が張り巡らされていたら、だれもがだれかに関係している実感を持つことができれば、この社会はせめて誰も死なずに(自殺せずに)人が生きられる社会になるのではないか。
ずっとずっとそう思っている。
読む人によっては思春期特有の痛い本だと感じるのかもしれない。
傷を乗り越える胆力のない甘えゆえに、こういう物語を必要とするのだろうと。
それでも、私は、傷をきずとして認識することが、私がわたしであり続けるためにどうしても必要なことに思えてならない。
自己が乖離してしまわないように、傷を認識して、認めることが、この社会には足りないのではないか。
大事なことに気づかせてもらう本だった。