夜のコンビニとラジオとそれから¦#読書感想文 (ネタバレなし)
久しぶりに本を1冊読了した。
読んだ本は、佐藤多佳子さんの「明るい夜に出かけて」。
作者は私の中で1位2位を争う好きな作家さん。
私は、うつ病を発症してから好きだった読書が思うようにうまくできなくなり、ほとんど本を読むことをしなくなった。
小学生のときから図書館に足しげく通い、毎週、貸出と返却を繰り返し、夏休み期間中には図書館が閉まる休み前に読みたい本をまとめて予約して借りておいて休み期間中はひたすら本の虫だった。
そんな本の虫だった私が本を読めなくなったことは衝撃的なことだった。
休み休み、1冊を数か月~1年以上かけて読むようになった。
全く読まなかった期間ももちろんある。
けれど、最近は良い予兆があって、本を読むことへの抵抗が減ってきていると感じるようになってきた。
完全に昔の調子を取り戻せたわけではないけれど確実にこれは良い兆候だろう。
なにがきっかけかは分からないけれど、ふと本を手に取って自然と読み進めることができていることに気が付いた。
長時間とまではいかないけれど、これまでと比べたら読むことが苦痛ではない。
そのことがなによりもうれしい。
本作、「明るい夜に出かけて」では富山くんという大学生が主人公で、彼は大学を休学してコンビニでアルバイトとして働いている。
富山くんには悩みがある。
それは、女性との接触恐怖症のような症状を抱えていること。
女性と触れ合うことができず、反射的に振り払ってしまったりしまうことに自分自身困惑している。
女性に対する苦手意識もある。
富山くんは、ラジオが好きで、なかでもお笑い芸人のアルコ&ピース(アルピー)のラジオの大ファンで、周りには内緒だがラジオ内で職人として活動している。
ここでいう職人とは、ラジオコーナーで出されたお題に対してネタを投稿するリスナーのことをいう。
かつて富山くんは投稿したネタをよく採用される売れっ子職人だったのだが、とある出来事がきっかけで一度職人を引退している。
それ以降、ラジオ聴いていること、ましてや職人として再びネタを投稿していることは周りに一切言っていなかった。
けれど、ある日、深夜のコンビニバイトのとき、中学生くらいの女の子が来店してきてずっと雑誌を立ち読みしていた。
その女の子がレジにやって来たときに富山くんはあることに気付く。
それは、彼女のリュックについていた「バッジ」。
そのバッジは、アルピーのラジオ職人のなかでも選ばれた者にしか与えられない称号だったのだ。
その出会いがきっかけとなり、空白の時間が動き出していく。
本作では、ラジオが大きなテーマのひとつだといえる。
アルピーのラジオは聴いたことがないけれど、作中ではそのラジオの内容がとてもリアルに描かれていて臨場感がある。
そして、ネタを投稿する人たちを職人と呼ぶことを私は本作で知った。
私自身、ラジオは気が向いたとき、本当にたまにしか聴かないのだけれどラジオは好きだ。
メインパーソナリティさんとディレクターさんとの和気あいあいとしたやりとりは聴いていてとても楽しい。
アルピーのこともあまり知らなかったけれど、詳しくない人でも本作を読むことでアルピーの雰囲気を知ることができる。
登場人物はほかに、富山くんがアルバイトしているコンビニの先輩である鹿沢さんと高校生のときのラジオ仲間である同級生の永川くんがいる。
彼らも空白の時間が動き出すなかで密接に絡んでくる。
本作はジャンルとしては恋愛小説ではなく友情や成長を感じられるものとなっている。
もちろん、恋愛要素が全くないわけではないが、ほとんど気にならない程度。
なので、男女問わず、年齢問わず、おすすめしたい1冊である。
わりとリアリティーが強い作品になっていて、アメーバピグなども登場する。
コンビニバイトの先輩である鹿沢さんは歌い手として活動していたりする。
現代の生活要素が組み込まれた作品だと感じた。
富山くんは陽キャではないけれど、人に対するとても誠実な人柄が魅力的で、少しずつ変わろうとしていく姿に胸が打たれた。
富山くん自身が自ら変わっていくのではなく、周りの登場人物たちも何かしら悩みなどを抱えていて、ともに相乗効果となって変わっていく姿が作中で自然に描かれているのが好印象だった。
佐藤多佳子さんの本はどれも読んでいて気持ちが良く、登場人物がそれぞれ魅力的だと思える。
作者自身がアルピーファンということもあって、好きという気持ちが読者にも伝わってくる。
ラジオがテーマの小説は読んだことがなかったけれど、ラジオが起点となって展開してく人間関係とそれぞれの登場人物の成長が魅力である1冊。
自分が知らなかった世界を知る良いきっかけにもなった。
気になる方は是非ご一読あれ🦛🦛
おわり